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そんな頃オスカーは、いまだ残るアンジェリークの感触に酔っていた。
やわらかな彼女の体とふわふわとした彼女の金の髪から香った甘い香りを思い出しては、胸に湧き上がる甘美な思いに胸をこがした。「姉上…。」
好きになってはいけないと思いながらも、オスカーの心はすでにアンジェリークによって支配されてしまっていた。
好きになる気持ちをもうオスカーは止められなかった。
だが、それは自分の中だけに止めようと決心していた。
彼女は兄の妻になる人。
自分の思いは彼女にとっても、そして兄に対しても迷惑なものなのだ。
彼女に嫌われたくない。
兄も裏切りたくない。
オスカーはこの生まれたばかりの激しい恋心を、理性でギュッと心の奥底に閉じ込めた。
「オスカー?どうかしたのですか?」
切ない思いに気をとられてぼーっとしていたオスカーに、声がかかりオスカーは振り向いた。
「リュミエール…。」
「一体どうしたんです。なんだかぼーっとして変ですよ?」オスカーの片割れの青竜リュミエールは、心配そうに彼の顔をのぞきこんだ。
「何でもない。心配かけたな。」
オスカーは努めて明るく笑った。
しかし、リュミエールの心配は消えることはなかった。「オスカー、私とあなたは対なのです。あなたが思い悩めば私にもわかるのですよ。何を悩んでいるのですか?言ってください。」
そう言ってさしだされたリュミエールの手を、オスカーはことさら乱暴に払いのけた。
「何でもないんだ。ほっといてくれ!」
強い語調でそう言い放つと、オスカーは逃げるようにリュミエールの前から立ちさっていた。
「オスカー…。」
リュミエールは払われた手をもう片方の手で握りしめ寂しそうにつぶやいた。
リュミエールにとって片割れのオスカーは、いつも自分のあこがれだった。
生まれたときより紅竜であったオスカーは、活発で行動派。
対して、青竜である自分は、おとなしく内向的であった。
対で生まれてくるのだから仕方がないのだが、リュミエールは自由に飛び回るオスカーにあこがれていた。
その気持ちは成長とともに強まり、恋とか愛とかとは違う、何か自分だけがオスカーの理解者なのだという歪んだ思いにとらわれるようになっていった。
オスカーが好きなもの、オスカーが嫌いなもの、すべてオスカーに関することに興味を持ち、彼を理解することに喜びを感じた。
リュミエールにとってオスカーは双子の片割れというより、偶像、まるで神か何かのように絶対的な崇拝の対象となっていた。
今、オスカーがいったい何を悩んでいるのか、それが今リュミエールにとっての一大関心事となってしまったのだ。「あなたを理解するのは……私だけです。」
リュミエールの暗い情熱が徐々に彼の体を覆っていった。