9

今、アンジェリークは事故後はじめて自らの足で立ちあがろうとしていた。
普通の人なら到底回復するような時期ではなかったが、やはりあの魔法のおかげなのだろう。
自分にとって苦しみを与えつづけた魔法が、こんな時に役に立っている事は、アンジェリークにとっては皮肉と言ってもよかった。
それでも早く治りたかったのは確かだ。
オスカーにいつまでも迷惑をかけたくないと思っていたからだ。
オスカーが、迷惑になど思っていない事はよくわかっていたが、アンジェリークはそれに甘える気はまったく無かった。
そろりそろりとゆっくり両足の力を入れて、自室のベットから立ちあがる。
痛みを感じることなくなんとか立つことが出来て、アンジェリークに安堵の溜息が漏れた。
そして第一歩を踏み出す。
なんとかこうとか、よろけながらもドアのところまで辿り着きアンジェリークはドアノブに手をかけようと手を伸ばすと突然ドアが開いた。

「ア・アンジェリーク!大丈夫なのか?立ったりして・・・。」

ドアの向こうにはオスカーが立っていた。
オスカーは、さっとアンジェリークの手を取って彼女を廊下へと導いた。

「ありがとうございますオスカー様。なんとか歩けますわ。」

アンジェリークはそう言って柔らかな微笑みをオスカーに向けた。
オスカーもその微笑みにつられる様にうれしそうに微笑んだ。
2人は、二階にあるアンジェリークの部屋から一階にある食堂へと向かうべく玄関ホールへと続く階段へと向かって行くと、ロザリアがちょうど登ってくるところだった。

「おはよう、ロザリア。」

アンジェリークがロザリアに挨拶をすると、ロザリアはいつもの様に無表情で、挨拶を返した。

「おはようございます、アンジェリーク様。御食事の用意が整いましたので、お迎えに上がりました。」

そう言ってアンジェリークのオスカーが支える反対の手を取って、階段を降りるべく方向を変えた。
その時突然、玄関の扉が開け放たれたのだった。

 

コレットはあの泉での出来事以来、少々旅の足取りが重くなっていた。
本当にこの森は美しく、あまり怖い目にも会わずに進んでいたところに、あの不気味な人物の登場である。
魔女の森とは聞いていたが、魔法使い?いや魔人までいるとは・・・。
あんな不気味な人々をオスカーやランディが、倒しに行ったと思うと身震いがした。

「コレット・・・どうした、諦めるのか?」

アリオスの言葉にコレットは驚いて顔を上げた。
コレットの恐怖心を見ぬいてアリオスが声をかけたのだ。
コレットは一瞬だけ返事に詰ったが、すぐに否定の言葉を返した。

「諦めないわ!オスカー様も兄様も生きてるって信じてるし、信じたいもの!」

その強がった返事にアリオスはフッと笑みをもらした。
コレットのこんなちょっと気の強いまっすぐなところが、堪らなく好きだ。
たとえその心が、オスカーのことを思っていてもアリオスはコレットのことを愛することを止める気は無かった。
たとえそれが友人と言う地位であってもよかった。
とにかく彼女のそばで、彼女を見守って行けるなら、その為ならなんだってしようと思っていた。

「諦めないなら急ごう!きっとあいつは魔女の仲間だ。あいつの後を追えばきっと魔女の館へ行けるさ!」

そう言ってアリオスが、差し出した手をコレットはうれしそうに掴んだ。
二人はそして先ほど見た男が通った跡を追ってその足を速めたのだった。

 

  TOP