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翌日、オスカーはまたあの木の下にやってきて少々の期待を持って木の上を見上げた。
そしてまたそこに、あの白い脚を見つけたのだった。

「姉上…。またこちらですか?」

木の上に登って遠くを眺めるアンジェリークに声をかけた。

「紅竜様…。」

振り向いたアンジェリークの表情は暗かった。

「どうしました姉上…?何か嫌なことでも?」

オスカーが心配げに言うと、アンジェリークはうつむいてしまった。
オスカーは、アンジェリークが腰掛けている枝の隣に座って彼女の顔をのぞきこんだ。

「姉上。このオスカー姉上の力になります。何なりといってください。どうされました。」

オスカーの言葉にアンジェリークは悲しげに

「いいの。仕方がないんですもの。」

といって笑った。

「私の結婚は一族の長によって決められていたことだし、私は幼いころよりそういわれてきたし思ってもいたわ。だから、私の結婚への決意はできていたはずだったのよ。昨日までは…。」

それだけ言ってアンジェリークの瞳からは、大きな雫が落ちた。

「兄上を…兄上を愛せないのですか?」

オスカーの言葉にアンジェリークの頭がはじけように持ち上がった。
その驚いた表情に彼女の答えがあった。
すぐにアンジェリークはオスカーの瞳と視線がぶつかり、オスカーの瞳から逃げるようにその視線を逸した。

「黒竜様が怖いのです…。」

心の中を見すかされそうで、目線をはずしたままアンジェリークはつぶやく。

「兄上が?黒竜兄上は深淵を見つめる方です。何を思っているのかわからないところはありますが、ほんとうは誰よりも優しいはずですよ。姉上…慣れるまでは大変でしょうが恐ならないでやってください…。」

オスカーは自分の気持ちを抑え、彼女の不安を取り除こうと思った。
そんなオスカーにアンジェリークは優しく微笑んだ。

「紅竜様はお優しいですね。」
「私がですか?ハハハ。私はこの飛竜族の武人です。本当は私のほうが怖いかもしれませんよ?」

ウィンクを飛ばして冗談を言うオスカーを見て、アンジェリークは笑った。
心からのその笑顔にオスカーは安堵した。
彼女が不幸になるのは耐えられない。
そしてまた兄が不幸になるのも今のオスカーには耐えられないことであった。
そして二人はしばらくの間、とりとめがない話を交わしあい穏やかな時を過ごしたのだった。

 

二人が木の上で談笑しあっている頃、その木の下で二人をうかがう者がいた。

「紅竜……。」

青竜リュミエールは、木の上からぶらさがる4本の足を眺めていた。

「あなたが姉上をどう思っているのか私には手にとるようにわかる。あなたの好みを知り尽くしている私なのですからね。でもそれは黒竜兄上への裏切り……。あなたを理解し守るのは私にしかできない大切な役目。だからあなたを害するものはすべて私が取り除きましょう……。」

リュミエールは揺れるオスカーの足を見あげ、暗い笑みを浮かべた。

 

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