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「嘘だ・・・・。信じられない・・・。」

オスカーは絞り出すような声で唸った。

「嘘ではありませんわ。私はこの目ではっきり見たのです。アンジェリーク様と兄上のレヴィアス様が激しく口付けるのを・・・・。」

コレットは淡々とした口調で冷たくオスカーにそう告げた。
もちろんアンジェリークが抵抗していたことは故意にふせている。

「オスカー様。あの兄妹は穢れきっていますわ!お願いです。フレイアスの為にもあの方のことはお諦め下さいませ!」

コレットは必死の形相で、オスカーの腕にすがりつくとそう訴えた。
オスカーの方はあまりの衝撃にしばらく声も無かった。
アンジェリークが急に自分を避け始めた理由はこれだったのだ。
では彼女は兄を愛しているのだろうか・・・。
だったらあの瞳の意味はどう言うことなのだろう。
彼女は酷く何かに怯えていた。
その恐怖の対象はオスカーでないのは確かだ。
なぜなら、彼女の瞳は助けを求める者の目だったからだ。
何から助けて欲しいと言うのか。
その答えがこれではないのか。
もしレヴィアスによって関係を強要されているのなら、オスカーに対して助けを求めたくなる心も、そしてオスカーに心惹かれる彼女がそれをオスカーにだけは告げられない気持ちも理解できた。
レヴィアスという男は、彼女を手に入れるために彼女の婚約者を葬り、そして今度はオスカーをも葬ろうと企んだ。
このことからもレヴィアスは明らかにアンジェリークに執着している。
彼女のことを女としてみているのなら、レイチェルの一件もなんとなく想像がつくではないか。
レヴィアスが、わざわざ不貞の事実をでっち上げたのはレイチェルがレヴィアスのアンジェリークへの思いを知ったからではないのか。
レヴィアスの性格上、アンジェリークとの仲を裂こうとする存在を許せ無かったに違いない。
オスカーの頭の中で、今までに集めた情報の断片が、まるでパズルを組合せるようにぴったりと収まって行く。

「コレット・・・・俺は彼女を諦めない。」

何かを決意したようにそう告げるオスカーに、コレットは非難の声をあげた。

「なぜです!!あのように穢れた娘にどうしてそこまで思いを寄せられるのです。もっとふさわしい方はいくらでもいますわ!あの女はあなた様だけではなく、もう一人の兄上であるアリオス様までたぶらかしているような娘なのですよ!オスカー様がお相手なさるような女ではありませんわ!!」

アンジェリークへの憎しみを隠しきれないコレットは泣き喚いた。
オスカーはすっかり興奮して我を忘れるコレットをなだめるように抱きとめた。

「彼女が穢れていたとしても、俺が彼女を思う気持ちは変えられない。わかってくれコレット。彼女は弱い。自分に降りかかる運命に立ち向かうすべを知らずにもがき苦しむばかりだ。そしてそれが彼女に付け込む者にとってはまたと無いことなんだ。彼女は這いあがることが出来ずにいつも救いを求めて叫んでいる。俺はその叫びに気付いてしまった。そしてそれを俺は放っておくことなんて出来ない。男として、騎士として・・・・いや、ただたんに俺はアンジェリークが欲しいんだけなんだ。」

「でも!罪深い女ですわ!」

「罪深いのは彼女じゃない!レヴィアスだ!あの悪魔なんだ。彼女をあんなに追いこんだのも、立ち向かえ無いようにしたのも、彼女を捕らえる為にすべて奴が仕組んだことなんだ。あいつを倒さなければ彼女を救うことなど出来ない!」

オスカーの瞳には愛するものを救いたいという思いで闘志がみなぎっていた。
コレットはどうあってもオスカーの思いを覆すことは出来ないのだと、その瞳を見て悟った。
愛するものをどこまでも信じ、守ろうとする強い思い。
その思いに押されてコレットはもうなにも言えなくなってしまった。
この人はなんて強いのだろう。
恐ろしいまでの真実を知った今でも今だにアンジェリークを守りたいと思っている。
そして彼女を救う為に立ち上がろうとしている。
コレットはアリオスの拒絶にあっただけで、彼に差し伸べるべき手を引っ込めてしまった。
辛い真実を目の当たりにして、彼の苦悩から目をそむけた。
アリオスを愛しぬく為にオスカーのような強さが、今コレットは切実に欲しいとそう思った。

 

オスカーは翌朝早く決意をもってアンジェリークの部屋の前に立っていた。
時間的にはまだ早い。
コレットの言ったことが真実なら、この部屋にはレヴィアスがまだいるかもしれないとオスカーは思った。
信じたくない現実を目の当たりにしてしまうかもしれない。
だが行かなくては行けない。
そうしなければ、彼女を救うことなど、彼女をこの胸に抱きしめることなど出来はしないのだ。
オスカーはもう1度決意を固めてドアをノックした。

「入れ。」

中から聞こえた声は思った通りレヴィアスの声だった。
オスカーはゴクリと唾を飲んで、ドアを開けた。
そして見た。
天蓋のある優美なベットの上に眠るしどけない姿の愛しい人の姿と、隣にいるなにも身に付けていない事がそれとなくわかる悪魔のような男を。
レヴィアスはドアに手をかけたまま立ち尽くすオスカーを見て勝ち誇ったように笑った。

「おまえか・・・。ククク・・・・ちょうど良かった。手間が省けたと言うものだ。これでおまえも妹には手が出せまい?」

レヴィアスの言葉に今まで眠っていたアンジェリークが目を覚まし、ゆっくりとドアの方に目を向けた。

「オ・オスカー様!!」

オスカーの姿をその目に留めたアンジェリークは真っ青になってがたがたと震え出した。
そしてその大きく見開かれた美しい緑色の瞳はすぐに涙で溢れ、その艶やかな頬に細い筋を引いた。

「アンジェリーク・・・・。」

オスカーは、今にも気を失ってしまいそうな愛しい人を哀しげに見つめた。
そしてレヴィアスへとその視線を戻すと激しいまでの怒りを爆発させた。

「アルヴィース伯!俺は貴様を許すことなど出来ないぞ!自分の妹を手に入れようと貴様が仕組んだことはもうすべてわかっているんだ!」

その言葉に驚くアンッジェリークをよそに、レヴィアスはオスカーに冷たい視線を向けて笑った。

「ふん!おまえが何を言おうとももう遅いわ!アンジェリークはもはや俺の物。おまえに渡す気など無い!殺されたくなくばこの館よりさっさと去れ!」

レヴィアスの言葉にオスカーも吼える。

「レイチェルに不貞の罪をかぶせ、邪魔な彼女の婚約者を闇に葬り、そして俺をも亡き者にしようと襲った貴様のような卑劣な奴を生かしておくことなど出来るものか!貴様の挑戦受けてたとう!俺は必ず彼女を救い出す!すぐにでも仕度をしろ!決闘を申しこむ!」

オスカーはそう言うと持ってきた手袋をベットにいるレヴィアスに投げ付け部屋を出たのだった。

 

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