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オスカーは昨日の余韻のままにアンジェリークの姿を探した。
彼女のことを考えると胸がたまらなく熱くなる。
今すぐにでも彼女を抱きしめて、その唇を奪いたいと言う衝動にかられてしまう。
こんなに心を奪われた相手がかつていただろうか?
オスカーはこの初めて経験する恋に夢中になっていた。
あちこち動き回ったが、オスカーはアンジェリークを見つけることが出来なかった。
オスカーは少々落胆したが、気を取りなおすと町に行って見ることにした。
この館を取り巻く森を抜けたすぐそばにこの領地の城下町はある。
ここで昨日知ったキーファと男の関係とレヴィアスとキーファの関係を調べて見ようと思った。
町の住人ならまた違った情報をもたらしてくれるかもしれない。

 

アンジェリークは今だベットの中にいた。
やっと本当の意味で救われると思える人に出会ったのに、自分の弱さが招いた過ちでそれもかなわぬものとなった。
今もはっきりと残るレヴィアスの所有印。
それは全身いたるところに見られた。
雪のように白い肌にまるで花が咲いた様に赤くそしていまいましく。
いつしかまたアンジェリークの頬を涙が伝っていた。

「オスカー様・・・・。」

声を出せば更に切なさが募った。
でも自分は汚れた女なのだ。
彼のような光の中に戻ることはもう出来ない。
兄があの夜の出来事をただの過ちとは思わず、本気で自分を求めていたのだとは知らなかった。
あの夜はそう・・・ルヴァが亡くなった日の夜だった。
その夜アンジェリークは、目の前で無残にも切り裂かれた婚約者の死体が目に焼き付いていてどうしても眠ることなど出来なかった。
無理にでも目を閉じようとすると恐ろしげな男たちの残忍な笑みが見え、その中で悲鳴を上げながら血を吹き倒れるルヴァの姿が見える・・・・。
その断末魔が耳を付いて離れない。

「いやぁぁぁあああ!!!」

アンジェリークは気が狂わんばかりに叫んだ。
どれほどもう安全なんだと言われても、ここが自分の部屋でもうあの男達は来ないのだとしても、アンジェリークの目には今もあの恐ろしい光景がずっと繰り広げられているのだ。
涙を流し泣き叫び、我を失って両手を広げ誰かの助けを必死で求めた。
すると突然誰かに抱きすくめられ、優しい声で何度も囁かれた。

「大丈夫、大丈夫。悪い奴らは残らずみんな死んでしまったよ。」

アンジェリークのうつろな瞳に映ったのは兄レヴィアスの優しげな微笑だった。

「兄様・・・。」

レヴィアスは頬を伝う涙をその唇で優しくぬぐった。
そしてアンジェリークの乱れて顔にかかる髪を優しく撫で付けて整える。
徐々にアンジェリークの中に安心感が広がろうとした時、優しく口付けられた。
それは甘く、アンジェリークの恐怖に震える心を落ち着かせる。
その優しく、とろけるような口付けに頭の芯がボーっとなって、彼女の心を支配していた恐怖を何処かに追いやって行く。
なんだかわからない浮遊感に支配され始めると、そこに快感の波がやってきた。
レヴィアスがアンジェリークの体を巧みに愛撫し始めたのだった。
またその快感が彼女の中に巣くう恐ろしい者達を遠ざけた。
兄にその身を任せているとあの恐怖が消えて行く。
アンジェリークは朦朧とした意識の中でそれだけしかわからなかった。
今一体何がその身に起こっているのかさえよくわかってはいなかったのだ。
ただルヴァの死や、男達の恐怖から逃れたくて必死に兄にすがった。
それが過ちであったと気付いたのはすべてが終り、安らかな眠りから目を覚ました時だった。
無数にその身に散らばる過ちの跡。
隣で眠る裸の兄と同じ姿の自分。
わずかに残る過ちの余韻と失った純潔の証。
あまりのことにアンジェリークは叫んでいた。

「いやいやいやいやぁぁあああ。」

その声に気付いてレヴィアスは目を覚まし、妹を力強く抱きしめた。

「何も気に病むことなんかない!おまえはなにも悪くないんだ。恐怖がおまえを飲みこんでしまわないようにしたことなんだよ。もう大丈夫なんだおまえの恐怖は俺が払ってやる。俺がついてる。だから安心するんだ。おまえは助かったんだ。」

アンジェリークはあまりのことに心の均衡が崩れていたのかもしれない。
レヴィアスの言葉をそのまま受けとってすがり付いてしまった。
でも運命はそれだけでは彼女を許しはしなかった。
明るい光に満ちた声でアンジェリークの名を呼びながら、義姉のレイチェルがアンジェリークの寝室のドアを開けたのだった。
驚きで見開かれたレイチェルの美しいスミレ色の瞳をアンジェリークは忘れることが出来ない。

「何?これはどう言うことなの?あなた達は兄妹なのよ?それなのに・・・・いや!なんて汚らわしいの!」

レイチェルの顔が見る見るうちに軽蔑の表情に変わる。
アンジェリークはわなわなと震えた。
もう何も考えられない・・・いや考えたくなかった。
心の均衡は完全に崩れ、叫び声を上げて髪をかきむしって泣いた。
レヴィアスの声が遠くで何かを言っているのが聞こえたが、もはや何を言っているのかわからなかった。
心の均衡を崩したアンジェリークはその間一体何が有ったのかまったくと言っていいほど何も覚えていなかった。
そして再びその心が正気を取り戻すのにかなりの時間を費やした。
その間ずっとつきっきりで看病してくれたアリオスから正気を取り戻して初めて聞いたことはレイチェルが不貞を働いて幽閉されたことだったのだった。
すでにあの日から5ヶ月が経とうとしていた。

 

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