団地住人の秘密U

今日も今日とてこのサンクチュアリ団地は、穏やかな昼下がりを迎えていた。
そしていつものように例の4人の妻達が、公園のテラスに陣取って取り留めの無い噂話に花を咲かせていた。

 

「ねえ、ご存知かしら?最近C棟に越してきた方のこと。」

話題を振ってきたのはロザリアだった。

「え?もしかしてそれって、なんでも有名な芸術家とか言うセイランさんのことかしら?」

そうコレットが言うと、

「えぇ〜〜!!セイランですって?それって本当なの?セイランて言えば今超売れっ子の芸術家じゃない〜。そんでもって超美形だって有名よ?」

と、レイチェルが声を荒げた。

「もう〜レイチェルったら声が大きいわよぉ〜。」

とアンジェリークは頬を染めてレイチェルを諌める。

 

<セイランの秘密>
最近このサンクチュアリ団地に引っ越してきたのは、今では超売れっ子となった新進気鋭の芸術家セイランであった。
その美しいマスクと、質らつな毒舌もまた彼を有名にした一因かもしれない。
そんな彼には誰にも言えない趣味があった。

「ああ・・・なんて芳しい香りなんだ・・・・。」

セイランは恍惚とした表情でそう呟く。
その瞳はうっとりとして潤み、頬は上気して桜色に染まっている。
そして、その美しく染まった頬に愛しそうに摺り寄せられているものは、何処からどう見ても薄汚れた靴下だった。
その靴下は、以前は白色であったことがなんとか想像できるというくらい汗と埃で小汚く黒ずんでいる。
そのなんとも言えぬ悪臭を放つその靴下に今またセイランは、その整いすぎた美しい鼻をあてがい、思いっきりそのにおいを吸い取った。

「ああ〜〜素敵だ・・・・。」

そう彼は臭いフェチだったのだ。
その靴下はここに越してくる前、不動産屋と共に部屋の下見にセイランがやって来た時、たまたまA棟に住む女子高体育教師ビクトールがコインランドリーへ向かう為に山のように抱えた洗濯物の中からたまたま転げ落ちた一枚だった。
独り者のビクトールは洗濯物を溜め込む事はいつものことで、時には着る物が無くて同じ物を何度も着たり、下着などは裏返して着てみたりすることがしばしばあった。
その中の飛びきりの一枚だったのだ。
それを拾ったことで、セイランの中ではもうすでにこの団地への引越しは決定されていたのだった。
そして今日もまた、密かにセイランはA棟からビクトールが洗濯物を担いで出てくるのを心待ちにしているのだった。

 

「美少年って言えば、この間B棟ですごっくかわいらしい男の子を見たの。まるで天使みたいな子なのよ。」

そう言ってアンジェリークは目をキラキラと輝かせた。

「あ〜〜!わかった!その子マルセル君でしょ?」

すかさずレイチェルが相槌を打つ。

「うんうん。わかる〜マルセル君ってほんと天使みたいよねぇ〜。挨拶するといつもにこ〜って笑ってくれるしさぁ〜。」

コレットも頷きながらそう答えた。

「あんな子だったら子供に欲しいわよね〜。」

ロザリアが自分とジュリアスの間に挟まる天使の子供の笑顔を思ってうっとりと呟いた。

 

<マルセルの秘密>
マルセルは、サンクチュアリ中学に通う2年生。
先生からも友人達からも、まるで天使のような少年と評判の美少年だ。
そんな彼にも隠された一面は存在するのだ。

「フフフ・・・・。」

今、マルセルは自室で微笑み浮かべていた。
部屋の窓を閉めきり、暗幕を張り、電気もつけず照明と言えば部屋の中央にあるテーブルの上で燃えるろうそく一本だけだ。
そんな中で、マルセルは楽しそうになにかをしていた。
その手には蝋で作られた人型の人形。
人形の胸の辺りには中学生らしい少年の写真。
そしてその蝋人形にはもうすでに数十っ本の針が刺さっていた。

「マーク・・・。君がいけないんだよ?僕からカツアゲしようとするからさ。」

そう言いながら、また一本また一本と針を人形に付き立てている。
部屋の中を見渡してみると、棚には同じような蝋人形やわら人形が置かれ、壁には大きな魔方陣、所々には蛙やトカゲの干物が吊り下げられている。
そして机に広げられたファイルには数人の顔写真に赤のマジックで、大きくバツ印が打ってあった。

「フフフ。マーク・・・君ももうすぐマーク(バツ印)してあげるからね?おっとマークにマークだなんてちょっとおかしかったかな?」

一人そんなことを呟きながらほくそえむマルセルの呪いの作業は着々と進んでいるのだった。

 

「ねえねえ最近評判の占いの館って知ってる?」

コレットがなんだかわくわくしながらそう言った。

「ええなんでもC棟にみえるメルさんって方がいらっしゃる『火竜館』とか言うところでしょ?」

ロザリアがすぐさま話に乗った。

「なんでも物凄く当たるらしいわよ?出張サービスってのもやってるって噂で聞いた事があるわ。」

アンジェリークが興味津々に答える。

「え〜〜!そうなの?じゃあ私頼んじゃおっかなァ〜。」

レイチェルがなんだかわくわくしたように呟いた。

 

<メルの秘密>
C棟に住むメルはサンクチュアリ団地から少し行った街中にある『火竜館』の売れっ子占い師だ。
その占いの腕は一流で、ぴたりと当てると評判だ。
そんな彼には秘密の家業があった。

ちゃ〜ちゃちゃっちゃらら〜ん(ちょっとだけよvvvのテーマ?)

メルの自室で突如流れる妖しげなピンク音楽。
彼の携帯電話の音だ。
ソファーにゆったりと腰掛けたままメルは着信ボタンを押す。

「はい。メルです。ああ奥さん・・・あなたでしたか。フフフ・・・そう、ああわかりましたよ?いつものホテルで10時ですね?ええわかってますよ。今日もちゃんと満足させてあげますよ。タップリとね?」

彼はそう言って携帯を切ると、いやらし舌なめずりをした。
彼の秘密の家業・・・・それは出張ホストだった。
占いの傍ら知った夫の不倫で悩む奥様方が、彼のもう一つの仕事のお客だった。
彼の卓越した占いの技術で、それらの奥様方の好みを知り尽くし、サービスするのでホスト家業の方も大盛況だった。
そして、今日もまた彼はお客の好みに合わせた衣装に身を包み、待ち合わせのホテルへと向かうのだった。

 

「そういえば、B棟のルヴァさんの弟って知ってる?」

レイチェルが少々眉間にしわを寄せてそういった。

「え?ゼフェル君のこと?」

アンジェリークが小首を傾げて訊ねると、コレットも難しい顔をして、

「ああ、あの不良少年ね?いつもいつも通る人にガンつけてるのよねぇ〜あの子ったら。」

と不快そうにそういった。

「別に悪いことはしてないみたいだけど、口も態度も最悪だわ。お兄さんはおっとりとしたいい方なのにね。」

とロザリアも顔をゆがませた。

 

<ゼフェルの秘密>
ゼフェルはサンクチュアリ高校の2年生。
あの団地住人を密かに盗撮盗聴して暗い喜びに浸るルヴァの弟だ。
彼はこの辺りの不良少年の中では名の知れた少年で、犯罪に手を染めることは無かったが、喧嘩っ早くそして強かったので、トラブルをしょっちゅう起こしていた。
そんな彼にも当然秘密はあるのだった。

「兄ちゃんもう勘弁してくれよ。」

今、ゼフェルは兄のルヴァに呼ばれて彼の部屋にいた。
ルヴァの部屋には所狭しと無数のTVモニターが置かれ、今も団地の住人の秘密を映し出している。
そんな他人の生活を覗き見る彼は弟にある命令を下したところだった。

「何を言ってるんです?あなたの秘密をあの悪餓鬼達にばらしてもいいのですか?ゼフェル。」

そう言ってすごむ兄にゼフェルは泣きつく。

「もうこんな悪いことはいやだよ〜兄ちゃん。俺もう超小型カメラやマイクなんて作りたくねぇよ〜。だって可哀想じゃないか〜誰もみんなこんなとこ覗かれたくないのにさあ〜。もう止めてくれよ兄ちゃん。」

そう言ってまるで滝のようにその瞳から涙をこぼす弟にルヴァはあきれ返る。

「本当にあなたときたら昔から泣き虫のあまちゃん坊やですねえ〜。よくもまあいつもいつもそんなこと言って他人に同情して泣いていられますねぇ。あなたのようないい子ちゃんがどうして私の弟なんでしょうかねぇ不思議です。」

そんなことを言う兄をゼフェルはまた情けなく思ってただただ泣きつづけるのだった。
天使の心を持つ彼はこうして家での鬱憤を外で不良相手に晴らして、そしてルヴァの悪事を今日も諌められずに泣いているのだった。

 

そんなこんなでやはりこのサンクチュアリ団地の昼下がりは、今日もまた何事も無く大いなる誤解を生みつつ過ぎて行くのだった。

 

END

 

 

「団地住人の秘密U」はいかがでしたでしょうか?
久々の「団地」シリーズは団地住人の方々です。
今回もかなりキャラのイメージを壊しているかもしれないですね・・・・。(壊してるって!)
ファンの方々怒らないでね?うふvvv
また感想の方をお待ちしちゃってもいいかしら?苦情はちょっと困るけどねへへへ・・・。
それではまた!