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アンジェリークが目覚めたとき、そこは自分のベッドの上だった。
傍らには心配そうに母親を見つめるヨシュアの丸い顔があった。

「ママ、大丈夫?」

ヨシュアはその小さな手をアンジェリークの頬に当てて心配そうに見つめていた。
そんな我が子の顔を見てアンジェリークは熱いものがこみ上げてきて、瞳が潤んだ。

「ママは大丈夫よ。ごめんね心配かけちゃったねヨシュア。」

そう言ってアンジェリークは、ヨシュアの燃えるような赤い髪をなでた。
すると突然寝室のドアが開き、大柄な中年の婦人が手に水の入った洗面器を持って入ってきた。

「あら、目が覚めたかい?驚いたよあたしゃ、ちっちゃなヨシュアがうちにきてさァママが死んじゃったって言うんだよ。慌てて来てみたらさァあんたが気絶してるじゃないか。一体どうしちまったんだい?」

婦人は身振り手振りで話ながらアンジェリークの顔を覗きこんだ。

「ごめんなさい、マギー。心配かけちゃったわね。でも大丈夫よ。ありがとう。」

そういいながらもアンジェリークの顔は暗い。

「別に気にすることじゃないよ。隣じゃないか、困ったときはお互い様だよ。それより何があったんだい。差し支えなければ話してごらんよ。あたしに出来ることなら力になるよ。」

うつむいたまま涙を浮かべるアンジェリークにマギーは優しくわけを聞いた。

「オスカーが、オスカーが戦死したって・・・」

最後まで言葉をつづることなくアンジェリークは嗚咽を漏らした。
マギーは泣きじゃくるアンジェリークの傍らに腰掛けて、彼女をいたわるように抱き寄せた。
あまりの哀しみようにマギーは掛ける言葉も見つからず、ただただアンジェリークを抱きしめるしか出来なかった。
彼女が落ち着くのを待ってマギーはやっと慰めの言葉を掛けることが出来た。

「アンジェ。だんなのことは気の毒だったね。でもいつまでも泣いてちゃだめだよ。だってあんたにはその大事なだんなの忘れ形見のヨシュアがいるじゃないか。へこたれてちゃだめだよ。ね!」

マギーの言葉にアンジェリークはうなずきながらもまだ悲しみの淵から立ち直ることは出来なかった。
マギーはそんなアンジェリークの様子を見て仕方ないなぁというように溜息をついた。

「今日はゆっくり休みなよ。後はあたしがやっとくからさ。」

マギーはそう言うと任せて!というように微笑んで、寝室を出ていった。

 

それからのアンジェリークはヨシュアのために努めて明るく振舞っていたが、一人っきりになるととめどなくあふれる涙を止めることは出来なかった。
そんな彼女を周囲も気に掛けていたが、彼女の哀しみが癒えることは無かった。
そんな日がどれくらい続いただろうか、オスカーが出征していた星間戦争が双方痛みわけで、和平協定が結ばれることになった。
アンジェリークはその結果に喜びよりもこんな結果になるなら戦争などしなければいい、こんな愚かな戦争のためにオスカーが命を落としたのかと思い悔しさがこみ上げて涙が止まらなかった。
アンジェリークの心は次第に開かれなくなり、ヨシュア以外に笑顔を見せなくなっていった。

 

そんなある日、アンジェリークはいつものようにヨシュアを庭で遊ばせながら何とはなしに哀しい瞳を澄み渡る青い空に向けていた。
そんな彼女に背後から声がかかった。

「久しぶりだな。アンジェリーク。オスカーは息災か?」

聞き覚えのあるその声にアンジェリークは驚いて振り向いた。

「クラヴィス様・・・。」

そこには5年前とまったく変わらない姿の闇の守護聖が立っていた。
アンジェリークはオスカーと幸せだった頃をよく知る同僚の出現に戸惑いとそして今まで自分に降りかかった不幸を思って涙があふれてとまらなかった。
クラヴィスはそんなアンジェリークの反応に驚きを隠せなかった。

「どうした。おまえらしくないな。何をそんなに涙するのだ。」

懐かしい低くて広がりのあるクラヴィスの声はアンジェリークの閉ざされていた心を徐々に溶かしたようだった。
アンジェリークはワーと声をあげてクラヴィスにしがみつき泣きじゃくった。
クラヴィスはそんなアンジェリークを抱きとめ優しくいつまでもその光りを束ねたような金の髪をなでていた。

 

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