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クラヴィスの腕の中でひとしきり泣いたアンジェリークはやっと落ち着きを取り戻した。
そして自分がやっている行為に驚き、慌ててクラヴィスから体を離した。

「ごめんなさいクラヴィス様。せっかく訪ねて下さったのに泣いたりして。」

涙をぬぐうアンジェリークを見つめながらクラヴィスは心が落ち着かなかった。
オスカーと結婚したときアンジェリークは間違い無く幸せの絶頂だった。
それなのに経った五年、いやクラヴィスにとってはまだ半年ぐらいの月日だったが、なぜアンジェリークは泣き暮らさねばならないのかクラヴィスにはまったく解からなかった。

「アンジェリーク、オスカーはどうした。息災か?」

クラヴィスの言葉にまたもやアンジェリークの瞳から涙がこぼれおちた。

「どうした?なにがあったのだ。」

なおもたずねるクラヴィスにアンジェリークは真実を話す気になった。

「オスカーは星間戦争の犠牲となり戦死いたしました。」

そう言ってしまってからまたアンジェリークはオスカーの死という事実に絶えられずに嗚咽を漏らした。
オスカーが死んでしまったという事実は少なからずクラヴィスにショックを与えた。

「そうであったか。おまえも辛かっただろうな。思い切り泣くがよい。」

そう言ってクラヴィスはまたアンジェリークを優しく包んだ。
アンジェリークはクラヴィスの優しさに甘えるように泣きつづけた。
それをいつまでもクラヴィスは見守った。

 

やっと落ち着きを取り戻したアンジェリークはクラヴィスの訪問理由が気になった。

「クラヴィス様?わざわざこのような辺境の惑星に一体なんのご用でしたの?」

アンジェリークの質問にクラヴィスは自嘲するかのような笑みを見せた。

「オスカーと同様、私のサクリアはとうとう枯渇したようだ。」

クラヴィスの言葉にアンジェリークは驚きと戸惑いが隠せなかった。
守護聖は誰もがいつかは訪れることだとわかってはいたが在位の長かったクラヴィスのサクリアの枯渇はアンジェリークの頭の中にはあり得ないことのように思っていた。
クラヴィスはアンジェリークのそんな思いを察したのか、静かに微笑んだ。

「以外か?」

そんなクラヴィスの問いにアンジェリークは戸惑っていた。



クラヴィスにとてアンジェリークは忘れ掛けていた思いを呼びさました存在だった。
クラヴィスは昔経験した失恋の痛手のために心を閉ざした日々が続いていたが、アンジェリークが女王候補としてやってきてから徐々にではあるが閉ざしていた心を開くことができた。
そんな矢先である、アンジェリークがオスカーと恋仲となりクラヴィスは芽生え始めた思いを人知れず封印したのだった。
その封印した思いが今また湧き上がってくるのを感じていた。
アンジェリークはそんなクラヴィスの思いにはまったく気づいてはなかったただ知己のものが訪ねてくれたことだけがうれしかった。


そこへ今まで遊んでいたヨシュアがアンジェリークに駆けよった。
そして不思議そうにクラヴィスの見つめると、

「このおじちゃんだあれ?」

と、アンジェリークのスカートの裾を引っ張りながら尋ねてきた。
アンジェリークはヨシュアの頭をなでながら優しく微笑んだ。
そしてしゃがんでヨシュアの肩に手をかけると目を細めながらいった。

「ヨシュアこの方はね、パパの昔のお友達よ。クラヴィス様、この子がオスカーの忘れ形見のヨシュアです。」

そう言ってからアンジェリークはまたもや涙があふれてきた。
その様子にクラヴィスは心が痛んだ。

「アンジェリーク、私はまだ退位して間もないので世辞にうとい、出来ればだがしばらくこちらに滞在したいがよいだろうか。」

クラヴィスが自分を気遣ってこのような申し入れをしてくれたことがアンジェリークにはよくわかった。
彼は一見、難しそうな人物に見えるがじつは内面は誰よりも優しいことをアンジェリークは知っていた。
アンジェリークはクラヴィスの申し出を断ることが出来なかった。
それは自分が辛かったというよりもオスカーのことをよく知っている人に側にいて欲しかったのかもしれない。
オスカーと過ごした日にはかけがえのない年月であったが、オスカーがいなくなって3年余り、オスカーのことをよく知っている人はそれほどいない、だからオスカーのことをよく知っているクラヴィスの存在はアンジェリークにとってオスカーが存在していた時間を確かめることができた。
聖地でオスカーにあってからアンジェリークにとってオスカーはこの世のすべてだった。
そのオスカーを失ってアンジェリークの心の平安はないに等しいものだった。
ただ、ヨシュアの存在だけがオスカーを確かめる手段だったのだが、ヨシュアの記憶にはオスカーはいない。
だからオスカーのことを語れる存在をアンジェリークは渇望していたのかもしれない。
だからアンジェリークはただクラヴィスに滞在を許す返事をしたのだった。

 

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