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男達は皆それぞれ剣を持ち、残忍な笑みを浮かべて二人を見ている。
アンジェリークの脳裏に半年前の光景が甦った。「いや!いやーーー!!」
恐怖に気が動転するアンジェリークをオスカーはしっかり抱きしめ耳元で囁いた。
「大丈夫だ。アンジェリーク俺に任せろ。君を必ず守る。」
涙を流し恐怖に震えるアンジェリークにそう言うと、オスカーは腰の剣をすらりと抜き不敵に笑うと馬から飛び降りた。
「おまえ達がなにものかは知らんが、愚かな奴だ。この俺に刃を向けるとは・・・今それを思い知らせてやろう。」
オスカーの顔が戦士の顔になり、アイスブルーの瞳が好戦的に輝いた。
「やっちまえ!!」
一人の男の声を合図に一斉に男たちはオスカーに襲いかかった。
アンジェリークがルヴァの最後を思い出して悲鳴を上げる。
だがオスカーは本物の戦士だった。
一人また一人と男達はオスカーのまるで舞を舞うかのような優雅で乱れの無い剣技にかかって倒れて行く。
右から左からと、どちらの方向から襲われてもオスカーはその斬撃をものともせずにかわし、そして的確な反撃によって相手を一撃のもとにしとめた。
まるでそれはしなやかな豹のようでもあり、鷲や鷹のような猛禽類の様でもあった。
男達の間に焦りの色が見え始める。
その力量はあまりにも違いすぎた。
それもそのはずだ。
オスカーは王城で騎士見習いをしていたが、あまりの強さにもう国中の騎士達で彼の相手ができるものはいなかった。
あの豪腕で有名な英雄ヴィクトール将軍さえも例外ではなかった。
国王はぜひ正式な騎士となって将軍職につき王城に留まることを懇願したが、フレイアス伯爵家の嫡男としていつまでも王城に留まり続けることは出来ないと言って国王の申し出を固辞していたのだった。
そんな国一番の剣術使いと名高いオスカー・フレイアスに多勢とは言え戦いを挑むような馬鹿は、やはりここが王城から遠く離れた辺境だったからだろう。
そしてそのことを愚かな男達は、その身をもって知ることとなった。
ものの十分と経たぬまにほとんどすべての男達はその地に倒れ、残ったものは命惜しさに一目散に逃げ出した。
戦いに勝利したオスカーは汗一つかくことも無く、平然と剣を振り払いそこについた血糊を吹き飛ばした。
アンジェリークは信じられないその光景に、今はもう涙は止まってただ呆然と赤い髪の勇者を見つめていた。
そしてオスカーはアンジェリークの方に向き直ると優しく微笑んだ。「怖い思いをさせたな。でも安心しろもう大丈夫だ。」
アンジェリークを安心させる為に、馬上の彼女をそっと下ろしてその髪をなでた。
するとアンジェリークはオスカーの胸に飛び込んでしっかりとしがみついた。「あなたが・・・あなたがルヴァ様の様に死んじゃったらどうしようって・・・どうしようって・・・怖かった・・・怖かったわ!!」
今度は安堵の為にアンジェリークの頬を涙が伝った。
そんなアンジェリークをオスカーはたまらなく愛しくなり、力強くしっかりと抱きしめてその心の高まりのままに激しく口付けた。
奪う様にそして激しく唇を求めるオスカーをアンジェリークは夢のような幸福感と共に受け入れた。
もう怖くない・・・この人なら私に悪夢を見させることも無い・・・。
アンジェリークは力強いオスカーに恋していることをはっきりと自覚した。
そしてそれはオスカーとて同じであった。
アンジェリークを、この可憐な少女を彼はどんなことからも守ってやりたい、もう恐怖に振るえさせはしないと強く思った。
そして二人はその気持ちをまるで確かめ合うように何度も何度も口付けを交し合ったのだった。
そしてこれが二人の苦難の幕開けだと言うことも知らずに・・・・。
その夜、アンジェリークは幸せな気分でベットに入った。
今でもまだオスカーの唇の感触が残っている。
そっと唇を指でなぞってアンジェリークは吐息を漏らした。
そしてゆっくりとその瞳を閉じると、夢の中でもオスカーに会えることを祈って眠りについた。
どれくらい経っただろう。
眠るアンジェリークは、首筋に甘い痺れのような感覚を覚えて目を覚ました。
そしてそこに兄であるレヴィアスが、自分に覆い被さり首筋に舌を這わせる姿を見た。「お兄様?!」
驚いてアンジェリークはレヴィアスを払いのける。
するとレヴィアスは今度はアンジェリークの唇を奪った。「い・いや!止めてお兄様!」
アンジェリークは激しい抵抗を示したが、それもレヴィアスの力に押さえこまれてかなわなかった。
存分にアンジェリークの唇をむさぼると、レヴィアスは不敵な笑みを見せて言い放った。「いまさら何をいやがる。アンジェリーク。」
アンジェリークはがたがたと震えて怯えた目でレヴィアスを見つめた。
「忘れた訳ではあるまい?アンジェリーク。おまえはもう俺の物だと言うことを・・・。」
「お兄様・・・。」
「悪夢に怯え、泣きじゃくるおまえを慰めたあの夜をおまえは忘れた訳ではあるまい。そして怯えるたびに俺を求めたことも・・・。もうおまえは俺の物だ。いまさら誰の手にも渡すつもりは無い。そしておまえがおちた天使だと知ったら、あの男はどうするかな?それでもおまえの手を取ろうとすると思っているのか?」レヴィアスの言葉にアンジェリークは涙をこぼしながら震えた。
「さあアンジェ。今おまえを本当に愛しているのが誰なのかをもう1度わからせてやろう。」
そう言うとレヴィアスはアンジェリークの夜着゙を思いっきり引き裂いた。
「いやーーー!!」
悲鳴と共に現れた白磁器のような白い肌を見てレヴィアスは感嘆の溜息を漏らす。
そしてその雪のような胸元に自分の所有印を押すかのように肌をきつく吸い上げた。
ばら色のその跡をレヴィアスは満足げに見つめる。
アンジェリークはもはや抵抗を示さなかった。
ただただ自分の愚かさと弱さを呪って嗚咽を漏らすしかなかった。
だがその時、突然部屋のドアが開いた。「兄上!もうやめてくれ!!こんなこと間違っている!アンジェが・・・アンジェが可哀想だと思わないのか!!」
アリオスの声にレヴィアスはまたしてもうんざりとした様に振り向いた。
「アリオス・・・おまえがそれを言うのか。」
「何?!どう言うことだ!」
「フッ。おまえは馬鹿だ。道徳心なんかに縛られて本当の自分の気持ちに気付かない振りをしているだけの偽善者だ!おまえの気持ちを俺が気付いていないとでも思っていたのか?」
「な!何が言いたいんだ!レヴィアス!」
「ハン。まだそんなことを言うのか!おまえはなァアンジェを抱く俺が羨ましいんだ。なぜならおまえもそうしたいと強く思っているからなんだよ。俺はアンジェを女として愛している。そうもうずっと前から愛しているのはアンジェだけだ!その気持ちに俺は素直に従ったまで。おまえのような臆病でも偽善者でもないぞ!」アリオスは反論したかったがそれが出来ずに唸っているだけしか出来なかった。
そうレヴィアスの言う通りだ。
アリオスは妹であるアンジェリークを女として愛していた。
レヴィアスの様に何度アンジェリークに口付けたい、その体を抱きたいと思ったことだろう。
だがそれをアリオスの理性が許さなかった。
どんなに恋い慕おうともアンジェリークが妹である事実は変わらないのだ。
その理性だけがアリオスに欲望から救っていたのだ。
そのことをレヴィアスに今はっきりと指摘されて、アリオスは動揺を隠しきれなかった。
そしてそんなアリオスを尻目にレヴィアスはまたアンジェリークを蹂躙し始めるのだった。
涙に咽ぶアンジェリークを救いたいと思って居るのだが、心の中で自分もレヴィアスと同じようにアンジェリークを蹂躙しているのだと思ったらアリオスは自分が許せなく、この場にいるのが居たたまれなくなって、ついに部屋を飛び出していた。