“うちの”はるかはこんな子です

〜生活習慣〜







LIGHT OF THE BAR ★ごはんは作れる。シンプルが得意。
 ごはんは作れる。ただし、本人は食べる気があまりないので(めんどくさかったり食べられなかったり)、みちるが作って無理矢理食べさせる場合が多い。
 やれば工程の多い料理も上手に作るが、一番光るのは焼く、ゆでる、痛めるといった基本の基本。焼いただけゆでただけそれに塩をふっただけ、のものが、火加減等の絶妙さにより、おいしい。

 【文例】
 走っていくはるかの足音を背に、みちるは食器をキッチンに運ぶ。ノルマの分量は食べ終えたのか、今日はジャガイモや玉ネギを焼いたものを幾切れか残していた(ピーマンは全部残さずに食べていた)。はるかの作った食事はどうも、焼いただけ、ゆでただけ、に、塩か醤油をふっただけ、という、単純明快なものばかりのような気がする。はるかが栄養に細かく神経を使っているようなので口は出さなかったが、味気ない食事をしているのでは、と常々みちるは心配していたので、皿の上の玉ネギを一切れ取って、食べてみた。
「…おいしいじゃない」
透明にしっかり火の通った玉ネギは玉ネギ特有の甘さが出ていて、しかもさくさくとした歯ざわりがちゃんと残っていた。みちるは思わず、隣のジャガイモにも手を出した。冷めていてもほくほくしたおいしさは変わらず、ジャガイモらしい味がした。こんなに素材のおいしさがよくわかるものを食べてたなんて、心配して損をしたわ、とみちるは頬をふくくらませた。いつか、一緒に食事をとれるようになったら、絶対はるかに作ってもらわなくちゃ。そのときのことを考えると、今から楽しみだった。
(『煌く様な生と死の戯れ』掲載『がんばれの橋』)



LIGHT OF THE BAR ★すぐに眠れなくなる
 悩みごとがあったり、あまり疲れすぎていたりするとすぐ眠れなくなる。
 これもみちるがまわっちゃう原因。




 【文例】

〃眠り薬〃
そう言って薬袋を見せた、はるかの笑顔がかなしくよみがえっていた。
 あの薬は本当に眠り薬だった。夢も見ない、深い眠りをもたらす、薬だった。
それははるかにとって、必要な薬だったのだ。人と優しく抱き合った後の暖かい眠りの中でさえ悪夢に脅かされるはるかにとって、どうしても必要な薬だったのだ。
 ここではるかを目覚めさせたら、またはるかは眠りから遠ざけられてしまうだろう。再び眠りにつくことはきっと、はるかに勇気と、苦しい決断を強いることになるのだろう。それに耐えられないほどはるかが弱いとはうさぎは決して思わなかったが、はるかが誰にも告げずにそれに耐えてしまうだろうことが、うさぎには我慢できなかった。
 せっかく、せっかく、眠れたんだから。
悪夢だけを、はるかさんの眠りから、追い払いたい。
 うさぎはそっとベッドを抜け出して、はるかのスーツのポケットを探った。薬袋はまだ、そこに隠されていた。うさぎは袋から十錠の綴になっている青い錠剤のシートを引き出し、銀の箔を割って手のひらに一個、取り出した。
 うさぎの紅茶に落とされたのはその錠剤一個のほんの小さな小さなかけらに過ぎなかったことを、うさぎは初めて、知った。あの深い深い眠りを思うと、この一錠をいちどきにのんでしまうということが信じられなくて、うさぎは薬袋に書いてある文字を、穴のあくほどみつめた。しかし、やはりその青い錠剤は、一回に一錠、のむためのものだった。こんなに強い薬にたどりつくまでにはるかが経てきた過程を思うと、うさぎは泣きたくなった。



LIGHT OF THE BAR ★眠れないときのためのアイテムその1:『漕げよマイケル』  みちるがヴァイオリンがヴァイオリンで弾く『漕げよマイケル』には、はるかに対する催眠作用が確認されている。低音ほど効果大。




 【文例】
 みちるの言葉に、はるかはちょっと決まりが悪そうに笑った。
 そう、はるかは、みちるがヴァイオリンで弾く『漕げよマイケル』を聴くと、それはもうよく眠ってしまうのだった。
 そもそも最初になぜみちるが『漕げよマイケル』などという、どちらかというと通俗的な曲を弾いたのか、二人とも忘れてしまった。映画の話でもしていたのか、アメリカの話をしていたのか、黒人霊歌について話していたのか、とにかくみちるは手にしていたヴァイオリンで『漕げよマイケル』の旋律を繰り返し奏でた。気がつくと、はるかはソファの上で正体もなく眠り込んでいた。沈黙が迫り、破滅の戦士を殺さなければならず、神経を極限まですり減らしたはるかが眠れない夜を重ねていた頃のことだった。藁にも縋る思いではるかの枕元にヴァイオリンを持ち込んでは『漕げよマイケル』を弾いた幾つもの夜を、みちるは決して忘れることはできない。
 繰り返しによる経験と、とにかく一秒でも早くはるかを眠らせたいという必要からみちるが学んだのは、低音で奏でた方がはるかはよく眠る、ということだった。確かに、耳元でヴァイオリンの最高音をかき鳴らされて眠れる人もそうそういまいが、はるかに対するマイケルの低音の威力には目を見張るものがあった。ヴァイオリンの四弦の中で一番低いG線を駆使して、みちるは毎晩毎晩『漕げよマイケル』を弾いた。演奏の回数と祈りの込め方に比例して、あの頃はG線がよく切れた。絶対に切らしてはならないからとG線を大量にまとめ買いして、楽器店主に目を丸くされたこともあった。
(『大管絃楽の雲の彼方』掲載『C線上のマイケル』)



LIGHT OF THE BAR ★眠れないときのためのアイテムその2:ビトウィーン・ザ・シーツ
 ナイトキャップ(寝酒)向きとされているカクテル〈ビトウィーン・ザ・シーツ〉を飲むと眠くなる。ただし楽しい気持ちの限定。
 〈ビトウィーン・ザ・シーツ〉は寝酒だ! というはるかの信念(思いこみともいう)は固きこと岩のごとしで、ベッドに入ったらすることは…というみちるのうさんくさいささやきかけにも屈せず、オトナの雰囲気を求めるみちるの目の前でも眠ってしまう。

 【文例】
「今作ってるのは、ビトウィーン・ザ・シーツっていうカクテルなんだ」
「意味深な名前ですね」
「って、思うだろう。でもこれはナイトキャップ、寝酒向きとされてるんだ。
シーツの間にはさまって、ぐっすり眠ろう、そういうカクテル」
はるかはナイフを使って、器用にレモンを手の中で半分に割り、スクウィーザーで手早くジュースをしぼった。ブランデー、ラム、コアントロー、レモンジュースをシェーカーに注ぎ、見事な手つきでシェークする。
「でも、ちょっと艶っぽい名前だから、そういう暗示をかけることもできる。カクテルはエピソードも楽しむ飲み物だし、それには真偽なんて、どうでもいいことだからね。
みちるの話はさすがに巧みだったな、でも、これは寝酒だっていう僕自身の自己暗示のほうが強かったから、そのみちるの話を聞いてるうちに、眠っちゃったよ。僕のみちるに対する数少ない勝利のひとつってところかな」
大人の雰囲気を作ろうとしている最中に、はるかに眠り込まれたみちるの苦笑を思い描いて、美奈子はおかしくてしかたがなかった。思わず吹き出した美奈子の目の前で、はるかはカクテルグラスに、オレンジ色のカクテルを注いだ。
(『生れたばかりの状態で持続する命』掲載『元気な子供になるために Between The Sheets』)



  守峰は現在もがんがんはるか小説を書き続けているため、設定はどんどん増える見込み。
  このコーナーも今後とも増補アップデートしていきます!