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あまりの返答にオスカーは驚きを隠せなかった。
オスカーが、王城を出発したころにはもはやレイチェルはこの世にいなかったことになる。

「なぜ・・・どうしてなんだ・・・どうしてレイチェルがそんなことを・・・。」

ショックのあまり力なく呟くオスカーにレヴィアスは冷たく言い放った。

「妻は不貞を働いたのだ。馬屋番の男といい仲となり、それを私に見咎められ罰として北の塔に幽閉したのだが相手の男を成敗したのを知ると私に呪いの言葉を投げつけて塔の窓から身を投げたと言う訳だ。兄上。」

レヴィアスの説明をオスカーは信じられなかった。
馬屋番との恋?あのレイチェルが?
オスカーの知るレイチェルは、明るく快活ではあったが貴族の娘にありがちな気ぐらいの高さと、身分に対する明らかな偏見があった。
その妹が、貴族の男以外のそれも使用人である馬屋番の男とそのような仲になるなど到底考えられるものではなかったのだ。

「そんなこと・・・ありえない・・・・。」

オスカーの呟きにレヴィアスはあからさまに嫌悪感を露わにした。

「私が申し上げたことが嘘だとおっしゃるのか?」

まるで敵かなにかを見るような目つきのレヴィアスにオスカーは戸惑った。
そんな二人の間にまたもやアリオスが割って入ってる。

「オスカー殿。長旅でお疲れでしょう。義姉上の訃報も今お知りになったご様子ですし、今日のところは我が家にお泊りください。あなたは妹の恩人でもありますし、ゆっくりとご滞在下さって結構ですから。今部屋を用意させましょう。」

アリオスの申し出にオスカーは力なくうなずいた。
レヴィアスはと言うと不服そうに弟の決定を受け入れたようだ。
アンジェリークは、この場がなんとか収まりそうな気配にホッと息をついた。

 

オスカーは客室へと案内され、一人部屋の中で今までに起こったことを考えていた。
レイチェルの手紙には、彼女が命を奪われると恐れ自分に助けを求める内容が書かれてていた。
そして今、その妹の元へと来て見ると彼女は自殺をしてすでにこの世の人ではなく、その原因は彼女の不貞にあるという。
不貞を働いたことを夫に知られ、夫に殺されると思い彼女は自分に助けを求めていたのだろうか。
だが、その不貞じたいがオスカーには納得がいかない。
それとも妹はたった2年の間に身分に対する偏見が無くなってしまったのだろうか。
それにしても、今オスカーの目には嫁ぐ前に見せていた妹の結婚生活に夢を描いて輝くばかりの瞳で微笑んでいた彼女の笑顔が思い出されて、ただただ声を殺して嗚咽するばかりだった。

 

「お兄様。本当にごめんなさい。」

レヴィアスの部屋でアンジェリークは、怯えた表情を浮かべて兄であるレヴィアスを見つめていた。
レヴィアスはそんなアンジェリークを優しく抱き寄せる。

「もう泉なんかに行くんじゃない。おまえになにかが有ったと思うと俺は生きた心地もしない。おまえが無事で本当によかった。」

アンジェリークのやわらかな金髪に頬を寄せ、愛しげに口付けながらレヴィアスはアンジェリークを抱く腕に力をこめた。
そんなレヴィアスの腕の中でアンジェリークは震えるようにその身を固くした。

「何を怯えているんだアンジェ。私は怒ってなんかいないぞ。それとも水に濡れたから寒いのか?」

優しげな労わるような眼差しで妹の顔を覗きこむ兄にアンジェリークはまだ怯えた眼差しを向けた。

「だってお兄様・・・・。お義姉様が亡くなられたのはもとはと言えば私のことが原因なんですもの・・・・。私・・・私どうしたら・・・・。」

その大きな緑の瞳に涙が浮かび上がってその白い頬をぬらした。

「そんなことは無い!心配するな。もともとあの女を妻にしたことが間違いだったのだ。おまえはなにも気にする必要なんか無いんだ。だから泣くな。おまえの泣き顔は見たくない・・・・。」

そう言ってレヴィアスはアンジェリークの頬を伝う涙をその唇でぬぐった。

 

コレットは今この館にオスカーがやってきたことを知って、急いでその部屋を訪ねた。

「オスカー様。お久しぶりです。」

部屋に入ったコレットを見て、オスカーは驚きの表情と共にうれしそうに笑った。

「コレット!コレットじゃないか。久しぶりだ。元気だったか?でも・・・ああそうかおまえはレイチェル付きの侍女としてこの館に来たのだな。」

コレットはレイチェルとは乳兄弟の仲にあり、オスカーにはレイチェル同様妹のように可愛がられていた。
コレットの方も、オスカーを兄のように慕い、レイチェルが嫁ぐまでフレイアスの館で暮らしてきたのだった。

「コレット。君なら知っているんだろ?レイチェルは本当に不貞を働いて自殺したのか?」

オスカーは真剣な眼差しでコレットを見つめた。
だがコレットは哀しげにその青緑色の瞳を伏せ、

「すみません・・・・オスカー様。レイチェル様が自殺をされたのは本当です。塔から落ちるのを私見てしまったんです。でもレイチェル様が不貞を働いていたかどうかは私にもわかりません。相手の男のことはなにもレイチェル様は仰ったことがありませんし、その馬屋番に会ったこともないんです。」

と言った。
オスカーはその話に怪訝な面持ちになり、考え込むように呟いた。

「何か変だ・・・。レイチェルは使用人に恋するような娘ではなかった。そしてもし本当に恋人がいたのならレイチェルは君にだけは打ち明けたはずだろ?でも君はその相手のことをいっさい知らない・・・・。あまりにも不自然で妖しいじゃないか。レイチェルは俺に殺されると言っていた。これは調べて見る必要がありそうだ・・・・。」

その言葉にコレットも神妙にうなずいた。

 

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