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アンジェリークの骨折はかなり酷いものだったが、ジュリアスの魔法のおかげとも言うのだろうか、その回復力はすばらしいものがあった。
ほとんど粉々と言ってもよかった骨が、今はほぼ完治しそうなくらいだった。
それでもまだ歩くまでには至っていなかったため、移動の際にはオスカーがアンジェリークを抱き上げて移動していた。
オスカーはあの日以来、本当にかいがいしくアンジェリークの看病に当たっていた。
恋を自覚したオスカーは、女性であるならば誰しもが、眩暈を起こしそうなくらい魅力的な恋人になる。
もともと女性にはやさしいフェミニストであるのが、恋人に対しては、特上の優しさとロマンスを与えてくれるのだった。
アンジェリークは、そんなオスカーに更に惹かれてしまう自分と、死を望む自分との板ばさみで更に思い悩んだが、オスカーといる時は掛け値無しで幸福を感じていた。
オスカーの愛は暖かい。
まるで真綿で包まれるような安心感をアンジェリークに与えてくれる。
ジュリアスのときには感じなかった心休まる思いだった。
オスカーの方も、アンジェリークに惹かれる気持ちをもう押さえる気は無かった。
コレットのことが気がかりではあるが、それでもこの目の前にある恋に溺れていたいと思っていた。
自分の気持ちをアンジェリークに伝えたいと言う思いが、日々増して行く。
最近、アンジェリークの方も自分に心を許し始めているのがわかる。
オスカーは彼女の足が完治した時、自分の思いを伝える決心をした。

 

森に入ってもうはや一週間。
コレットは、この美しい森の中をアリオスと共に魔女の館を目指して旅を続けていた。
この森は、本当に理想郷と呼ぶにふさわしい美しい場所ではあったが、やはり女の身であるコレットが、たった一人で入るにはかなり無理があるところだった。
その為コレットは、アリオスが付いてきてくれて本当によかったと思っていた。
アリオスは、幼い頃よりいつもいつもコレットのことを助けてくれるまさにナイトのような存在だった。
コレットにとってアリオスの存在は恋の対象にはならなかったが、それでも一番信頼し、頼りにして、感謝している存在であったのだ。
今そのことをまたコレットは噛み締めていた。
昼もそろそろ近づく時刻。
コレットの疲れを見越したアリオスは、休憩を取ろうと水場を探して森を進んでいた。
しばらく進むと、木々の間から光をはじく水のきらめきを見つけ、2人はそちらの方へと足を向けた。
するとそこには美しい泉が見えてきた。
急いで、その泉に駆け寄ろうとしたアリオスはふと泉の中心になにやら浮かび上がる気配を感じ、コレットの腕を掴んで木の影に身を隠した。

「いやん!痛いじゃないアリオス〜。いったいどうしたの?」
「シッ!なにかいる。」
「?!」

アリオスの言葉にコレットも身を固くして泉の方へと視線を向けた。
泉の中心からボコボコと泡が浮かび水がそれによって盛り上がっている。
水面にいくつもの波紋が生まれ中心にあるものを誇張している。
そしてついにそれは姿を現した。
2人が最初に目にしたのは、金色に光る髪に覆われた人間らしきものの頭だった。
水面から顔を出した人物は、ゆっくりと岸をめざして泳ぎ始めた。
しだいに浅くなった泉から徐々にその人間の姿が明らかになっていく。
最初その美しい流れるような金髪と、美しいと言っても過言ではないくらいの美貌から女かと思われた人物は、水から肩がそして胸が現れるとそれが男であることがわかった。
そして全身が現れたときには、まるで神が降臨したのではないかと思えるほど神々しい美しさを放っていた。
アリオスもコレットも、その美しいまでのその男の姿にしばし見とれて動けなかった。
そのうち岸に上がったその男は手を天にかざしたかと思うとなにやらぶつぶつと呟き始め、そして急に光りに包まれたと思ったら、次に現れたときには一糸まとわぬ姿だったはずなのに、白い美しい衣を身に着けていた。
濡れていた髪も一瞬で乾き、今は風になぶられて靡いている。
呆気に取られて見ていた二人の存在にはまったく気付かない男は、一人ぼそりと呟いた。

「待っていろアンジェリーク・・・。私は今甦ったぞ。」

その言葉を聞いた時、なぜかコレットは背中がゾクリと震えた。

 

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