10

「アンジェリーク!私は戻ったぞ。」

玄関には、柔らかなウェーブのかかった美しい金髪を腰の辺りまで垂らした荘厳なまでの美しい美貌の男が立っていた。

「ジュ・ジュリアス・・・・。」

その男の姿を見とめたアンジェリークはがたがたと震え出したかと思ったら、全身が突然光に包まれ、パンと言う音と共にその光は霧散した。
夫ジュリアスの帰還の為に、魔法が解けた瞬間だった。
アンジェリークはなおも震えが止まらず、膝ががくがくと震え立っていられない様だった。

「マスターおかえりなさいませ。」

ロザリアの言葉に、玄関に立つジュリアスはその目線を階段の上へと向けた。
そして、そこに立つアンジェリークを見つけると表情を輝かせた。

「アンジェリーク!」

名前を呼ばれたアンジェリークは、恐怖で顔を強張らせ思わず隣に立つオスカーにしがみついた。
それを見たジュリアスは、急にその表情が険しいものへと変わった。
オスカーの方も震えるアンジェリークを庇うように抱きとめた。

「誰だ、おまえは・・・。アンジェリーク。夫である私が戻ったと言うのにいったいどうした。そいつは何者だ。」

怒気を孕んだ低い声にアンジェリークはますます青ざめる。

「私はオスカー。旅の剣士です。あなたがこちらのご主人ですか?」

名前を名乗りながらも、オスカーはアンジェリークを放さなかった。
それが、ジュリアスの怒りを更に強める。

「オスカーと言ったか?その女は私の妻だ。その汚い手を離しもらおうか。」

怒りのためか、ジュリアスの声は震えているようだった。
オスカーはそう言われて、更にアンジェリークを抱く手に力をこめた。

「あなたには申し訳無いが、この手を放す気など無い。」

オスカーの言葉に、今度はアンジェリークが驚きの表情でオスカーを見上げた。
ジュリアスの怒りは更に増し、怒鳴るようにアンジェリークに向かって叫んだ。

「アンジェリーク!今すぐそいつから離れろ!」

ジュリアスの手元に光が集まるのが、アンジェリークの目にはいった。
驚いたアンジェリークは、慌ててオスカーの前に立ちはだかるように両手を広げてオスカーを庇い大声で叫んだ。

「ジュリアス!私は彼をオスカーを愛してる!あなたにオスカーを殺させたりしないわ!」

その言葉にジュリアスの怒りは頂点に達した。

「許さぬ!許さぬぞアンジェリーク!おまえは私のものだ!誰にも渡さぬ。誰かのものになるくらいなら私の手にかかって死ぬがよい!!」

ジュリアスはそう叫ぶと、その手に集まった光を矢のような形に変えて、それをアンジェリークに向けて放った。
アンジェリークは死を覚悟して目を瞑る。
だがその矢はアンジェリークには当たらなかった。
一向に衝撃を感じないアンジェリークは、恐る恐るその目を開けた。
そしてそこに広がっていたものは信じられない光景だった。

 

アリオスとコレットは,ジュリアスの後を追って先を急いでいた。
アリオスはその間、ずっとコレットの手を引き森を進んでいる。
コレットはその手のぬくもりが、本当に頼もしいものに思えていた。
もちろん、自分が愛しているのはオスカーだ。
その気持ちに嘘偽りは無い。
でもこの気持ちはなんだろう。
アリオスの存在・・・コレットにとってアリオスはこの旅の間に、だんだん無視できないものになりつつあるのを感じていた。
コレットはそんな思いに少々戸惑いながら、今はそのことを考えまいと頭の外へと追いやった。

「見ろ!コレット。あれじゃないのか?」

アリオスの声にコレットは前方へと目を向けた。
そこには白く美しい、荘厳な館がそびえたっていた。
その荘厳さが、あの魔人を連想させる。
二人は覚悟を決めるようにゴクリと唾を飲みこんで、館に向かって足を進めた。
館に近づくと、玄関がなぜか開け放たれているのが目にはいった。
二人は不信を感じたが、いまさら引き返すわけにも行かない。
しっかりと手を取り合って玄関に向かって一歩一歩確実に進んで行くと、何やら怒声が響き、争っている雰囲気が伝わってくる。
コレットは恐怖を感じながらも、急いで玄関へと飛びこんだ。

 

「なぜだ・・・・。ロザリア・・・・。」

ジュリアスは自分に抱きつくようにしているオートマターに問いかけた。

「プログラムナンバー01。いかなる者でもアンジェリーク様に危害を加える者、これを排除せよ。」

そう言ってロザリアがジュリアスからその身を離すとロザリアの爪が変形したナイフが、ジュリアスの腹部から抜き取られた。
真っ赤な鮮血が、ジュリアスの腹部から溢れだし、その為にジュリアスは膝を折った。
ゴフっと言ったジュリアスの口から血が漏れる。
それと同時にアンジェリークの悲鳴が響き渡った。

 

  TOP