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「やはりもどろう・・・。」

オスカーは傍らの愛しい人を抱きしめていった。
アンジェリークはその言葉に体を強張らせたが、オスカーのそのまじめな性格にも愛しさを感じた。
このまま2人で逃げるのは簡単な事だが、オスカーは一族に背を向け、その一族からアンジェリークが誹謗され続けることが耐えられなかった。
自分はいい、自分は戦士なのだからどんな事でも耐えることが出きる。
でも彼女はどうだろう。
逃亡生活は彼女の心を磨耗させるに違いない。
オスカーはそれよりも、一族を説得して兄たちの誹謗から彼女を守り、自分だけが罪をかぶる事を選んだのだった。

「君は必ず俺が守る。誰にも君を傷つけたりはさせない。」

そう言ってアンジェリークを安心させる様にオスカーは優しい微笑を見せた。
そして、アンジェリークもその言葉にうれしそうにうなずいたのだった。

 

ジュリアスが里の中央に今日のためにしつらえられた祭壇で、人々を集めて今回の事を説明し始めた。

「だから今回の事はすべて我が双子の片割れ黒竜の承知していることなのだ。であるから、もし紅竜がここに戻ったとしても何も問題は無い。我らは紅竜の幸せこそを願っているのだ。よいな。そなた達も、これは黒竜の意思なのだから2人を責めることはあいならぬぞ!」

この説明に里の人々は皆顔を見合わせたが、紅竜は里の人々にとっても愛すべきものであったので、この事はすんなりと受け入れられたのだった。
だがその中でただ一人だけ、それを承服できないものがいた。
リュミエールは、オスカーとの仲を認められたアンジェリークに対する激しい憎しみの気持ちが、もうこらえきれないほど全身から溢れ出ていたのだった。
そしてオスカーはアンジェリークをかばうように里に戻ってきた。
猛烈な非難を浴びせられると思っていたオスカー達を里の人々は暖かく迎え入れた。
戸惑いを隠しきれない二人の前に族長の双竜たちが現れた。

「あ・兄上・・・これはいったい・・・。」
「ク・クラヴィス様・・・。」

戸惑う二人に黒竜は静かに口を開いた。

「よいのだ。私はオスカー、おまえが幸せになることのほうが大切なのだ。ましてや彼女が好きなのは私ではない。そなただ・・・。」

その信じられない言葉にオスカーは言葉が無かった。

「ですが・・・ですが兄上はそれで良いのですか?私が憎くは無いのですか・・・?私は・・・私はあなたを裏切ったのです・・・。」
「裏切ってなどいない。言ったではないか。そなたにとっての正しき道を進めと・・・。」

オスカーはその大いなる愛に思わず涙した。
そして傍らのアンジェリークをしっかりと抱きしめた。

「ありがとう・・・ありがとう兄上・・・。」

周りのみんなが、その光景に暖かい眼差しで答えたその時、

「そんなこと許せるものか!!」

と、人垣の中から白刃をきらめかせ青竜が踊り出た。
そして手の持つナイフを振りかざし、オスカーの横に立つアンジェリーク目指して思いっきりそれを振り下ろした。

ブシュウ!!

確かなてごたえにリュミエールはにんまりと笑みを浮かべて切りつけた相手を見た。

「!!オ・オスカー??」

リュミエールのナイフを肩から受けたオスカーは、真っ赤な血しぶきを噴き出してその場に膝を折って倒れた。

「イヤーー!!オスカー!!」

信じられない光景にアンジェリークの絶叫が里に響き渡った。
そしてリュミエールは、倒れたオスカーに駆け寄る彼女を呆然と見つめた。
そして魂の抜け殻になったリュミエールはその場からショックのあまり翼を広げて飛び立ってしまった。
リュミエールの凶行に何が起こったのか理解できなかった双竜達は、リュミエールが飛び立ったのを見てはじめて我に返った。

「リュミエールを追え!逃がすでない!」

ジュリアスは慌てて指示を出し、自らもその後を追った。
クラヴィスは急いでオスカーに駆けより、その傷の程度を調べた。
オスカーの傷はかなり酷いものだったが、その命を脅かすものではなさそうだ。
普段から体を鍛えていたオスカーで有ればこそだろう。

「オスカー大丈夫か。」

クラヴィスの問いにオスカーはうっすらと閉じていた目を開いた。

「あいつを・・・リュミエールを責めないでやってくれ・・・兄上・・・あいつを・・・。」
「だが奴はそなたを傷つけたのだぞ。」
「俺は大丈夫だ・・・だがあいつは・・・あいつは、兄上あいつは死んでしまうかもしれない・・・お願いだ!あいつを助けて・・・俺の片割れをお願い・・・・。」

オスカーは気力を振り絞ってそう言うとついに気を失ってしまった。
アンジェリークは血まみれになりながらオスカーを抱きしめて泣いた。
そこへ里の医師が駆けつけて、オスカーを治療する為に診療所に運んで行った。

 

泉に飛んできたリュミエールは両手にべっとりとついたオスカーの血を眺め乾いた笑い声を出した。
そして、その血の付いた手で顔を覆い嗚咽を漏らした。

「なぜ・・・なぜです・・オスカー!!」

この世でオスカーほど大切なものはないリュミエールにとって、自らその片割れを傷つけてしまった衝撃は激しかった。
もしかしたら、オスカーはその命を落としてしまったのかもしれない。
そう考えた時、リュミエールにとってこの世はなんの未練もない無着色な世界となってしまった。
あの血しぶきを上げて倒れるオスカーの姿が目に付いてはなれない。
自然と手にしていたナイフを首筋にあてがった。

「待て!リュミエール!!」

後を追ってきたジュリアスの声に一瞬目をやってリュミエールは、その涙で濡れた顔になぜか穏やかな笑みを浮かべて思いっきりそのナイフを引いた。

「リュミエール!!」

その美しい水色の髪が風に舞いあがる中、真っ赤な血しぶきをあげてリュミエールは泉の中に沈んでいった。

「馬鹿が・・・・。」

ジュリアスは弟の死に溢れる涙を押さえることが出来ず、一人泉の中でなぜか穏やかな死に顔のリュミエールを抱きしめ嗚咽した。

 

一年後、あの悲劇から里の人々はやっと立ち直り始め、延期になっていた婚礼の儀をこの日、執り行うこととなった。
暗かった里の雰囲気がこの祝事に久しぶりに明るく活気を取り戻していた。
今日の結婚式には飛翼族の人々も招待され盛大に執り行われるのだ。
控えの間でオスカーは一人の来客を迎えていた。

「オスカー様?私を振ったんだからアンジェリークお姉様を幸せにしてくれなくっちゃ駄目ですよ?」

次期飛翼族の族長のコレットは、ウインクでオスカーをからかいながらお祝いの言葉を送った。
オスカーは微笑を浮かべて元婚約者のコレットに礼を言った。

「君にも迷惑をかけてしまった・・・すまない・・・。」
「うふ。私のことは気にしなくてもいいわ!今日はオスカー様より素敵な花婿さんを見つけて帰るから。だからいい人紹介してくださいよ?」
「それはもちろんだ!君にぴったりの奴を見つけてやるよ。本当に・・・・ありがとう・・・。」

そして顔を見合わせて二人は笑った。
その会話を傍らで聞いていたアンジェリークはコレットに深深と頭を下げたのだった。

 

結婚式は厳かに、そして盛大に執り行われ、二組の新郎新婦は人々に暖かく迎え入れられたのだった。
その日の花嫁は事のほか美しくその顔は幸せに輝いていた。
そして式が終ると里を上げての祝賀会が開かれ人々は歌い踊り、このすばらしい日を祝ったのだった。
その祝賀会を抜け出してオスカーは一人泉にやってきた。
そして持ってきた酒をついで、泉の空に高らかに杯を掲げた。

「おい・・・・聞こえるか?青竜・・・・俺の半身。俺は今日結婚したよ・・・俺は幸せになっておまえの分まで生きる・・・・。生きるよ・・・・。おまえが生きていてくれたら・・・おまえの幸せな姿も見たかったよ・・・。俺のたった一人の片割れ・・・俺のリュミエール・・・。」

一陣の風が泉を渡ってリュミエールがオスカーに向かって優しく微笑んだ様な気がした。
オスカーはにじむ涙をぬぐって微かに微笑むと掲げた酒を飲み干して、リュミエールに別れを告げると泉を後にした。
そして静けさだけが泉に残ったのだった。

 

END

 

 

やっと・・・やっと終りました・・・・。ほんとにお待たせしちゃいました。
お待たせした割りにたいした話じゃなくて申し訳ないです。
この話を思いついたのは、ラルク・アン・シェルの「FINALE」を聞いた時でした。めちゃくちゃ切ないおのメロディと歌詞に、これはオスアンだわ!と思い月の下でひそかな愛を語らう二人を書きたくてこれを書き始めたのでした。
最後はリュミちゃんじゃなくて、オスカーとアンジェの死ってのも考えたけど、やっぱこっちの方がいいな〜って思ってリュミちゃんには悪いけど死んでもらっちゃいました・・・。ごめんね〜。
またこちらの感想もお待ちしてます。

 

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