2

アリオスは慌てて階段を駆け上り、双子の兄、このアルヴィース家の当主であるレヴィアスの部屋へと急いでいた。
そしてノックもせずに兄の部屋へと飛びこんだが、そこで目にした光景に用があったことも忘れて怒りを覚えた。

「いや!やめてください!お願い許して!!」
「何をしている!キーファしっかり押さえていろ!こら女暴れるな!可愛がってやるんだおとなしくしろ!」

部屋の奥にしつらえられた大きな天蓋つきのベットの上でアルヴィース家の当主レヴィアス・アルヴィースは、一人の娘を無理やり取り巻きの男たちと共に犯そうとしていたのだった。
その光景に激しい怒りを覚えたアリオスは声を荒げた。

「兄上!恥を知れ!か弱き女性に多勢の男がいったい何をしているんだ!」

その声にうんざりしたようにレヴィアスは振りかえった。

「また説教かアリオス。白殿は道徳心がお高いことだな。」

レヴィアスはアリオスの容姿を皮肉っていつも白殿と言ってからかった。
アリオスとレヴィアスは一卵性双生児だったが、なぜかレヴィアスは黒髪、アリオスは反対に白に近い白銀の髪をしていた。
アリオスはすっかり気がそがれてふてくされるレヴィアスの脇から女性を助け出すと、自分の上着をそっと掛けた。

「怖かったろう。すまなかった。さあ、行きなさい。」

怯える娘はレヴィアスの妻レイチェルの侍女のコレットであった。

「あ・ありがとうございます・・・・アリオス様。」

泣きじゃくりながらコレットは掛けられた上着を胸の辺りで掻き合わせ、廊下を一目散に自室に向かって走り出した。
残った双子の兄弟の間には険悪な雰囲気が漂い、2人は激しくにらみ合った。

「俺の楽しみを奪っていったい何のようだ。」

レヴィアスは脱ぎ散らかした服を身につけながらアリオスに吼えたてた。

「兄上。アンジェが泉で溺れたそうだ。助けた男がアンジェを送って今玄関に来ている。」

アリオスは本来の目的をいらただしげに告げた。
そのとたん、レヴィアスは顔色を変え部屋を飛び出して行った。

 

アルヴィース家の玄関ではオスカーが、濡れたアンジェリークに自分のマントを羽織らせ、家人の登場を待っていた。
アルヴィース家は、伯爵家としては裕福な方でその館は多分に豪勢なものだった。
その大きな玄関ホールを見渡していると正面の階段から声が上がった。

「アンジェリーク!!」

階段を駆け下りながらレヴィアスは叫んだ。
その声に一瞬隣に立つアンジェリークは体を震わせた。

「お兄様・・・・。」
「いったいどうしたと言うのだ!アンジェどうして泉なんかに・・・・。」

部屋であんなことをしていた人物とは思えないほど、レヴィアスはうろたえた様子で妹を見つめた。

「ごめんなさいお兄様・・・・。私・・・ちょっと泉に涼みに言って足を滑らせて泉に落ちてしまったの。」

アンジェリークの言葉の嘘を知ってはいるが、オスカーはそれを黙っていた。

「とにかくおまえが無事でよかった・・・。」

表情を緩ませアンジェリークを抱き寄せたレヴィアスだったが、マントの下の水に濡れて肌が透けるほど艶めかしい夜着姿のアンジェリークを見たとたんオスカーに対して鋭い視線を投げかけた。

「妹を助けてくれたそうだな。礼を言おう。しかし、我が妹に邪なことはしておらぬだろうな。」

レヴィアスの言葉にオスカーは不快感を露わにした。

「大層な挨拶ですな。アルヴィース伯。」
「お兄様!失礼だわ!この方は私を助けてくださったのに。それにこの方はお義姉様の・・・・。」

オスカーを庇うアンジェリークにレヴィアスは更にオスカーを睨みつけた。

「申し遅れました。私はアルヴィース伯爵夫人レイチェルの兄で、オスカー・フレイアスです。妹に会いに参りました。妹に会わせていただけませんか。」

オスカーがそう挨拶をするとレヴィアスは怪訝な表情を浮かべた。

「何を言っているんだ?」
「は?何とはどういうことです?妹はレイチェルは何処です。」

レヴィアスの先ほどからの態度に苛立ちを覚えたオスカーは、顔をしかめてレヴィアスを睨みつけた。
そこへ後からやってきたアリオスが口を挟む。

「ご存知無いのかオスカー殿。義姉上は一週間前に北の塔から身を投げて亡くなれました。この間フレイアスの方も招いて葬儀を挙げたばかりですよ。」

オスカーは声を失った。

 

  TOP