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100年はとてつもなく長い。
その悠久の時を、年を取ることもなく、死ぬことも、老いることもなく生き長らえるのはとてつもなく辛い。
彼女がこの悠久の時を生きなければならなかったのは、ひとえにこの夫ジュリアスの独占欲によるものなのだ。
彼女の夫ジュリアスは、ありたいていに言えば超人だった。
あらゆることに精通していて、そのことをまた有効かつ的確に使いこなすことに長けていると言った人だったのだ。
あのオートマターロザリアもまた彼の生み出したものだった。
自分がいないときにアンジェリークを守る為に『何人たりともアンジェリークに危害を与えるものを排除せよ』との命令がインプットされているのだ。
そして彼は、魔法にも精通していてそれを極めている者でもあった。
彼は生死がかかる旅にどうしても行かなくてはならなくなり、その為に彼は最愛の妻に魔法をかけたのだ。
それは自分が戻るまで生きつづけるといった魔法だった。
この魔法はなぜか術者にはかけることが出来ない。
その為に彼は死んでも生きかえれるように自分には転生の魔法をかけたのだった。
彼は100年前旅立ち、そして戻らなかった。
そのことは彼が旅の途中で、その命を落とし、アンジェリークは彼が転生して戻ってくるのを待たなくてはならないということを現していたのだ。
転生の魔法と言うのは不確かな魔法だった。
せっかく魔法をかけても転生が数年で出来る時も有れば、千年たっても出来ない時さえもあった。
彼が今だ戻らないのはその為だ。
だからアンジェリークは天寿をまっとうすることを許されず、夫の帰りをただただ待ち続けなければならなかったのだった。
そのことは彼女の心に徐々に絶望を植えつけていったのだった。

 

翌朝、オスカーはロザリアに案内されて食堂にはいった。
食堂にはもうすでに女主人であるアンジェリークがテーブルについていた。

「おはようございますオスカー様。ゆっくりと休めれましたでしょうか?」

アンジェリークはその美しい笑顔を向けてオスカーに声をかけた。
オスカーはまたしてもその美しさに心を鷲掴みにされたが、平静を装って答えた。

「ありがとうございますミセスアンジェリーク。おかげで助かりました。」

ロザリアに勧められた席に腰掛けながらオスカーはアンジェリークを探る様に見つめた。
彼女は何処から見てもただの美しい女主人にしか見えない。
何処にあの残虐性が隠れているのかまったくわからなかった。

「ところでオスカー様。どうしてこんな森においでになったのですか?ここは見ての通りなにもないただの森なのですが・・・。」

食事が一段落したころ、不意にアンジェリークはオスカーにそう言って訊ねた。

「実は人探しをしているのです。」

オスカーは本心を探られない様に慎重にそう答えた。

「人探し?」
「はい。実は私の部下がこの森へと入ってから戻ってこないのです。もしかしたらなにかご存知ではありませんか?部下の名前はランディと言うのですが・・・。」

その名を聞いてアンジェリークは目を丸くした。

「まあ!ランディ様をお探しになっていらっしゃるの?」
「なにかご存知なのですね?」

瞳を輝かせるオスカーとは逆に、アンジェリークは少し哀しそうな色をその瞳に宿してオスカーを見つめた。

「ランディ様はしばらくの間、こちらにご滞在なさっていらしたのですが、ある日を境に突然出て行かれてしまったのです。」
「ある日とは?」

疑いの眼差しを一瞬だけその瞳に表して、オスカーはアンジェリークを見つめた。

「はい・・・実はランディ様は私にプロポーズをなさいました・・・・。」
「?!」

驚きのあまり声の出ないオスカーに、アンジェリークは恥ずかしそうに頬を染めた。

「主人が・・・・主人がもうこの館に帰らなくなって久しいので、ランディ様は私に同情なさった様でした。でもプロポーズをなさってから次の日にはもうこの館を出ていってしまわれたようで、もう何処にもいらっしゃいませんでした。やはり私のような女に人生をかけるのはばかばかしいと思われたのかもしれません。」

少々自嘲気味に笑う哀しげな彼女の表情を見ていると、ますますオスカーは噂とのギャップを感じずには居れなかった。
そしてその思いは、ランディが彼女にしたというプロポーズからも伺える。
ランディは心優しい性格で、正直者だ。
そして彼は誰よりも正義感の強い男だ。
今回の魔女退治だとてランディが、正義感に駆られて出かけていったのだった。
そのランディが、いくら美しいからと言ってそれだけで彼女にプロポーズなどするだろうか?
彼女が魔女であることをランディは知っていたはずである。
それでもなおプロポーズしたのだとしたら・・・・。
そう考えるとオスカーの頭の中は激しく混乱した。

 

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