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次の日クラヴィスはもうアンジェリークのもとにいることはできないと思い、この家から出ていく用意していた。
アンジェリークのことをあきらめたわけではない、だが彼女が自分を受け入れてくれないことがはっきりした今、もう彼女のもとに留まることはできないし、自分が耐えられそうもなかった。
まだ朝早いうちからクラヴィスは荷物をまとめそっとこの家を後にした。

 

そのころオスカーは一晩ずっとアンジェリークとクラヴィスのことを考えて嫉妬に狂っていた。
夜が開けてオスカーはいても立ってもいられず急いでアンジェリークの元へと向かっていった。
そして家のそばまで来てクラヴィスにであったのだった。

「クラヴィス様…。」

突然現れたオスカーにクラヴィスは心穏やかにはいられなかった。

「オスカー、なぜだ。なぜ今になって現れたのだ。私とアンジェリークはやっと幸せをつかもうとしていたというのに。なぜ帰ってきたおまえはもうとうの昔に死んだはずなのに。」

クラヴィスの叫びにも似た言葉はオスカーの胸に深く突き刺さった。

「おまえが戻ってこなければ私はアンジェリークと結婚するはずだったのだ。やっと彼女を手に入れたというのにおまえが戻ってきたせいでまた彼女は私から遠い存在になってしまった。おまえさえ戻ってこなければ私達は幸せだったのに。」

憎しみにも似たクラヴィスの叫びはオスカーは悲痛な面持ちで聞いていた。
だがオスカーもアンジェリークを譲るつもりはなかった。

「クラヴィス様あなたがなんと言おうと私はアンジェリークを愛しています。あなたに譲るつもりはない。たぶんあなたは私がいない間ずっと彼女を支えてきたのでしょう、それには私も感謝します。でもだからといって私はアンジェリークをあきらめるつもりはありません。私は彼女を心から愛しているのです。」

オスカーの一歩も譲らないその言葉にクラヴィスは苦笑するしかなかった。
アンジェリークの待っているのは自分ではなくオスカーなのだとわかっている。
しかし、理性でわかっていることでも感情ではそれがどうしても理解できないこともある。
クラヴィスの心境は今そういった気持ちでいっぱいだった。
どう言い訳してもオスカーがこの3年間アンジェリークを一人にしていたことは間違いない事実だった。
そのオスカーが何の前触れもなくひょっこり帰ってきてからといって到底理解できるものではなかった。

「お前はいったい何をしていたのだ。3年もの間アンジェリークをたった一人にしてお前はいったい何をしていたのだ。」
「わかっています。私とて何も好き好んで3年もの間帰ってこなかったわけじゃない。帰りたくても帰れなかったんだ。戦地の爆撃のために私は記憶を失いやっとその記憶を取り戻したんだ。」

オスカーのその告白にクラヴィスは動揺を隠せなかった。
アンジェリークはオスカーを思い、オスカーもまたアンジェリーク思っている。
一体どこに自分の入る隙間があるというのだろう。
クラヴィスは悲しく溜息をついた。

「行ってやるがよい。アンジェリークはもう何年もおまえを待っていたのだからな。」
「クラヴィス様…。あなたには本当に感謝しています。」
「早く行け!」

クラヴィスに深々と頭を下げるとオスカーは急いでアンジェリークのいる我が家と向かっていった。
クラヴィスは悲しみにうちひしがれながらただ一人オスカーが今来た道をあてもなく歩いて去っていた。

 

オスカーが玄関の外に立ったときにアンジェリークはまだ眠りの中にいた。
昨夜はずっとクラヴィスとオスカーのことを思い悲しみにくれて泣いていたので明け方近くになって泣きつかれて眠ったのであった。
オスカーは玄関の呼鈴を鳴らした。
しばらくして玄関のドアが開き小さなヨシュアが顔を出した。

「あっ!昨日のおじさん。」
「ヨシュアお母さんはどうした?」
「母さんはまだ寝ているよ。母さんは昨日の夜から泣いてばかりいる。クラヴィスおじさんも何故かいないんだ。おじさんはどうして来たの?何か用事なの?」
「そうおじさんは帰ってきたんだ。君のママの所に。」

オスカーはヨシュアの頭をなでながら愛しそうに見つめた。

「パパ?パパなの?」
「そうだよヨシュア。パパだよやっと帰ってきたんだ寂しい思いをさせてすまなかったね。」

ヨシュアは複雑な面持ちでオスカーを見つめそして次第にその瞳には涙が浮かんでいた。
そんなヨシュアをオスカーはしゃがんでぎゅっと抱きしめた。

「パパは死んじゃったってママは言っていたのに生きてたんだね。」

泣きじゃくるヨシュアをしっかりと抱きしめてオスカーは何度も謝った。

「ごめんよヨシュア。ごめん。」

ひとしきり親子の再会を果たしたオスカーはアンジェリークに会うために久しぶりの我が家に入っていた。

 

6年ぶりの我が家はヨシュアが大きくなった分見慣れないものが多少増えていたが6年前とほとんど変りなかった。
アンジェリークがオスカーと暮らした日々を忘れないためになるべくそのままにしていたことがなんとなくオスカーにも伝わってきた。
そして奥の寝室を目指してオスカーははやる気持ち押さえてゆっくりと向かっていった。
寝室の前で大きなため息をつくとキッとドアを見つめ決意を固めた。
ドアをノックして返事を待ったが返事はなかった。
もう一度ノックして返事がなかったのでオスカーは寝室のドアのノブを回した。
ドアに鍵はかかってなかったオスカーはそっと部屋に入った。
寝室はオスカーとアンジェリークが過ごしたあの時のままだった。
部屋の中央にあるキングサイズのベッドには愛しいアンジェリークが眠っていた。
彼女の頬に残る涙の跡を切なげにオスカーは見つめた。
そして優しくその懐かしい美しい金髪に触れると愛しげに髪にくちづけた。
アンジェリークは別れたときより少し大人びて見えた。
肩までだったやわらかな髪も腰に届きそうなくらい伸びていた。
それがオスカーとアンジェリークを隔てていた時間の長さを物語っていた。
オスカーはそっとアンジェリークにくちづけた。
そして何度も何度もくちづけているうちにアンジェリークはうっすらと目を開いた。

「ただいまアンジェ。」

アンジェリークは目の前のオスカーを見て現実とも夢とも判断がつかなかった。
そしてそっと手をのばしてオスカーの頬に触れた。
その暖かな感触にアンジェリークはやっと目の前のオスカーが現実のものだということが理解できた。

「オスカー…オスカーなの?本当に本当にオスカーなの?」
「本当さ。帰ってきたんだよやっと君のもとに。」

その言葉にアンジェリークの瞳にまたもや涙があふれそのやわらかな頬をぬらした。
オスカーは優しくアンジェリークを抱きしめそしてまた何度も何度もくちづけた。

「オスカーどうしてどうして帰ってきてくれなかったの?生きていたのならどうして…。」
「すまない。俺は戦場で爆撃を受けて記憶を失ってしまったんだ。やっと記憶が戻った時には3年の月日が流れていたんだ。すまなかった、君にもヨシュアにも寂しい思いをさせてしまったね。でも俺は帰ってきたこれからは失った時間を取り戻すように三人で生きていこう。」

オスカーの言葉にもうアンジェリークは何もいうことはなかった。
ただただ愛しいオスカーの胸にすがりついていた。
そしてオスカーも力強くアンジェリークを抱きしめ離れていた二人の時間を取り戻そうとしていた。
アンジェリークは今までの苦労がもう何もなかったかのように感じられた。
そうオスカーさえいてくれればもう何もいらなかった。
そしてオスカーもアンジェリークさえいてくれればなにもかもどうでもいいと思えた。
そして二人はいつまでもいつまでもお互いを確かめ合うように抱き合っていた。

 

END

 

ノリノリで書いてきた「あなたは何処に」がやっとエンディングを迎えられました。
お話はハッピーエンドに終わっていますが、じつはバッドエンディングも考えていました。
アンジェリークがクラヴィスと結婚して、記憶のなかったオスカーは記憶が戻る前にアンジェラと結婚してしまうというものです。
その後記憶が戻ったオスカーがアンジェリークをたずねるとクラヴィスと共に幸せに暮らすアンジェリークを見てアンジェリークをあきらめるという風にしようかなぁなんて思ってたんですけどやめました。
後味すっきりのほうがいいかなぁと思ったので。
どちらのほうがお好みでしたでしょうか?
感想がございましたらメールや掲示板でお知らせ下さい。
とても楽しみにしています。
それではまた、新連載にて。

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