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「何故・・・何故ジュリアス様は、そんなひどいことを・・・。」
オスカーは愛しい彼女の傷ついた心を思うと、胸が締め付けれる様だった。
アンジェリークはオスカーの言葉で、いままでこらえていたジュリアスの理不尽さに涙が止まらなかった。
肩を震わせてむせび泣くアンジェリークを、オスカーはそっと抱きしめた。「泣かないでくれ、君が泣くと俺の胸は張り裂けてしまうほどに辛い。お願いだ、君のあの輝くような笑顔をなくさないでくれ。」
オスカーに抱きしめられて、アンジェリークはオスカーにすがる様に泣いた。
ジュリアスを愛してる。
それなのに、この愛は報われないのかもしれない。
始めはそれでよかった。
彼の傍らにいられるだけで幸せだった。
だが、もうすぐそれさえも出来なくなってしまうかもしれない。
そんなことが、自分に耐えられるはずは無かった。
ジュリアスの腕、唇、そして忘れられない肌のふれあい。
ジュリアスとの思い出を抱いたまま女王になどなれるはずも無いのに。
ジュリアスの、彼の本当の気持ちを知りたかった。
自分は愛されているのか、いないのか。
そんな思いがアンジェリークの心を支配して、頬を伝う涙を止められない様にしていた。
オスカーはアンジェリークを抱きしめながら、自分の無力さを呪っていた。
彼女の涙は今、ジュリアスを思うがあまりの涙なのだ。
彼女の心を本当の意味で救ってあげることが出来るのは、ジュリアスだけなのだ。
そう思うと、オスカーの心はもう切り傷だらけで、真っ赤な血を流していた。「アンジェリーク・・・アンジェリーク・・・。」
オスカーは熱に浮かされるように彼女の名を呼び、抱きしめる腕に力をこめた。
オスカーの胸はとても温かかった。
愛されると言うことの意味がなんとなくアンジェリークに伝わってきた。
なんとも言えない安心感、まるで真綿で包まれている様に。
オスカーに愛されると言うことが、どうゆう事かわかってくると、ジュリアスとの違いに愕然とした。
ジュリアスとの間にこんな安心感など感じたことなど無かった。
アンジェリークはまたもや、ジュリアスの愛に疑問を持ったのだった。
オスカーの執務室を出たアンジェリークはそこで、ジュリアスと出くわしてしまった。
彼女の目は明らかに泣きはらしたあとがあり、ジュリアスは眉をひそめてアンジェリークを見つめた。「どうして泣いていたのだ。それもオスカーの部屋で。」
問い詰めるジュリアスに、アンジェリークは言葉が見つからなかった。
「オスカーがなにかしたのか?」
ジュリアスの問いに、アンジェリークは慌てて首を横に振った。
「オスカー様はなにもしていません。私が・・・私が悪いんです。」
そう言って目線を下に落とした。
ジュリアスはまだなにか納得がいかない様で、アンジェリークを腕で払う様にオスカーの執務室のドアの前からどかせ、そのドアノブに手をかけた。
ハッと顔を上げたアンジェリークが制止しようと手を伸ばしたがまのあわず、ジュリアスはオスカーの執務室に入っていった。
オスカーは机に顔を伏せ、なにかに打ちひしがれている様だった。
入ってきたジュリアスにも気がつかずに頭を抱えている。「オスカー。」
ジュリアスの声にオスカーはびっくりした様に顔を上げた。
ジュリアスの顔には苦汁がにじんでいる。「ジュリアス様・・・。」
オスカーはジュリアスの顔を何故かすがるような表情で眺めた。
「オスカー。おまえに問いたいことがある。答えよ。」
首座の威厳を持ってジュリアスが言い放つ。
「はい。」
短く返事をしてオスカーの目は真剣になった。
「そなた。アンジェリークを愛しておるのか?」
あまりに核心を突いた問いにオスカーはうろたえたが、グッと決意をみなぎらせ、
「はい。あなたを裏切ることとなっても、私のこの思いは変わることはありません。」
と言いきった。
ジュリアスはそのラピス・ラズリの瞳をじっとオスカーに向け、オスカーの決意の程を確かめているかのようだった。「わかった。聞きたかったのはそれだけだ。」
急に背を向けて部屋を出ようとするジュリアスに、驚いたオスカーは慌ててジュリアスを呼びとめた。
「待ってください。何故です。あなたはなんとも思わないとでも言うのですか。」
オスカーの叫びに、ジュリアスはゆっくりと振りかえった。
「アンジェリークは、女王になるかも知れぬ。その力をこの世界のために使わずにどうするというのだ。おまえも守護聖なら、それくらいのことはわかるはずだ。」
「そんな!じゃあ彼女自信は・・・彼女の気持ちはどうするのです。彼女はあんなにもあなたのことを・・・あなただけを愛していると言うのに。」オスカーはジュリアスに食い下がった。
だが、ジュリアスは一瞥を加えただけで、それ以上口にすることは無かった。
オスカーの心の中に、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。
何故、どうして、ジュリアスはアンジェリークを受け入れてやらないのだろう。
彼女の気持ちを知りながら、中途半端な形で彼女を縛り付けている。
自分がこれほどに思いを寄せ、いまこの時までジュリアスを裏切ったことを悔いていたと言うのに、彼の仕打ちはあまりに、アンジェリークに冷たすぎる。
ジュリアスにとって、アンジェリークは女王候補であること以外の価値を認めていないかのようだ。
オスカーはジュリアスから、アンジェリークを奪い去りたいと強く決意することとなった。