2
光の守護聖ジュリアス。
炎の守護聖であるオスカーが、女王を除く唯一頭を垂れる彼の尊敬する守護聖。
その彼が、自分の初恋のアンジェリークと恋仲になったと知ったとき、オスカーは目の前が真っ暗になった。
アンジェリークを誰にも渡したくないと思ってはいるが、その相手がよりにもよってジュリアスであったとは。
この日より、オスカーの苦しい恋はいつはてるともない闇のなかをさまよいはじめたのだった。
「オスカー様。育成のお願いに参りました。」
鈴をころがすような愛らしい声をオスカーはただ茫然と聞いていた。
今、手が届きそうなくらいすぐそばに彼女は立っているというのに、なんと遠く感じることだろう。
彼女を手にいれたいと思っても、彼はジュリアスを裏切る勇気が持てなかった。
苦悩をにじませたオスカーの表情に、アンジェリークは心配そうにオスカーの顔をのぞきこむ。「オスカー様?どうかなさいましたか。」
無邪気なその表情にオスカーは息が苦しくなった。
「いや、何でもない。お嬢ちゃん育成だったな。どれくらい力を送ればいい?」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
「たくさんお願い致します。」
彼女はそう言うと頭をぺこりと下げて部屋を退出しようとした。
オスカーは彼女の姿をせめてもう少しだけでも見ていたくて、ついアンジェリークの手をつかんでしまった。「え?」
驚きの表情で振り返った彼女を見てオスカーはつかんでいた腕を反射的に離した。
「あっ、す・すまない。」
思わず顔をそむけたオスカーを不思議そうにアンジェリークは眺めた。
「どうかなさったのですかオスカー様。なんだか変です今日のオスカー様。」
そう言ってまた顔を覗きこむ彼女を、オスカーは抱きしめたい衝動にかられたが、必死にそれを我慢した。
「ただ、お嬢ちゃんともう少しだけ話がしたかっただけさ。」
「まあ、オスカー様ったら。いいですよ、私今日は夕方まで時間が空いているんです。何の話をしましょうか?」無邪気に微笑むその笑顔に罪悪感を覚えながらも、オスカーはほんのひとときの二人だけの時間という誘惑に乗ってしまった。
だがその時間は幸せとともにつらい時間となった。
彼女の明るい笑顔や、その愛らしい声を聞いているとオスカーはたまらなく心が踊ったが、その反面決して手に入らない彼女という存在を目の前にして眺めているのは限りなくつらいことでもあった。
そして、その辛さの頂点を極めたのが彼女の口からジュリアスのことが語られたときだった。「オスカー様はジュリアス様と仲がよろしいんですよね。」
頬を染めながら問いかけるその姿は愛らしいものだったが、その内容はオスカーの胸を絞めあげた。
「そうだな。ジュリアス様のことは尊敬している。」
しぼりだすように言葉を紡ぐオスカーの様子に気づくことなくやわらかな微笑みを浮かべるアンジェリークはさらにジュリアスのことを問いかけてきた。
「あの、ジュリアス様っていつも日の曜日には何をなさっているんでしょうか。」
「そうだな。ジュリアス様は……。」ここまで言ってオスカーはいい淀んだ。
言葉が続かないオスカーの様子にアンジェリークは訝しげに見つめる。
彼女との会話を楽しみたいのに、話題がジュリアスであるがためにオスカーの心はまるで嵐の中を漂う小舟のように感情の波に翻弄され、これ以上耐えることが出来ないでいた。「オスカー様具合が悪いじゃありませんか?大丈夫ですか?」
心配そうに顔をのぞきこむアンジェリークの愛しい顔をもうこれ以上見ているのは辛かった。
「すまない。お嬢ちゃんに心配かけちまったな。俺は大丈夫だから気にしないでくれ、でももうこれ以上君を止めておけそうもない。すまないが一人にしてくれないか。」
悲しげに自分を見つめるオスカーの瞳にアンジェリークは疑問をもったが、ここは素直にオスカーの言い分に賛成した。
「そうですね。オスカー様でも具合いが悪くなることもあるんですね。ちょっと安心しました。それじゃあ失礼します。お大事にして下さいね。」
アンジェリークはニッコリと微笑みを見せると、胸が千切れてうちひしがれているオスカーの執務室から退出していった。
アンジェリークは今、ジュリアスの執務室にきていた。
「ジュリアス様。オスカー様ったら変なんですよ。」
先ほどの様子を思い浮かべながら、アンジェリークはジュリアスに話しかけた。
「変?なぜだ。」
ジュリアスはアンジェリークの話を聞きながらも書類から目を離さなかった。
アンジェリークはそんなジュリアスの仕事熱心さには感心していたが、少々寂しくもあった。「だってね。私と話がしたいとおっしゃったので、ジュリアス様と親しいオスカー様にジュリアス様のことをお聞きしようと思って聞いたら、オスカー様ったら話が続かなくなっちゃったんです。いつもの滑らかな口調が全くなくて、言葉に詰まってしまうなんてオスカー様らしくないと思って。」
その話にジュリアスは興味を覚えたのか、初めて書類から顔を上げた。
「オスカーが?」
それだけつぶやくとジュリアスは顎に手をやり何やら考えこむように黙りこんだ。
そんなジュリアスの様子もアンジェリークは不安げに眺めている。