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「お願いです!アリオス様オスカー様とレヴィアス様をお止めしてください!」
コレットは必死の形相で、アリオスに泣きながらすがり付いて懇願した。
「オスカー様はフレイアスの大切な後継ぎ様です。レイチェル様亡き今、フレイアスにはもうあの方より他にお子様はおいでになりません。もしものことがあったら・・・・・ああ!お願いです!アリオス様決闘を止めてくださいませ!」
「コレット・・・・俺とてこのようなことを2人にさせたくない。俺達にとっても兄はアルヴィースの当主。失う訳には行かない。だが、兄もオスカー殿も恐ろしいほど本気だ。俺に二人を止めるすべが無いんだ。だが、コレットもしオスカー殿の命が危なくなるようなことがあれば、俺は命がけで兄を止めて見せる。安心してくれ。」
コレットを安心させようとアリオスがそう告げたとき背後から声がかかった。
「よけいな心配は無用だ。アリオス殿。」
オスカーはアリオスを威圧するように見つめながら二人の前にやってきた。
「オスカー様!ああ・・・決闘などおやめくださいませ!お願いです。あなた様にもしものことがあったらお父上様に私はどう申し上げれば良いのです。どうかどうか思いとどまってくださいませ。アンジェリーク様のことはお諦め下さい。そこまでしなくともオスカー様にふさわしい方は他にもきっとおいでです!!」
コレットは今度はオスカーの足元にすがり付いて泣き叫んだ。
アリオスはコレットのその言葉に顔を背ける。「コレット・・・・俺は諦めたりしない。俺は知ってしまったんだ。あのレヴィアスという男の正体を。奴は彼女を我が物にする為に、彼女の婚約者を野盗を使って襲わせ葬り、レヴィアスのアンジェリークへの思いを知ったレイチェルに不貞の罪をかぶせて死に追いやった。そんな奴をこのままにしては置けない。」
オスカーの言葉に二人は声を失った。
特にアリオスの衝撃は大きかった。「な・なんと言われるオスカー殿・・・・兄が・・・ルヴァを殺した?レイチェル義姉上を自殺へ追いこんだと?そう言われるのか?何か確たる証拠があってのことなのだろうな。」
震える声でアリオスはオスカーに詰め寄る。
オスカーの方も神妙にうなずいて続けた。「俺はここに来てより数日、レイチェルの死の真相を探るべく情報を集めた。そして、ある日俺を襲った野盗たちを捕らえ俺を襲った訳を問いただすと言ったんだ。ルヴァ殿同様に俺を葬れとキーファ殿に言われたと・・・・キーファ殿は町からレイチェルの不貞の相手といわれる男の借金を肩代わりしてまでこの館に招き入れている。レイチェルは身分の低いものを相手にする娘ではなかった。それはコレットも承知していよう。キーファ殿が何の為にそのようなことをする必要がある?すべてはレヴィアス殿のアンジェリークに対する執着にあるのだと思わないか。」
オスカーの言葉にアリオスは反論できなかった。
キーファが、兄の命令以外でそんな大それたことをするはずが無いことはアリオス自身が一番よく知っている。
ではレヴィアスはアンジェリークを精神的に追い詰めることで手にいれたのか。
ルヴァが死んだときからアンジェリークの運命は大きく変わってしまった。
すべてはあの事件が始まりなのだ。
そしてそれはレヴィアスによって仕組まれていた。
アリオスはその事実に愕然とした。
「兄様・・・あれはどう言うことなの?」
アンジェリークは震える声でレヴィアスに詰め寄っていた。
「ルヴァ様を葬ったのはお兄様だとオスカー様は言っていたわ。それは本当なの?」
彼女の体は振るえ、怯えた様子だったがその瞳にだけは強い光が灯っていた。
「だとしたらどうなのだ?おまえが俺の物である事実は変わるまい。」
レヴィアスは冷たくそう言い放つと、アンジェリークの顎に手をかけて上を向かせた。
途端にアンジェリークの表情は怒りにゆがみ、レヴィアスの手を乱暴に振り払った。「許さない!お兄様!私はあなたを許さないわ!」
それは初めて彼女の中に生まれた怒りだった。
いつも運命に流されるがままになって、諦めることの方がはるかに多かったアンジェリークの心に今ハッキリとした戦う意思が産まれたのだ。
だが、レヴィアスはそんなアンジェリークの変化にも動じることは無かった。「おまえがどう思おうと、何を言おうとかまわない。あいつを葬って、おまえを永遠に俺だけのものにするだけだ。待っていろアンジェ俺はおまえを手放したりしない。俺が愛するのはおまえだけだ・・・・。」
レヴィアスはそう言って強引にアンジェリークの唇を奪うと、不敵な笑みを見せて高らかな笑い声と共にその場を去った。
決闘は夕刻と決まった。
オスカーは最後の時を森で過ごそうと足を向けた。
そして思い出深いあの泉へと向かった。
今日の森はさわやかな風が通り、木々の葉がこすれる音が鳴り響いている。
光はやわらかで、オスカーの心をゆっくりと落ち着かせていく。
森の音に耳を傾けながら、オスカーはこの館に来た時のことを考えていた。
最初はそう・・・・この森からだった。
オスカーはこの森の泉で彼女に会ったのだ。
彼女をまるで、精霊の様だと夢を見るような気持ちで見ていた。
あの時からアンジェリークに惹かれていたのかもしれない。
神秘的で美しい彼女は、儚くいつもまるで消えてしまいそうな危うさがあった。
でも1度見た彼女の笑顔は生気に輝き、今まで持っていた精霊のイメージを覆し、生きた生身の女性を感じた。
その時オスカーは初めて彼女に強く惹かれる自分を意識した。
なぜこんなに心惹かれるのか自分でもわからなかったが、これが恋と言う物なのだろう。
今、オスカーの胸の中にはアンジェリークでいっぱいになっていた。
そうこうしているうちに目の前に泉の姿が開けてきた。
とうとうと湧き上がる泉の透き通った水の輝きが、オスカーの心を打つ。
と、その時岸辺にたたずむ人影が目に入った。「アンジェリーク?」
泉を見つめていた彼女はその声に振り返った。
「オスカー様・・・・。」
オスカーの姿を見た彼女は途端に弾かれるように彼の胸に飛び込んでいた。
「アンジェリーク・・・・。」
白く華奢な彼女の体をオスカーは抱きとめた。
「死なないで・・・・お願いです。私なんかの為になぞあなたの命を賭けないで下さい。どうか・・・どうか決闘なんか止めてください。もしあなたがいなくなったら・・・・・私・・・私・・・・。」
最後は声が詰まってアンジェリークは声になら無かった。
彼女は美しいその緑の瞳を涙で潤ませオスカーを見つめた。「俺は死なない・・・君をレヴィアスの呪縛から必ず助け出して見せる。だから泣かないでくれ・・・。俺の愛しいアンジェリーク・・・。」
オスカーはそっと彼女の頬を両手で包み込むと、そのやわらかな唇に優しくそっと口付けた。
その優しい口付けにアンジェリークはそっとオスカーの背に手を回し、その口付けに答えた。
それに勇気付けられたオスカーはしだいに口付けを深めた。
そしてアンジェリークはうっとりと吐息を漏らす。「ああ・・・・オスカー様・・・愛しています・・・あなたを愛しています・・・。」
「アンジェ・・・俺も君を愛している・・・。」
2人はそうしているうちにいつしかもつれ合う様に崩れ落ちたのだった。