12

キーファに馬屋番の男をこの館に連れてこさせてから2ヶ月、レヴィアスは時を待っていた。
レヴィアスはあの日、アンジェリークとの仲を妻であるレイチェルに知られ、それを責められた時から妻のことを疎ましく思うようになった。
今までレヴィアスにとって彼女は、いてもいなくても気にならないような存在だった。
ていよく言えば関心がなかったのだ。
もともとレヴィアスにとって愛を捧げるような存在はアンジェリーク以外いなかったのだから、どのような女が妻になろうとも妻に対して愛を捧げる気など毛頭無かったのだ。
一応夫としての義務は果たすが、それ以上のことはする気がなかった。
とにかくレヴィアスのすることをとやかく言いさえしなければ誰でもよかったし、何をしても口出す気も無かったし、妻という地位も保証すると言うことだったのだ。
だがひとたびレヴィアスに対して何か彼の癇に障ることをすれば・・・・そこにあるのは死だけだった。
そんなレヴィアスの本質をレイチェルが理解していたならば、彼に関心を持たれることもなかっただろう。
だがもう遅い。
レイチェルは自ら危険な野獣を起こしてしまったのだ。
レイチェルはまた貴族の妻らしく、夫の醜聞を誰にも漏らすことが無かった。
そのことはひいては自分自身の恥だと考えていたからだ。
それも彼女にとっては不幸だった。
そして彼女が夫の真の恐ろしさを知ったのは亡くなる一ヶ月前のことだった。
その日はなぜかレイチェルは胸騒ぎを覚え、とっさに兄であるオスカーへと手紙をしたためた。
なんだかわからない恐怖が迫るような気がしていたのだ。
その手紙をコレットではなくたまたま通りがかった使用人に手渡し、王城に向けて出すように言いつけた。
助けを呼んだことでやっと落ちついたレイチェルは疲れた体をベットに横たえ安らかな眠りについたのだった。
そして夜半・・・。
穏やかな眠りについていたレイチェルの部屋に数人の男たちが忍び込み、突如レイチェルを襲った。
暗闇の中レイチェルは悲鳴を上げるまもなく猿轡を噛まされ、目隠しをされ、両手足を縛られてどこかわからない部屋へと連れこまれた。
ベットらしきところへ乱暴に放り出され、やっと目隠しと猿轡がはずされたレイチェルの目に見えたのは不敵に笑う夫の姿だった。

「いったいこれはどう言うことなのレヴィアス!ここはどこ?私にいったい何をしようというの!」

レイチェルは訳がわからず、怒りに震えながら夫に向かってまくし立てた。
そんなレイチェルをまるで汚いものでも見るような蔑みの眼でレヴィアスは見つめ言い放った。

「ここは北の塔だ。おまえを不貞の罪で幽閉することにした。」

身に覚えの無いあまりにとっぴなレヴィアスの言葉にレイチェルは呆気に取られた。

「何を言っているの?私が不貞を働いたですって?いったいなんの根拠があってそんなことを言っているの?」

ありもしない濡れ衣を着させられてレイチェルの怒りは更に高まった。

「おまえは不貞を働くんだよ。これからな。」

レヴィアスの瞳が残忍な光に輝く。

「どう言うことなの?レヴィアス!」

レイチェルを運んだ男たちがレヴィアスの横からレイチェルを囲むように進んだ。
そして、レヴィアスは残忍な微笑みを見せながら男達に言い放った。

「やれ。」

そう言ってレヴィアスはきびすを返すように部屋を後にした。
レイチェルお囲む男達は好色そうなギラついた目で手足を縛られたままのレイチェルににじり寄った。
事態を理解したレイチェルは恐ろしさに震えながら叫んだ。

「いや!いや!あっちに行って、止めて、こないで!」

そしてすぐに彼女の絶叫が北の塔に響き渡った。
そしてその残虐な行為は連日連夜繰り返されしだいに彼女の精神を破壊していった。
それから一ヶ月の月日が流れレヴィアスはレイチェルの様子を見に北の塔にやってきた。
部屋の中のレイチェルは以前の輝くばかりの美しさも、伯爵夫人らしい気品も感じさせないくらいやつれていた。
そして部屋に入って来たレヴィアスを見た途端半狂乱となり、レヴィアスから逃れるように窓からその身を投げ出したのだった。
レヴィアスは落ちていったレイチェルを満足げに見送った。
こうしてレヴィアスは疎ましくなった妻を葬ったのだった。
レイチェルがオスカーに宛てた手紙はうっかり者の使用人のせいで忘れられ、それに気付いて王城に向けて発信されたのはレイチェルが亡くなる一週間前だった。
そのこともレヴィアスにとっては幸運だったかもしれない。

 

オスカーは自室で、アンジェリークの突然の変化について思い悩んでいた。
泉での彼女は明らかに自分に好意を抱いていた。
そのことは経験の深いオスカーには明らかな事実だった。
彼女は自分と同じくらいこの恋を意識したはずだった。
それなのに、たった1日の間にまたスタート地点に戻ったかのようだ。
いや元に戻った訳ではなく、彼女の態度は明らかに自分に対する恋心を押さえつけているような感じだった。
なぜ?
アンジェリークと自分との間に立ちはだかっているものはなんなのか。
オスカーにはそれが何なのかはさっぱりわからなかった。
でもこれほど心引かれた女はアンジェリーク以外にはいない。
その運命の人とも言えるアンジェリークをもはや諦める気もないし、かならず自分のほうに振り向かせて見せるとオスカーは自らの心に強く誓っていた。

 

  TOP