最高のプレゼント

 

誕生日だからってこんなプレゼントは心外だ。
この日誕生日を迎えた俺は、友人たちの悪ふざけのプレゼントに困惑していた。
そのプレゼントというのは、今目の前のベットに素肌をシーツにくるんで少々おびえた瞳でこちらを見つめる若い娘だった。
俺は自慢じゃないが女に不自由したことが無い。
伯爵という身分のせいもあるかもしれないが、容姿にも自信がある。
人からまるで炎のようだと形容される赤い髪に、薄い氷のような青い瞳を持つ俺を世の女性たちはいつもうっとりと見つめ、甘い言葉を掛ければすんなりとベットに誘うことだってできた。
そんな俺の誕生日を悪友たちが祝ってくれるというので、今夜俺は友人の屋敷に行ったのだ。
そして馬鹿騒ぎのバースデーパーティーが済むと、友人の一人から街中にある彼の借りているこの部屋の鍵を渡されたのだ。

「取って置きのプレゼントを用意してあるんだ。俺のアパートメントに行ってみろよ。どうせお前の屋敷に帰る道の途中だろ?」

そんな言葉とともに渡された鍵を握り、ほんの少し刺激された好奇心と今夜の酒のせいもあって俺はこの部屋のドアを開けたのだ。
そして暖かくしつらえられたこの一室に足を踏み入れ彼女を見つけたのだった。

「お待ちしてましたわ。だんな様。」

大きなベットにシーツに包まる娘はそういって俺を迎えた。
彼女はどう見てもまだ十代半ば16・7にしか見えなかった。
金色の蜂蜜色の髪をたらし、吸い込まれるくらい美しい緑の瞳はびっくりするくらい大きい。
それがさらに彼女の年齢を若く見せている。
彼女がいったい誰なのかはわからなくても、彼女の職業が何なのかはわかっている。
そう・・・・彼女は娼婦だ。
彼女がどうしてその若さでそんな職業に身を落とさねばならなかったのかその訳は知らないが、だからといって俺が彼女を必要としなければならない理由は無かった。
何度も言うが俺は女に不自由したことは無い。
それもわざわざ娼婦を買うなどという必要はまったく無い。
ましてこんなに若い娘など・・・・・・。
いったい悪友たちは何を考えてこんなプレゼントを用意したのだろう。
俺はあまりの不快感から眉を寄せ、眉間に深いしわをつくった。
その表情を見た彼女の顔色が曇る。

「私ではお気に召さないのですね・・・・。」

少女は今にも泣き出すのではないかと思うほどその大きな瞳を潤ませた。

「いやそんなことは無い・・・・君はかわいらしいよ・・・・だが俺はこういことは・・・・好きじゃない。」

彼女の涙を恐れて俺はあわててそう言った。
だがそれで彼女の表情が和らぐわけではなかった。

「じゃあ水揚げ料はやっぱりお返ししなくちゃいけませんか?」

彼女が発した言葉に俺は驚いた。
水揚げ料?
では彼女は・・・・・・。
幼すぎるくらいだと感じてはいたが彼女の言葉で彼女は今回の仕事が初めてであり、そして男に抱かれるという行為自体も初めてなのだということがわかった。
彼女のように美しく若い娘の水揚げとなれば、きっとその料金も法外なものだっただろう。
だからこそ悪友たちは俺の誕生日プレゼントにしようなどと言う途方も無い思い付きをしたのかもしれない。
だがだからと言って俺が彼女の水揚げをしなくちゃいけないとは思えなかった。
どうせ友人たちが俺のために払った水揚げ料なのだから俺が彼女を抱かなかったとしても返してもらう必要など無いはずだ。

「いや、お金は返す必要はないと思うよ。大体これは俺の友人たちからの誕生日プレゼントらしいからな。」

彼女の心配を和らげるつもりで俺はそう言ったが、彼女の瞳のかげりは消えなかった。

「そう・・・・・じゃあ私は今度私を買うホーン男爵に水揚げを頼まなくちゃいけないのね。」

ボソッと独り言をつぶやく彼女の言葉に俺は凍りついた。
ホーン男爵だって?
あの有名な好色爺のホーン男爵にこの娘は買われていくというのか。
大体ホーン男爵はすでに60を超える老人ではないか。
俺はまだ少女といってもおかしくない、この若い娘の白く柔らかな肌の上を這いずり回る、ホーン男爵の醜いしわだらけの指を想像して激しい嫌悪感を抱いた。

「君はホーン男爵がどんな男か知っているのか?彼はもはや老人に近い年齢だぞ。」

俺の憤る言葉に彼女は驚いたようだった。

「ええ。彼のことはよく知っていますわ。私がこんな風に身を売らねばならなくなる前からしつこく言い寄っていたのですもの。」

彼女の声は冷静だった。
ホーン男爵と以前からの知り合いだという彼女に俺は急に興味を覚えた。

「男爵と知り合いだった?君はいったい・・・・・・。」

「私はリモージュ男爵の娘でアンジェリーク。私の父は先月賭博で作った多額の借金を残したまま他界してしまったの。家屋敷はもうすべて売られ、それでもまだ残っている借金を返済するのに私ができることはもはやこんな方法しかないのよ。」

俺の疑問を察したように彼女は皮肉交じりの声でそう告げた。
リモージュ男爵のうわさは俺も聞いたことがある。
相当な賭博好きで、あちらこちらに多額の借金をして家をつぶしたと聞いていた。
だが彼の借金のためにこんなうら若い娘が娼婦にならねばならないとは・・・・・。
ショックを隠しきれない俺を彼女はすがるように見つめた。

「あなた・・・・フレイアス伯爵でしょ?その赤い髪・・・・社交界にはまだデヴューしてなかったけど噂であなたのことは知ってるわ。あの・・・・お願い・・・・私の水揚げ・・・引き受けてくださらない?私は娼婦になったのだから文句は言えないんだけど初めての相手にホーン男爵はやっぱり嫌なの。せめて社交界で有名なプレイボーイのあなたが相手ならこれから娼婦として仕事をしていてもいい思い出としてやっていけそうな気がするの。だからお願い・・・・私を抱いてくれないかしら。」

切実な彼女の願いを俺はどうしたらいいのか一瞬悩んだ。
気の毒な彼女を娼婦なのだからという理由で抱かないのはあまりにも無慈悲なような気がする。
でもだからといって、うら若い娘をこんな理由で抱いて彼女の純潔を奪ってしまっていいものか躊躇する気持ちも有った。
その気持ちがせめぎ合う内に、彼女は俺の沈黙を拒絶と受け取ったようだった。

「ご無理をいってしまったみたい・・・・。そうよね・・・私のような女を抱かなければいけないほどあなたは女性にお困りじゃないだろうし、私のような平凡な容姿ではあなたに失礼よね。ごめんなさい・・・甘えてしまって。今言った事は忘れてください・・・・」

そんな彼女の言葉に俺の中の雄が刺激された。
俺はベットにシーツをまいて腰掛ける彼女を乱暴に引き寄せると、その桜色に色づいた唇を強引に奪った。
キスさえも初めての経験なのだろう・・・・彼女は驚き俺のキスに答えることができないで戸惑っていた。
そんな彼女の唇をついばんだり舌でなぞったりして俺は彼女の唇がゆっくり開くのをそくし、おずおずと開かれた唇の間からすばやく舌を挿入して彼女の甘く柔らかな舌を絡めとった。
彼女ののどが欲望の声を発して振るえるのがわかった。
今まで右手で抑えていたシーツが音も無く床に落ち、彼女の白い肢体があらわになった。
細く小柄な体つきではあったが、胸のふくらみは十分女としての存在を俺に意識させるくらいに豊かだった。
俺は彼女の唇を冒しながらその美しい胸のふくらみに右手を伸ばした。
ゆっくりと優しく揉みしだくと彼女がまた歓喜の声をのどの奥で発した。
そして次第に指を胸の頂に伸ばし、指で先端をつまんで優しくこねた。

「ああっっっ!」

彼女の背が弓なりにしなる。
俺は彼女の声が聞きたくて彼女をキスから解放すると、彼女の首筋を舌で攻めた。
ぬらぬらと欲望の軌跡を彼女の白い首に残しながら俺は胸の頂を目指す。
そして目的の果実を含んだとき彼女が両手で俺の肩にすがりつき、その細い体を支え快感に体を震わせた。
俺は彼女の腰を抱き、ゆっくりとベットに彼女を押し倒した。
彼女の金色に輝く蜂蜜色の髪が白いシーツに広がった。
俺は急いで自分が着ていたものを脱ぎ捨てると再び彼女に覆いかぶさった。
ほんのりと色ずく頬と夢見るように俺を見上げた緑の大きな瞳に俺は愛おしさを覚えた。
彼女は美しかった。
誰にも汚されていない降り積もった雪のように穢れを知らない。
その雪に俺が初めて足跡をつけようとしているのだ。
そう思ったとたん彼女に対する思いがどうしようもなく強まるのを感じた。
このまま彼女を娼婦になどさせておくことなどできない。
俺以外の男に彼女穢されたくない。
俺はそう感じる自分が一瞬だけ信じられなかったが、でもその思いは今まで誰にも感じたことが無い強烈なものだった。
今まで数え切れないくらいの女を俺は抱いてきたが、俺の気持ちがこれほどひきつけられたことは一度としてなかった。
俺は今まで遊びの恋に満足し、一時の快楽に身を投じてきた。
だが今彼女に対して感じているこの思いはかつて経験したことが無いくらい強烈で、そして激しかった。
彼女の体に自分の所有印を押すように赤いバラの花びらのような跡をいくつもつける。
そして彼女に俺を受け入れやすくするために愛撫の限りを尽くして高みへといざなう。
最初の飛翔を迎えたのを確認して俺は彼女の中へと押し入った。
始めはひどく狭く感じられてそれ以上進むことがためらわれたが、そこをさらに押し進んで俺はやっと彼女にすっぽりと包まれた。
なにやら言いようの無い充実感と幸福感が俺の心を満たしていった。

「痛くは無いか?」

彼女の純潔を今奪った俺は、彼女の痛みがひどいものでないことを祈った。

「平気。聞いてたほどひどくないわ。それよりもなんだかとっても素敵な気分よ。ありがとう伯爵。」

彼女の表情は今とても輝いていた。
その笑顔に俺はさらに惹き付けられずにはおられなかった。

「伯爵じゃない・・・・オスカーだ。オスカーと呼んでくれ。」

「オスカー・・・・・オスカーありがとう・・・・。」

柔らかで優しげな彼女に包まれながら彼女がささやく俺の名前を耳にするのはとても心地よかった。
そして彼女をもっと喜ばせたいという気持ちと、自分自身がもはやこれ以上抑えられなくなるつつある衝動を解放したくて俺はゆっくりと動き始めた。
最初はまだ痛みを感じて眉が寄せられた彼女の表情が、彼女を貫くたびに徐々に快感の表情へと変わっていった。

「ああ!オスカー!オスカー!!」

「アンジェリーク!!!」

俺たちはともに解放された。
そのとき俺には彼女とのこの交わりがただ単に一時のものにすることに耐え難いものを感じていた。
彼女を永遠に自分だけのものにしておきたい。
彼女をもはや手放せる気分ではなかった。
そう・・・・俺は今恋に落ちてしまったのだ。
それも今までに感じたことも無く強烈な恋に。

「アンジェリーク・・・・・俺は君をこのまま手放したくない・・・・。娼婦なんて辞めて俺の妻になってくれないか?」

俺の言葉に彼女は驚きのまなざしを向けた。

「ああオスカー・・・・でも私には多額の借金があるのよ?私なんかにそんなことを言ってはいけないわ。」

彼女の瞳に涙が溢れ出た。
でも俺は諦める気になんかならなかった。

「幸い俺は金にも不自由していない。俺の妻になってくれ。君ほど俺の心をひきつけた女性にはあったことが無い。君をどうやら愛してしまったんだ。」

そういって俺は彼女を抱きしめた決して放さないと伝えるために・・・・・。

 

友人たちが結婚した俺たちの披露宴に駆けつけてきた。

「オスカー。おめでとう!お前ならきっと彼女を幸せにしてくれると思ってたよ。」

鍵をくれた悪友がそういって俺の肩をたたいた。

「どういうことだ?お前は彼女を知ってたのか?」

驚く俺にやつは片目を瞑って微笑んだ。

「俺は男爵令嬢だった頃の彼女の崇拝者の一人さ。天使のような彼女が不幸になっていくのは耐えられなくて、お前だったら彼女を任せられると思ったのさ。実際彼女はすばらしい天使だったろ?」

「ああ。彼女ほどの天使は居ない。」

「彼女を幸せにしてやってくれ。」

悪友の心からの願いに俺は深くうなずいて、傍らに歩み寄ってきた愛しい妻を抱き寄せた。
こうして俺はこの年、アンジェリークという人生の伴侶を最高のバースデープレゼントとしてもらったことに深く感謝したのだった。

 

END