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アンジェリークは、オスカーと別れてから自室にもっどって、今あった出来事を思い出していた。
気分転換のつもりで登った木の上で、あんな事が起こるなんて・・・。
今も胸がドキドキしている・・・。オスカーは、美しい男だ。
逞しい体と、どんな女性をも魅了するであろう甘いマスク。
燃えるような赤い髪に、凍てつくようなアイスブルーの瞳。
アンジェリークは、まるで夢の中でふわふわとした浮遊感を味わっているような甘い錯覚に囚われていた。「我が花嫁殿・・・。」
突然、夢の中から現実に呼び戻されて、アンジェリークは振り向いた。
その先には、自分の婚約者である黒竜クラヴィスが入り口に手を掛けて立っていた。「黒竜様・・・。」
アンジェリークの驚きの表情を見て、クラヴィスは苦笑した。
「花嫁殿は、婚約者の訪問が意外らしい。」
そう言うと、クラヴィスはまだ目を丸くしている彼女の部屋に入ってきた。
そして、彼女の前に立つと、いきなりキスをした。
あまりの事にアンジェリークは驚き、悲鳴と共にクラヴィスを突き飛ばした。
突き飛ばされたクラヴィスは、よろけて傍らに置いてあったベットに腰を落とした。「な・なにをなさるの?!」
口をぬぐいながらアンジェリークが抗議の声をあげると、またしてもクラヴィスは笑った。
「おかしな事を言うのだな、花嫁殿。私はおまえの婚約者だ。そして、2週間後には夫となる身なのだ。その私が、自分の妻となる女にくちづけて誰がとがめると言うのだ?」
なにも言い返せないアンジェリークは、ただ黙ってクラヴィスを睨みつけた。
クラヴィスはそんなアンジェリークを面白そうに見つめ、自分が腰掛けた隣をポンポンと叩いた。「ここへくるがいい、花嫁殿。」
ベットを叩くクラヴィスの意味するところに、アンジェリークは戸惑った。
たしかに今、目の前にいる男は自分の夫となる人物なのだが、心は別に彼を夫と認めている訳ではなかった。
まだ恋をする事も無く、この村に嫁いできたのだから、それはしょうがない事なのだが・・・。
両手を固く握り締めて立ち尽くすアンジェリークを、クラヴィスはニマニマと見つめる。「どうしたのだ?さあくるがいい。」
「黒竜様・・・。私・・・私・・・。」どう言えばいいのかわからずにアンジェリークは言いよどんだ。
と、突然クラヴィスは立ちあがり、彼女を抱き寄せた。「アンジェリークよ。もう後2週間だ。覚悟を決めておくのだな。」
クラヴィスはそう言うと又彼女にくちづけた。
アンジェリークは今度は突き飛ばしたりはしなかったが、そのくちづけに甘い感情を抱く事は出来なかった。
クラヴィスはそんなアンジェリークの気持ちを、知ってか知らずかただ皮肉な笑みを見せてこの部屋を後にした。
残されたアンジェリークはオスカーに感じた浮遊感とは別の重苦しい感覚に胸が押しつぶされそうだった。