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「オスカー様手を離してください。」
「何を言うんだ!下に落ちたら命は無いぞ!」
「いえ・・・いえ、私は死なない。私は死ねない体なのです。だからどうぞお気になさらないで私の手を放してください。このままではあなたまで落ちてしまう・・・・。」
「だ・だめだ!そんなこと出来ない!出来る訳がないじゃないか!」アンジェリークの重さに耐えながら、オスカーは更に彼女の手を強く握り締めた。
アンジェリークはその顔に哀しいような、嬉しいような複雑な表情を浮かべ、そして決意した様にオスカーに掴まれている反対の手で、オスカーの指を自分の手から一本ずつ外し始めた。「?!な・何をするんだ!止めろアンジェリーク!!」
あまりの出来事に、オスカーは叫んだがアンジェリークは止めなかった。
「ありがとう・・・・でも本当にいいの・・・・ごめんなさい・・・。」
そう彼女が言ったと思ったら、とうとう耐えきれなかったオスカーの手から彼女の手は離れ、そして物凄い勢いで谷底へと落ちて行った。
「ア・アンジェリーク!!」
その後、オスカーはいったいどうやって彼女の元まで辿り着いたのか記憶が無かった。
もう必死の思いで谷底に倒れるアンジェリークに駆け寄った。
彼女は気を失っていたが、やはり命に別状は無かった。
だが、その両足は酷く骨折して奇妙な形に折れ曲がっていた。
20mの高さから落ちたのだから、当然と言えば当然のことなのだが、それよりも命が助かっている方がおかしかった。
そう、彼女が言った事は真実っだったのだ。
オスカーは無性に哀しくて、涙が落ちるのを止めることが出来なかった。
彼女は魔女なのかもしれない・・・でももうどうでもいいと思いはじめる自分がいることをオスカーはもう否定することが出来なかった。
オスカーが魔女退治に出てはや2ヶ月が過ぎようとしている。
町で、オスカーの帰りをひたすら待ちつづけていたコレットは、日々不安で堪らなかった。
兄に続いて恋人までもが、その命を落としてしまったのだろうか?
そんな不吉な考えが浮かんでは消え、また浮かんでくる。
もう居ても立ってもいられない気持ちで、いっぱいだった。「オスカー様がいなくなったらもう私・・・・。」
そんな呟きをつきながら泣き暮らしていたコレットは、ついに決意を固めた。
そう、アルカディアの森へオスカーを捜しに行こうというのだ。
そんな彼女をずっと心配気に見続けていた者が居た。
彼は彼女の幼馴染のアリオスだった。
アリオスは、子供の頃よりいつもコレットのナイトを自負してきたが、それがオスカーの登場により、その座を彼に譲る羽目になったのだった。
それでもアリオスはコレットを諦めることはなかった。
いや、諦めきれなかったのだ。
彼が、彼女を見てきた年月はそれだけ長かった。
コレットが、アルカディアの森を目指すだろうことはアリオスには容易に想像できた。
旅支度をして町を出ようとするコレットを、街の出口でアリオスはもうすでに旅支度をして待っていた。「アリオス・・・・。どうして・・・・。」
「フッ、馬鹿だなァ俺がおまえを一人行かせると思ってたのか?」
「アリオスったら・・・・。」ちょっぴり涙に瞳をうるましてコレットが笑うと、アリオスはコレットの髪をクシャっと掻き回した。
オスカーは眠るアンジェリークを心配げに見つめていた。
今はアンジェリークは静かな寝息をたてている。
あの橋で彼女が、自分を道ずれにしまいとして手を放し落ちたという事実はオスカーを大きく打ちのめしていた。
自分がアンジェリークを退治しにこの館へやってきたと言うのに、もうオスカーの心の中ではアンジェリークが、魔女であることなどどうでもいいと思っていたのだ。
これが彼女の罠なのだともし誰かが言ったとしても、オスカーはもうその言葉に耳を貸す気にはなれなかった。
オスカーにとってアンジェリークはただの哀れな未亡人でしかない。
もう2度と彼女をこんな目に合わせない。
彼女を守りたい。
オスカーは今本気で、そう思っていたのだった。
コレットのことを忘れた訳ではなかった。
もちろん彼女のことを考えないではなかったが、オスカーにとってアンジェリークの存在はコレットをしのぎ始めていたのだった。