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もうこれで何回目の当番だろうか。
アンジェリークは指を折り数えてみたが、しっかり思い出せないでいた。
だいたいアンジェリークの保健委員の当番は回ってくるのが早い。
他の当番の2倍の速さではないだろうか。
当番を決めているのはオスカーだ。
オスカーは、アンジェリークがやってくると必ず彼女の心臓をバクバクさせるようなことを言ったり、したりする。
セクハラか?と思いもするが、アンジェリークは彼の顔が近づくだけでうれしくて心臓がバクバクしているのだから、セクハラとは言えないかもしれない。「私ってもしかしたら本当はHなのかな?」
つい独り言をつぶやいて、その内容に赤面する。
今日も今日とて、保健室にやってきたアンジェリークにすきをついて後から抱きしめ、耳もとで「今日も君は魅力的だね。」なんてささやいたりする。
腰が砕けそうになるのをやっと我慢して、アンジェリークは抗議の声をあげた。「先生!からかわないでください。」
抱きしめていた手を振り解いて、彼に向きなおり、真っ赤になりながら叫ぶ彼女をオスカーはニヤニヤと見つめた。
「おっと、そんなに怒るなよ。まあそんなお嬢ちゃんもたまらなく魅力的だけどね。」
なんでこんなに歯の浮くセリフがすらすらと出てくるのか不思議だったけれど、でもそのセリフを聞くたびにアンジェリークの体温は上昇してしまうのだった。
「私ってオスカー先生のこと好きなのかなあ。」
廊下を歩きながら教室へ戻る間、ついつい保健室での出来事を思い出して赤面していると、ついそんなことを思ってしまうのであった。
帰宅するために鞄に教科書を詰め込んでいると、部活が終わったのか、ランディが鞄を取りに教室に入ってきた。
「あっ。アンジェ今帰りかい?」
「あっ、うんランディもう部活は終わり?」
「ああ。じゃあ一緒に帰ろうか?」ランディはちょっと恥ずかしげにアンジェリークを誘った。
アンジェリークはクスッと笑ってからコクンとうなずいた。
ランディの顔にパッとひまわりのような明るい表情が現れる。
小さい頃からよく知っているランディは、アンジェリークにとって兄のような弟のような存在だ。
彼といると、オスカーのときのような気恥ずかしさも、ドキドキもなくて、彼女は安心していられた。
そんな考えからか、アンジェリークはランディの気持ちにまったくといっていいほど気づいていなかった。
校庭を仲良く帰る二人を保健室の窓から見かけたオスカーは、明るく笑うアンジェリークの姿に見とれながらも、ランディに対して激しい嫉妬覚えた。
「くそっ!教室でいつも一緒にいられるくせに、帰りまで独占するのか?よし、明日からはアンジェリークにもっと迫ってやる!」
そんな恐ろしいことを思われているとも知らずに、アンジェリークは一時のやすらぎの中、家路についた。
『ピンポンポンポーン!2年A組アンジェリーク・リモージュは至急保健室にきてください。』
放課後に保健室に呼び出されたアンジェリークは、オスカーを見てまたドキドキしていた。
「先生。今日、私お当番じゃあないんですけれど。」
おずおずと顔を赤らめながら言うアンジェリークに、オスカーはにっこりと微笑みながら手招きをした。
「お嬢ちゃん。ちょっとこっちにおいで。」
そういわれてアンジェリークはのろのろとオスカーの前にやってきた。
オスカーは椅子に座りながら、立っているアンジェリークの赤面して恥らう顔をのぞきこんだ。
そしてそっと手をのばして頬に手をあてた。「お嬢ちゃん。君はどう思っているのかな?」
そう問いかけられてもアンジェリークは何のことがわからない。
「えっ?何をですか?」
「俺がどうして君にちょっかいを出しているかってことさ。」少し上目ずかいで口もとに笑みをたたえて首を傾げたオスカーは、とてつもなく魅力的で、官能的だった。
くらくらするアンジェリークはまともにオスカーの顔が見られない。「からかうのが面白いからでしょう?」
何とかこの状況から脱出しようと、目線を逸して答えた。
「ばかだなあ。そんなふうに思っていたのか?」
「バッ、バカ?」
「俺がこんなに君に夢中なのがわからないかなぁ。」そういってオスカーの顔がだんだん近づいてきた。
そして唇に触れるか、触れるないかまで近づいたとき、突然保険室のドアが、大きな音を立てて開けられた。