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このところ酒浸りなオスカーを心配してリュミエールは夜半オスカーの部屋を訪ねたが、オスカーの姿はそこには無かった。
心配になったリュミエールは、この夜の里をオスカーの姿を捜して、歩き回った。
今ごろ泥酔したオスカーが、道端にでも倒れているのではないかとリュミエールは思っていたのだ。
でも、里を隈なく捜したが、オスカーの姿は無かった。
今夜は雲が多く月が出たり隠れたりしていて、リュミエールの不安をあおっている。
ふとリュミエールは泉の事を思い出した。
オスカーは酒に酔うと水浴びをする癖があるのだ。
昔、初めて酒を二人で飲んだ時、オスカーはリュミエールを誘って泉へ水浴びに行った事をリュミエールは思い出した。「もしかしたらあそこに。」
彼はすぐさま泉を目指して歩き出した。
ちょうど月は雲の影に入り、辺りは薄暗くなっている。
リュミエールは足元に気を配りながら泉へと一歩一歩ちかずいていた。
明かりの乏しい泉で、リュミエールは目を凝らしたが、オスカーの姿を見つけ出す事は出来なかった。「ふぅ〜。だめですか・・・。」
すっかり諦めてしまおうかと思った時、不意に月は雲間から姿を現した。
薄暗かった泉に月明かりが反射してあたりもほの明るくなる。
そして、その明かりに照らし出されたオスカーとアンジェリークをリュミエールは見てしまった。
肌もあらわに絡み合う2人。
激しいくちづけを交し合い、アンジェリークの白い肌を愛撫するオスカーの姿が見て取れた。
リュミエールにとってこの信じられない光景は彼の頭に物凄い衝撃と、怒りを生み出していた。
微かな喘ぎ声と、オスカーの囁きがリュミエールの神経をさかなでる。「許せない・・・・。」
リュミエールは全身から青い炎を噴出すかのような形相で、しばらく2人の逢瀬を眺めていた。
「アンジェリーク・・・愛している・・・愛している・・・。」
熱に浮かされるようにアンジェリークに愛を囁くオスカー。
そのオスカーの髪に指を刺し入れ、髪を梳きアンジェリークも答える。「私も愛してるわ。あなた以外の人を好きにはなれない・・・。」
そして何度も何度もくちづけが交わされる。
彼女が兄との間に関係が無かった事もオスカーにはわかった。
それだけに、愛しさと嬉しさがこみ上げて、彼女を抱く手に力がこもる。
とうとう兄を裏切ったと言う罪悪感よりも、アンジェリークを抱いたという幸福感の方が強かった。
もう、オスカーはアンジェリークを手放す事など出来ないと心に強く思った。
アンジェリークも明日の結婚式の事などもうなにも考えられなかった。
オスカーを愛している。その事だけが彼女を支えているのだ。
この至福の時が、たとえ短い一瞬だったとしても2人にとってこの逢瀬は、何にも替え難い時間だったのだ。
それゆえに、二人はその短い時をむさぼる様に互いを求め合ったのだ。
だがその時も終る時はやってくる。
朝日が無情にも愛し合う2人を照らし出した。
結婚式の朝がやってきたのだ。
その頃里では、居なくなった二人のことで大騒ぎになっていた。
「いったいこれはどう言うことなんだ!!」
ジュリアスはぶつけ様も無い怒りを歯噛みしながら傍らに居る片割れに放った。
隣で沈黙していたクラヴィスがゆっくりとジュリアスを眺める。「クラヴィス!そなたは腹が立たぬのか!そなたは花嫁に裏切られたのだぞ!それもこの飛竜族の長のおまえを!」
物凄い形相で詰め寄るジュリアスに、クラヴィスは落ちついた口調で語り出した。
「私は別にかまわぬ。オスカーの気持ちも、婚約者殿の気持ちも知っていた。あの2人がこうなるのは時間の問題であったのだ・・・。」
「な!どう言う事だ!そなたは知っていながら黙っていたのか?なぜだ!」
「私のとってこの結婚はどうしてもしたいものではなかったのだ。そなたのように婚約者殿に甘い気持ちが持てなかったのでな。もちろん彼女がその気であったのなら私はそれに答えてもよかったのだが、彼女も私にそのような気持ちを持てなかっただけだ。」淡々と語るクラヴィスの言葉にジュリアスの気持ちは落ち着きを取り戻していった。
「では、そなたが望んだ事なのか?これは・・・。」
「そうだ。愛し合うもの同志がいっしょになることが最良ではないか・・・・。」もうジュリアスがクラヴィスに言う事はなかった。
「そなたが良いのなら良い。だがきっとそなたの為にもそなたのことを思う花嫁をこの私が見つけてみせる!良いな我が半身よ!」
そう言うとジュリアスはクラヴィスのもとを去り、里に居る者達に今回の出来事の説明に向かっていった。
そんな半身をクラヴィスは穏やかな優しい瞳で見送った。