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父は・・・父はそう、一家心中を図ったのだ。
病院のベットで家族の死を知らされた俺は、一週間たってやっとそのことがわかってきた。
父の会社は物凄い負債を抱えて倒産したのだ。
負債のほとんどは会社の売却と、資産の売却で無くなったが、それでもまだ2億に登る借金が残っていた。
それも両親が死んだ今、二人に掛けられていた生命保険でやっとなくなったのだった。
両親は借金を無くす為に自殺を考えたが、残される俺達兄妹の将来を悲観して一家心中を決めたのだろう。
今たった一人生き残ってしまった俺は、やっとそのことがわかってきたのだった。
だがわからないこともあった。
父の会社はいったいいつから、そんなに負債を抱えるようになってしまったのだろう。
そんな俺の疑問に答えてくれたのは、父の親友だったジュリアスさんだった。「オスカー・・・・君のお父さんは裏切りにあったんだよ。」
「裏切り?」
「そう・・・君のお父さんの秘書をしていた男を知っているかい?」
「はい・・・確か・・・ルヴァ・リモージュさんでしたね。以前何度かお会いしたことがあります。でも・・・確か彼は3ヶ月前ぐらいに辞められたと聞いていますが・・・・。」
「そう・・・リモージュ氏は会社を辞めている。だが普通に辞めたんじゃないんだ・・・・。」
「?!」
「彼は・・・・彼は会社の金を・・・・それもその日、どうしても商談で必要だった金を持ち逃げしてしまったんだ。」
ジュリアスさんのその言葉に俺は目を剥いた。
そんなことが・・・・?そんな驚きで俺の思考は氷付いていた。「その為にその商談は破綻し、その商談をまとめられなかった会社は、とてつもない損害をこうむった。それを埋める為に君のお父さんは負債を余儀なくされてしまったんだ。その商談は会社の運命をも変えるほどの物だったので、それをまとめられなかった損害は思いのほか大きく、それを挽回するような商談も、その失敗の為にまとめるのが困難になってしまって、負債はこの3ヶ月でどうしようもないほどに膨らんでしまったんだ。」
「だから父は・・・・。」
ジュリアスさんは哀しみをたたえた瞳で俺を見つめた。
「君のお父さんを恨まないでやってくれないか・・・彼は本当に苦しんだんだよ。君達家族を守る為にこの3ヶ月間本当にがんばっていたんだ。でも力尽きてしまったんだね・・・・。彼の選択は間違っていたと思う。でも、それでも彼を恨まないでやって欲しい・・・。これは友人としての私の願いだ・・・。」
彼の言う通り俺も父を恨む気にはなれなかった。
父は本当に家族を愛していた。
そのことは俺が一番わかっている。
確かに父には一家心中など選ばずに生きて戦って欲しかった。
でも絶望の淵に立ったであろう父が、思わずその選択を選んでしまった心境もわからないではなかった。
ただ妹は・・・妹だけは助かっていて欲しかった。
ジュリアは本当に可愛い妹だった。
俺達兄妹は時には喧嘩もしたが、普段は本当に仲が良かった。
ちょっぴり甘えん坊で、寂しがり屋のジュリアはいつもいつも俺の部屋にやってきてはくつろいだ様子で、今日1日にあったことや、楽しかったことなどを俺に話しては俺にかまって欲しくてじゃれついていた。
俺もこの5歳離れた妹が本当に可愛かった。
俺はどちらかと言うと炎にたとえられるほど赤い髪に、氷を思わせるほど薄い青い瞳をしているが、妹はやわらかなオレンジ色のフワフワの巻き毛に翡翠のような緑の瞳を持つ天使のような容貌をしていた。
俺はその翡翠のような妹の瞳が大好きだった。
明るくて良く笑う、ちょっぴりおしゃまな妹の笑顔が、今もはっきりと頭の中に浮かぶ。
妹を失ったことは俺にとって、ある意味両親を失うことよりも辛いことだったのだ。
そしてそのことは、俺の中の悲しみという感情から父や母、そして最愛の妹までもを死へと追いやった男への激しい憎しみを俺の心の中に誕生させたのだった。
父にも母にも親戚と呼べるほどの人がいなかった俺は、天涯孤独の身となった。
だが、父の親友であるジュリアスさんの好意で、俺は彼の養子として迎えられ、彼の元へと引き取られたのだった。
ジュリアスさんは父同様に貿易の会社を経営していた。
まだ小さかった彼の会社は、父が逃してしまった商談をまとめる事に成功して、一気に大会社へと成長した。
ジュリアスさんは父への雪辱戦だと言ってがんばったのだそうだ。
そして俺は彼の元で、ハイスクールにも通わせてもらい、そして大学にも行かせてもらって、今は自ら会社を設立して経営をしている。
俺は恩あるジュリアスさんへの恩返しをする為と、そして俺から家族を奪った男への復讐を果たす為に力をつけなくてはならなかったのだ。
その甲斐があったと言って良いのだろうか、俺はあの日から10年経った今ではこの世界で名の知れた企業家としての地位を獲得していた。