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翌日、オスカーは二週間後に控えた兄たちの婚礼の準備のために村中を駆けまわっていた。
族長の結婚式ともなれば、それはもう一族あげての祝賀である。
式場の祭壇の手配から、その後開かれる祝宴の手配とオスカーはめまぐるしく忙しかった。
やっと一息ついてオスカーは村はずれの大木の下に腰をおろした。
ホッとひとつため息をつくと、オスカーは大きく伸びをして上を見上げた。
と、オスカーの目にみょうなものが入ってきた。「な・なんだ?」
よ〜く目を凝らすとそれは人の足だった。
白く細い柔らかそうな足が2本、木々の間からぶらぶらしている。
不思議に思ったオスカーは、その大木を登りはじめた。「あ・姉上?」
そして、その先にアンジェリークを見つけてオスカーは目を丸くした。
「あら?紅竜様。」
アンジェリークは輝くばかりの笑顔で微笑んだ。
オスカーは驚きと、その笑顔にあっけにとられてまるでバカみたいに口をぽっかり開けてアンジェリークを見つめていた。「姉上。いったいどうしてこんなところに登っているんですか。危ないじゃないですか。」
やっとのことでオスカーはアンジェリークに話しかけた。
「まあ?どうして?私だって翼はあるのよ。」
そう言うとアンジェリークは背中に力を込めて大きな真っ白い翼を出した。
オスカーはその鳥を思わせる翼にあっけにとられた。
飛竜族は、すべてコウモリのような皮膜のある翼を持っている。
ふだんそれは背の中にしまわれていて、必要なときだけにその背から伸ばす。
だが、飛翼族はその名にあるような翼を持つものはまれで、ごく限られた者しかいないという。
彼女の翼は白く輝き、見たこともないその美しさにオスカーは見とれた。「美しい…。」
思わずオスカーは感嘆の声を漏らした。
その言葉にアンジェリークは頬を染めた。「い・いやだわ。紅竜様からかわないで…。」
恥じらうアンジェリークは、可憐そのものでオスカーはまたしても彼女ひどく意識した。
慌てて視線を逸したオスカーにアンジェリークは小首をかしげる。「どうかなさったの?紅竜様。私何か悪いことを…。」
手をのばしたアンジェリークにオスカーは驚いて身を引いた。
その途端、アンジェリークは足をすべらせた。「キャー!」
羽ばたく間もなく、アンジェリークはオスカーによって抱きとめられていた。
「だからいわんこっちゃない!!」
オスカーは彼女を抱きしめながらつぶやいた。
「ごめんなさい。紅竜様…。あ・でも私もう大丈夫です。すみません…。」
アンジェリークは恐る恐るオスカーの顔をのぞきこんだ。
そして、そこにあった切ないような哀しいアイスブルーの瞳が、彼女の心臓に針を刺したような痛みを感じさせた。
ドキドキする胸にアンジェリークは戸惑った。
オスカーはと言うと、腕に抱えたアンジェリークの軽い重みと、彼女から漂う甘い香りに酔いしれていた。