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(この女が・・・この女がアルカディアの魔女?)

男を惑わし、その生き血をすすると噂されるアルカディアの魔女は、オスカーの思い描いていた女とはかけ離れていた。
さぞかし妖艶な悪女を思い描いていたオスカーの目の前に立つ魔女は、今にも折れてしまいそうなくらい華奢で、たおやかな魔女と言うよりは、そう天使と言ってもいいくらいのまばゆいばかりの美しさだった。
確かに黒いドレスに身を包んでいるが、そのドレスとて色っぽいデザインとはかけ離れた、言うなれば喪服と言ったつつましい装いである。
ちょっと憂いを含んだ寂しそうな笑顔を見せながら、アルカディアの魔女アンジェリークはオスカーに挨拶をした。

「ようこそ我が家へ。私がこの館の女主人のアンジェリークと申します。さきほどのものはオートマターのロザリア。あいにく主人は留守にしておりますが、ゆっくりとおくつろぎ下さいませ。お疲れでしょうから・・・。」

オスカーは挨拶している彼女を呆然と見つめつづけていた。
彼は今までこのように美しい女を見たことがあっただろうか?
いや、美しいだけならあったかもしれない。
だが、アンジェリークの全身から溢れ出す光にも似た清浄さと、儚さを持った女を見たことは無かった。

(この穢れなき微笑みの下に悪魔のような残虐性が宿っていると言うのか・・・・。)

オスカーはもう一度心を引き締めた。
これが魔女の手なのだ。
この清らかさが男を惑わす罠なのだ。
そう無理やりオスカーは心に言い聞かせた。

「ありがとうございますミセスアンジェリーク。」

オスカーは騎士らしい颯爽としたポーズで、挨拶を返した。
アンジェリークは柔らかく微笑むとオートマターのロザリアに告げた。

「彼の・・・あ・えっと・・・。」
「オスカーです。申し遅れました。」
「オスカー様のお部屋に案内をして?東の客室がいいわ。」
「はい。かしこまりましたアンジェリーク様。」

オートマター・・・・。
自動人形だと言うロザリアは、まるで人形とは思えない姿でオスカーを東の客室へと導いていった。

「すまないなロザリア。ところで、アンジェリーク殿はご主人がおみえになるようだが、ご主人はいつお戻りになるのかな?ご主人にも挨拶をしたいので、お戻りになられたら教えてくれないか?」

案内をされる道すがら、オスカーはロザリアにそう話しかけた。
オートマターのロザリアは無表情のままオスカーの問いに答える。

「ご主人様は、いつお戻りになるかわかりません。もう100年お待ち申し上げているのですがまだお戻りにはならないので・・・。」
「?!」

100年?100年待ったと言ったのだろうか。
オスカーは、驚きのあまり目を見開く。
だがロザリアはそんなオスカーなどまったく気にした風も無く、東の客間の前に立ちドアを開けた。

「こちらでございます。どうぞおくつろぎ下さいませ。」
「あ・ああ、ありがとう。」

そしてロザリアは会釈をして何事も無かったかのように立ち去っていった。
残されたオスカーは客室の中に入り、一人思案に暮れた。
アルカディアの魔女アンジェリークは、帰らぬ夫を100年もの間この屋敷で待っているのだという。
その理由には物悲しさも感じないではないが、やはり彼女は魔女なのだ。
人間は100年もの間、生きることなど出来ないからだ。
見た目にだまされて彼女を信用してはいけない。
オスカーは新たな決意を固めた。

 

自室でアンジェリークは、壁にかかるアンジェリークの夫ジュリアスの肖像画を見つめる。

「あなた・・・・もう許して・・・・。」

その言葉と共にアンジェリークの頬に一筋の涙が伝った。

 

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