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「オスカー様。」
オスカーの執務室を訪れたロザリアは、オスカーを値踏みするように眺めた。
「お姫様どうしたんだい?俺の顔に何か付いているかい?」
「いいえ。オスカー様が私のアンジェにふさわしい方なのか知りたくてまいりましたの。」急にそんなことを言われてオスカーは目を丸くした。
「ほほう。でどうだ。このオスカーは金髪のお嬢ちゃんにふさわしい男かい?」
オスカーはロザリアを真剣なまなざしで見つめた。
ロザリアはオスカーの瞳から、アンジェリークに対する思いの深さを感じ取ったようだ。「今日、アンジェリークは女王候補を降りて補佐官になるために女王様に謁見を申し込みましたわ。」
ロザリアはオスカーをじっと見据えたまま重大な事実を告げた。
オスカーの顔が一瞬強ばる。「お嬢ちゃんは、ジュリアス様との約束を放棄したって事か?」
「そうですわ。でもアンジェは傷つき、迷っているのです。ジュリアス様を愛しているのに受け入れていただけなくて、彼女はうちひしがれてしまっているのです。私だけでは彼女を支えてあげられない。私とともに彼女を支えてもらえますか?」ロザリアの真剣なまなざしを、オスカーはしっかりと受け止め、
「俺はお嬢ちゃんを愛しているんだ。たとえ、彼女の心がジュリアス様のものでも俺は彼女を支えよう。」
「その言葉しっかり受けとりましたわ。アンジェを支えてあげてください。今、彼女は森の湖にいるはずですわ。お願いします、オスカー様アンジェを救って…。」ロザリアの言葉を受けてオスカーは森の湖に向かって執務室を後にした。
アンジェリークは森の湖のほとりにたたずみ沈んだ心で水面を眺めていた。
ジュリアスとの約束を違えて、女王候補を降りたこと自体には悔いはなかったが、これでジュリアスとは別れなくてはならなかった。
愛する人に受け入れてもらえなかったという心の傷は思いのほか深く彼女の気持ちをずたずたにしていた。
アンジェリークは滝に近づき、以前この滝で涙を隠すために水を顔にかけたときのことを思い出していた。「あの時はジュリアス様に女王候補の自覚がたらないとおしかりを受けたのだったわ。」
「そうだな。おまえは女王候補の自覚がたらない。」聞き覚えのある声に驚いてアンジェリークは振り返った。
そこには怪訝な面持ちのジュリアスがたたずんでいた。「ジュリアス様…。」
今にも泣きそうなアンジェリークの表情を見てジュリアスは苦笑を漏らした。
「私はおまえの期待に応えられる男ではないのだ。私には愛するという感情が理解できない。おまえを幸せにしてやることは私にはできないのだ。だからお前が私から去ったとしても、私には何もいうことはない。」
ジュリアスの言葉にアンジェリークは涙をこぼす。
「おまえは、おまえの幸せを私以外で見つけるがよい。それが私の願いだ。」
ジュリアスはまたそう言って泣き崩れる彼女置いて湖を後にした。
森の入口辺りでオスカーとジュリアスは出くわした。「ジュリアス様…。」
驚くオスカーの顔を見てまたもやジュリアスは苦笑をもらす。
「私よりもおまえのほうがアンジェリークを幸せにできるのだろう。アンジェリークを支えてやるがよい。私では荷が勝ちすぎる。」
「はい。もう遠慮はしません。ジュリアス様、私は彼女を愛しています。」オスカーはまっすぐな瞳でジュリアスに宣言した。
ジュリアスは今度は晴れやかに笑って、「それでこそ、おまえだ。」
といった。
オスカーはひとつ頭を下げると、愛しいアンジェリークがいるであろう湖に走りさった。
残されたジュリアスは、そのオスカーの後ろ姿を羨ましいげに見つめ、また森の外へと足を進めた。
湖のほとりでジュリアスから別れを告げられたアンジェリークは、うちひしがれて泣き崩れていた。
その痛ましい姿にオスカーの心は痛んだ。「お嬢ちゃん…。」
オスカーの声にアンジェリークはゆっくりとその顔を上げた。
翡翠の瞳が涙で一杯になり、ゆらゆらと揺れている。
オスカーはアンジェリーク思わず抱きしめた。「お嬢ちゃん。いやアンジェリーク。君の哀しみを俺にも分けてくれ、君の哀しみが少しでもやわらぐなら、俺はどんな事でもしよう。だから、もう泣かないでくれ。」
彼女の美しい金の髪を優しくなでながらオスカーはいった。
「オスカー様…。」
アンジェリークはオスカーの温かさにすがった。
壊れてしまった恋の傷にオスカーの温もりがじんわリとしみた。
この人はなんて暖かいのだろう。
アンジェリークはオスカーに抱きしめられながら、その暖かな胸に癒される思いだった。「君がこのままジュリアス様を思っていても俺はかまわない。俺は君を愛している。だから見返りを望まないよ。君は君のままでいてくれ。」
オスカーの言葉にアンジェリークは心が震えた。
オスカーの大きな愛の前では、アンジェリークは小さな小さな子供のような気持ちになり、暖かな愛に包まれて安心感に心が満たされていくのがわかった。
いつしか涙は止まり、アンジェリークはそっと顔を上げる。
そこには慈しみの眼差しで見つめるオスカーがいた。
アンジェリークは何故か思わず顔を赤らめる。
今、初めてオスカーを意識したのを感じたからだ。「オスカー様…。」
アンジェリークはそっとオスカーの背に手を回して体を預けた。
オスカーはそれをしっかり受け止め彼女をいつまでも抱きしめていた。
そして、献身的なオスカーの初恋が実を結ぶのはそう遠い話ではないだろう。
END
『初恋』はどうだったでしょうか?
キスをしないオスカーは珍しいですが、初恋なので許してちょ!
こんな純情君ははじめて書いたので、ちょっと大変だったかなァ?
今度の連載はまたまた壊れたオスカー様です。
何故か好評だったので、バージョンを変えてお届けしますね?
それではまた感想をお寄せください。