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それから2年の月日が流れヨシュアは6歳になった。
クラヴィスは今までと変わらないようにアンジェリークと接して、あの日の夜告白したことなどなかったよう振舞っていた。
アンジェリークはそんなクラヴィスの気遣いがうれしかった。
オスカーが戦死した知らせが来たあの日から3年、アンジェリークもだんだんオスカーの死を受け入れ始めていた。
オスカーが死んでしまったという事実をアンジェリークが受け入れることはかなり困難なことであったが流れる時間がそれを容易にしていくことがわかった。
アンジェリークはそろそろクラヴィスとのことを真剣に考えなければならないと思い始めていた。
クラヴィスは十分待ったとアンジェリークは思った。
彼の優しさや思いやりをアンジェリークはありがたいと思ったし、それが今までオスカーの死を受け入れられないアンジェリークが何とかやってこれたのもクラヴィスのおかげだと思っていた。

 

今日もクラヴィスはヨシュアに世界のことわりを語って聞かせていた。
ヨシュアはすっかりクラヴィスになついていてもうまるで本当の親子のようだ。
そんな様子にアンジェリークは思わず微笑みを浮かべる。
もうクラヴィスを持たせることはできない。
そろそろ彼を受け入れなければならないかとアンジェリークは考え始めていた。

「ヨシュア。ごめんなさいクラヴィス様と話があるの。悪いんだけれどお外で遊んでくれないかしら。ごめんね。」

ヨシュアは不思議そうな顔をしながらもコクリとうなずくと玄関のほうへ駆けていった。
残されたクラヴィスは何か決意したような顔のアンジェリークを訝しげに見つめた。

「クラヴィス様私はあなたに本当に感謝しています。オスカーがいなくなって私はもう立ち上がれないを思っていました。でもあなたがいてくれたおかげで私はこうして生きていられます。まだあなたは私のこと好きでいてくれるでしょうか。」
「アンジェリーク…。私の気持ちはあの日から少しも変わっていない。私を受け入れてくれるのか?」
「クラヴィス様あなたとともに生きていきたいと思います。」

その言葉にクラヴィスはアンジェリークを力強く抱きしめた。
そして彼女を熱く見つめ、そのやわらかな唇にくちづけた。
アンジェリークもクラヴィスの背中に手をまわしくちづけに答えた。
彼女の様子に勇気づけられたクラヴィスはさらに深くくちづけた。

「クラヴィス様…。」
「クラヴィスでよい。」
「クラヴィス、愛しています。」

 

そのころヨシュアは庭で一人ボールを蹴って遊んでいた。
そしてふと柵の外に目を向けるとそこには見知らぬ男が立っていた。
その男は何故か優しいげな瞳でヨシュアを見つめている。
不思議に思ったヨシュアは彼に近づき尋ねた。

「おじさんは誰?なんで僕を見ているの?」

男は悲しげに微笑むと反対に尋ねてきた。

「君はヨシュアかい?」
「うん。おじさんは?」
「おじさんは・・・そうだなママの知り合いかな?ママは元気?」
「うん。最近は元気だよ。クラヴィス叔父さんがきてからママは元気になってきたんだ。」

その言葉に男は動揺した。
そしてすべてを理解したように哀しげに目を伏せた。
ヨシュアは不思議そうに男を観察した。
男は燃えるような自分と同じ赤い髪をして何処までも澄み渡るような薄い青い瞳をしていた。
背が高く均整のとれた体で軍人を思わせた。

「おじさんは軍人さんなの?」

ヨシュアは黙って立ち尽くすその男に尋ねた。

「そうだ。でも今は違うよ。退役したんだ。あそんでるところをわるかったな。おじさんはもういくよ。ママを大切にな。」
「うん。さよならおじさん。」

男はヨシュアを優しく見つめ、手を少しだけ上げて別れを告げると、寂しげに去っていった。
ヨシュアは何故か彼のことが気になって急いで母親に男のことを告げに行った。

 

家の中ではアンジェリークとクラヴィスが寄り添い、自分達の行く末のことを話し合っていた。
そこへヨシュアが慌てて入ってきたので、アンジェリークはヨシュアにもこれからのことを話そうと思った。

「ヨシュア。ママの話を聞いて欲しいの。実はママ、クラヴィス叔父さんと結婚しようと思うの。ヨシュアは賛成してくれる?」
「うん。ママがいいのなら僕は賛成だよ。クラヴィスおじさんのことも僕は大好きだし。」

その言葉にアンジェリークとクラヴィスは安堵のために微笑んだ。

「それよりママ、今変な叔父さんが来たんだよ。」
「変なおじさんって?」
「うん。ママの知り合いなんだって、僕と同じ真っ赤な髪で、薄い青い目をした背の高い叔父さんだよ。」

それを聞いたアンジェリークは驚きのあまり声を失い、そして慌てて表へ駆け出した。

「オスカー!オスカー!」

アンジェリークは狂ったように夫の名前を呼んだが、もうそこにはオスカーの姿は無かった。
アンジェリークは崩れ落ちるように泣き伏した。

 

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