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アンジェリークは悩んでいた。
ジュリアスの愛はもはや信じることは出来なくなっていた。
彼女は、ジュリアスと、オスカーの会話をドアの外から聞いていたのだ。
やはりジュリアスにとって大切なのは、女王であるかそうでないかだけなのだ。
もし、告白したのがロザリアであっても彼は同じ事をしただろうか。
でも、女王になることにロザリアはなんの迷いも無い様に見える。
最初から、彼女は女王になるためだけに生まれたような人だった。
今は心を打ち明けられるアンジェリークの親友だったが、ジュリアスとの約束のことは話していなかった。
アンジェリークは絶望の淵で佇んだまま容易に立ち直ることが出来なかった。

ジュリアスは執務室で物思いにふけっていた。
アンジェリークから、オスカーの様子がおかしいと聞かされてからずっとオスカーが、アンジェリークのことを愛しているのではないかと思っていた。
それが今ハッキリとして、ジュリアスは正直なところ戸惑っていた。
女王試験は今若干アンジェリークがリードしているが、ロザリアと甲乙つけがたいといったところだろう。
アンジェリークが、このところずっと不安を抱いて沈んでいることもジュリアスにはわかっていた。
それが、自分が出した条件を思ってのことだと言うことも。
ジュリアスにとってアンジェリークは、女王候補以外のなにものでもないと思ってきたが、最近彼女に安らぎを覚えないでもなかった。
しかし、自分はオスカーがアンジェリークを思うほどアンジェリークを思っているとは思えなかった。
自分の思いはオスカーの思いに劣る。
それは認めざる負えない事実だった。
アンジェリークの幸せ。
そのことを考えると心が痛む。
アンジェリークの愛がジュリアスにとっては重荷だった。
彼女を幸せにする自信はないし、仕事と彼女を比べても、自分は仕事を選んでしまいそうだ。
アンジェリークと言う存在は、ジュリアスにとっては止まり木のような者だった。
いろんなことに疲れて一時羽を休めるだけの止まり木。
だから疲れが癒えればまたすぐに飛び立ってしまう。
それが彼女を傷つけていることもよくわかっていた。
彼女のことを思うと、彼女が自分を思う気持ちに答えてやりたいと思うのだが、実際にそれが出来るのかと言われれば、やはりジュリアスには容易なことではなかった。
自分には心に人としての欠陥があるのかもしれない。
人を愛せない。
人から愛された記憶も無い。
この気持ちが誰にわかるというのだろう。
ずっと幼い頃から自分は孤独だった。
守護聖として、そしてその首座として、物心ついた頃より生きてきた。
自分は本当の意味での世界を知らない。
ずっと聖地と言う鳥かごの中で暮らしてきたのだから当然だろう。
自分のことを解かってくれそうなのは不本意ではあるが、クラヴィスだけかもしれない。
彼も自分と同じ境遇にいたからだ。
だからと言って、彼と馴合う気には一向になれなかった。
所詮、人間は生まれた時から孤独なのだ、とジュリアスは考えていたのだ。

 

オスカーはこの日を境に、我慢していたことはすべて実行に移すことにした。
アンジェリークの部屋を訊ねたり、デートに誘ったり、贈り物をしたり、と物凄い勢いで攻勢に出たのだった。
他の守護聖達は、突然のオスカーの攻勢に驚きを隠せなかった。
当のアンジェリークも戸惑いを隠せないでいたくらいだ。

「ねえ、あんたジュリアス様とどうなってるの?」

ついに心配したロザリアがアンジェリークの部屋を訪ねた。

「ロザリア・・・。」

アンジェリークは親友の心ずかいがうれしかった。
ついつい、涙が浮かぶアンジェリークをロザリアは驚いて見つめ、そっと背中を抱き寄せた。

「ごめんね。ロザリア・・・。私あなたにまだ言ってなかった事があるの。」
「え?なによ、どんなこと?」
「私・・・もう本当は女王になるつもりが無いの。でもジュリアス様の恋人でいるためには女王になるためにがんばらなくっちゃ駄目なのよ。それが恋人でいられる条件なの。」
「はあ?どうゆうことよ!」

ロザリアの眉間にしわが寄る。

「ジュリアス様は、私は女王候補なのだから女王を目指してがんばるのが本当だから、女王試験を受けつづけろとおっしゃって、女王試験に勝てば女王に、負ければ妻にとおっしゃったのよ。でも私女王になっちゃったらジュリアス様とはお別れしなくちゃいけないなんて納得いかなくて・・・。こんな気持ちのままで真剣に試験に打ちこんでいるあなたに私申し訳なくて・・・。」

アンジェリークはそういうと大粒の涙をこぼしてロザリアに謝った。
ロザリアはそんなアンジェリークを抱き寄せて、ポンポンと背中を優しく叩くと、

「あなた辛かったのね。可哀想だわ。ジュリアス様がそんなことをおっしゃるなんて・・・。」

と優しく言った。
むせび泣くアンジェリークに、ロザリアは、

「あなたはあなたにとっての幸せを掴むべきだわ。女王になることがあなたの幸せでないのなら、愛に生きたっていいと思う。女王の方は私に任せてよ。私は女王になるために生まれてきたんだから。」

そう言って、もう一度アンジェリークを抱き寄せた。

「ありがとう・・・ロザリア・・・。」

二人はしばらくそうやって抱き合って泣いた。

 

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