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アンジェリークが目覚めた時、オスカーはベットの傍らで疲れのために眠っていた。
そんなオスカーをアンジェリークは複雑な表情で、見つめていた。
アンジェリークは彼からこの森に来た理由を聞いた時から、オスカーが自分に対して敵意を持っているのではないかと感じていた。
表面上はそんなそぶりもなにも見せなかったが、何処かで自分を冷ややかに見つめる目を感じていた。
今までこの館に来たものはなにかしら、自分に対して敵意みたいなものを持って現れても、自分に会ったとたんその敵意はまるで嘘の様に消えてしまうのだ。
オスカーは今までで一番自分に対して敵意を持ちつづけている。
そしてそのことが彼女にある思いを抱かせていた。
彼こそがもしかしたら自分に死を与えてくれる唯一の人物かもしれないと言う思いだった。
ジュリアスの魔法によって生き続けることを余儀なくされているアンジェリークだったが、死を得る方法がたった一つだけある。
それはアンジェリークがジュリアス以外の男を本気で愛し、その男の手によって殺されることだった。
アンジェリークはオスカーの自分に対する敵意を感じた時、本当は嬉しかった。
それはやっとこの呪縛から逃れられるかもしれないと言う希望だった。
彼ならきっと自分を殺してくれるはずだと思った。
後は自分が彼を愛するだけだ。
だが、ジュリアスがかけたこの魔法から逃れる条件は、本当によく仕掛けられたものだと言うことをいまさらながらに気付かされる羽目になってしまった。
それは愛するものが出来ると死への願望は生への執着へと気持ちが変わってしまうと言うことだった。
オスカーに接していると、最初は呪縛から逃れたいとの思いから彼に好意を持とうとしていたのだが、そんな努力はまったく必要のないことだとわかった。
なぜなら、オスカーはその溢れる魅力でアンジェリークの心を捉えて放さなかったからだ。
彼の姿形がそうさせたのではない。
彼の内に秘めた熱い燃え盛るような魂の輝きを感じてしまうからだった。
姿形だけならば、アンジェリークの夫であるジュリアスのほうがどれほど美しいかわからない。
でもその夫の魂は、彼女を独占したいと言う思いで酷く澱み、本来夫婦が暮らしていた城下町の屋敷を出て、この人里離れた場所へと閉じこもるほどだったのだ。
その狂気にも似た夫の魂に触れつづけたアンジェリークは、オスカーの激しいまでに燃え盛る熱い浄化の炎にも似た魂にどんどん引きこまれていったのだった。
そうなってくるとアンジェリークの心の中に、彼と共にいたいと言う思いが芽生えて来ることを押さえられないのはどうしようもなかった。
自分は死ぬために彼を愛そうと決めたのに、本当に彼のことを愛し始めてしまうと、今度は彼と離れることが辛くなってしまう・・・。
今、アンジェリークの心の中では、死への願望と、生への執着が、激しくぶつかり合っていたのだった。
そしてあの橋での出来事が、アンジェリークの心を更に混乱させることとなってしまった。
なぜならあの橋で、オスカーからいつも感じていた敵意が薄れていることに気付かされたからだった。
オスカーが自分に対して、もしかしたら好意を持ち始めてしまったかもしれないと感じた時、アンジェリークの心は複雑だった。
彼を愛し始めたアンジェリークの方は、オスカーの心の変化を素直に喜んだが、死への願望に取りつかれたアンジェリークの方は、絶望を禁じえなかったのだ。
そんな複雑な思いを抱きながらアンジェリークは、自分の傍らで眠るオスカーを見つめるうちに、いつしかその瞳からはとめどなく涙が零れ落ちていたのだった。

 

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