4
俺は今、自宅として使っているマンションの一室で心の冷静さを取り戻そうとしていた。
ジュリアスさんの養子となってから彼の家には大学に入るまでは厄介になっていたが、大学に入ると同時に俺は彼の家を出ていた。
ジュリアスさんは自分の家だと思ってくれても良いのにと言ってくれていたが、俺はこれ以上彼の好意に甘える気は無かった。
早く自立して、力をつけ、リモージュに復讐を果たしたかった俺は、人の力をこれ以上当てにしたくは無かったのだ。
そして会社を学生の頃に設立し、この7年で世間に一目置かれるまでに成長させてきた。
今やビジネス街で、俺のことを知らないビジネスマンはそうはいないだろう。
世間での力もつけ、復讐を果たすために動き始めた俺の前にその相手はすでに他界し、その対象を娘に譲っていた。
そしてその娘はこともあろうか俺の最愛の妹の姿で俺の前に現れたのだ。
俺は彼女に会うまでは彼女に最悪の人生を与えるべく、シナリオを考えていた。
すでに両親を亡くしているアンジェリークに肉親を奪うと言うことは出来ない。
では彼女の財産を奪うと言うことも考えてみた。
だがルヴァは父から奪った金をすべて使い果たしたのか、娘にはほとんど財産と呼べるようなものを残してはいなかった。
現在アンジェリークが大学に通えるのは、彼女が奨学金を受けているからに他ならない。
彼女は調べたところ大変優秀な学生で、大学は彼女に奨学金を与えて大学にとどめているのだ。
彼女はその生活費も日々のアルバイトで稼いでいた。
住居も父親と住んでいたアパートの一室だったし、彼女はとても裕福と呼べるような生活を送っているわけではなかったのだ。
では後、残された方法はなにか・・・・。
彼女を精神的に追い詰めることが出来ることはなんなのか。
考えられることは、彼女にとって大切だと思える特別な人を奪うことだ。
彼女に恋人と呼ばれる男がいれば、その男を社会的に追い詰め、彼女を裏切らせ、絶望の淵に追いこめることができるかもしれない。
だが残念なことに彼女の男と呼べるような人物はまったく存在しなかった。
彼女に夢中だという男どもは多数存在していたが、アンジェリークはその誰とも交際をすることが無かったようだ。
そのことからも俺は当初、彼女を俺の魅力で誘惑し、もう俺なしでは生きて行けないくらい夢中にさせてから手ひどく捨てると言うシナリオを考えていた。
だが、今アンジェリークに会った俺はその計画を実行できるかどうか疑問を持ち始めていたのだ。
俺は自慢ではないが、異性にはもてるほうだ。
はっきり言って今までに振られた記憶は無い。
俺がその気になって落とせなかった女はいないといっても過言じゃなかった。
だから俺は最初、この計画はほぼ間違い無く成功させる自信があった。
しかし、アンジェリークを知ってしまった今、俺はこの計画を実行する決意が揺らぎ始めていたのだ。
アンジェリークはあまりにもジュリアに似過ぎている。
その瞳、その笑顔、髪型から白い肌の色までもがジュリアそのものだった。
唯一ジュリアと違う所と言えば、その髪の色だけなのだ。
ジュリアはオレンジ色の赤毛だったが、アンジェリークは蜂蜜色の金髪だ。
それ以外は恐ろしいほど妹に似ている。
俺が妹を思い出す時、強烈に浮かび上がる妹の翡翠のように美しい瞳が、アンジェリークの瞳にみごとに甦っているのだ。
そのことが、彼女と妹を同一視してしまう原因になっていることは否めない。
妹にそっくりな女をだまして絶望の淵に追いやり、その顔を悲しみにゆがませる決心が俺の中で付けられなければ、復讐など果たすことは出来はしないのだ。
「ジュリア!!」
俺はその夜、またしてもあの夢に魘されて目を覚ました。
毎夜この夢に魘されていると言うのに俺は一向にこの夢になれることは出来なかった。
ジュリアの白い小さな手をいつまでたっても掴むことが出来ない俺・・・・。
やはりこの悪夢から開放されるには復讐を果たすしか方法は無いのだ。
アンジェリークがいくらジュリアにそっくりだとしても、彼女は俺のジュリアじゃない。
夢の中で助けを求めるあの小さなジュリアを救うには彼女を地獄に落とすのだ。
小さな愛しい俺の妹・・・・。
俺はジュリアの為に復讐を果たす決意を固めた。
「レイチェル。俺はこの復讐を必ず果たす。」
俺の更なる決意を聞いたレイチェルはやはり哀しい顔をした。
だが俺の気持ちを汲み取ってくれたのかもう反対する気は無いようだ。
ただ諦めただけなのかもしれないが・・・・。「君に調べてもらいたいことがあるんだ。」
「何?私で出来ることならやってみるわ・・・・。」
レイチェルは浮かない表情ながらも請け負ってくれるようだ。
「実はルヴァ・リモージュが父から奪った金の行方を知りたいんだ。奴は莫大な金を持ち逃げしたはずなのに、娘のアンジェリークの暮らしぶりははっきり言って貧しい。奴が放蕩を繰り返したと言うことも考えられる・・・・。だがやはり父の金の使い道を知っておきたいんだ。君には悪いが調べてみてくれないか?」
「わかったわ・・・・オスカー。」
俺はルヴァ・リモージュを心底憎んでいる。
だが奴が金を盗む理由についてはまだ何も知らなかった。
ただ盗んだと言う事実だけは確かなのだが、父の金がどう言った形で使われてしまったのか気になっていたことも確かなのだ。
それがもし納得のいく使われ方だったとしても、俺の憎しみを和らげることは無いのだが、まったく有効に使われていなかったとなると、更なる憎しみを生むことは間違いなかった。
俺はジュリアにそっくりなアンジェリークをもっと憎みたくて、ルヴァに対する憎しみが増すことを望んでいたのかもしれない。
心の中では奴が無意味に金を使ったのだと思いたがっていたのだ。
とにかくその思いを確固たるものにしたくて、俺は納得がいく証拠が欲しかった。
レイチェルにそれを頼んだのはそんな思いからだったのだ。