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それから俺は週末になるとアンジェリークを映画や、観劇、コンサートや食事などに誘うようになった。
アンジェリークを俺に夢中にさせるためのデートだったが、それは俺にとって複雑な心境に陥らせることとなった。
あまりにもジュリアに似ている彼女のうれしそうな表情は、まるでジュリアが今ここにいてうれしそうに喜んで笑っているように見えて、どうしても俺の心を揺さぶるのだ。
ジュリアが笑っている・・・・幸せそうに・・・・。
夢の中で叫んでいるジュリアの表情を見るのはとても辛い。
でもそれが、彼女に会うたびに幸せそうに笑うジュリアを見ることが出来るのだ。
それはルヴァの娘であると言うことさえ除けば、俺にとって心が癒される瞬間になっているのだった。
だがその気持ちを感じるたびに、俺は頭の片隅で叫ばなければならない。
復讐を果たすのだ。
今はただ彼女の心を奪うために彼女の喜ぶ顔を見ているだけなのだ、本当に彼女を喜ばせる訳じゃないんだと・・・。
だが俺はそう思いながらも、ジュリアの笑顔を見ていたかった。

 

「オスカーどうしたの?」

俺とアンジェリークは名前で呼び合うくらいの友人になっていた。
彼女はいがいと身持ちの固い娘で、この俺でさえも彼女の特別な存在になるには時間を要していた。
もちろんこの遅れは俺の中にある矛盾した気持ちによるところも大きかったのだが。
とにかく俺は焦る気持ちはまったくなかった。
今しばらくこのぬるま湯につかっていたかっただけかもしれないが・・・・。

「いや・・・なんでもない。君こそ最近なにかあったのかい?ちょっと元気が無いじゃないか。」

俺がそうといかけると、彼女はちょっと苦笑した。
最近のアンジェリークは少々物思いにふけることがよくあった。
それは俺とのことではないようなのがちょっと気になったのだ。

「うん・・・・大学のクラスメートの一人とちょっとあってね・・・・。」

あいまいに答える彼女の態度に少々気になるところがあったが、その時俺はそれほどこの話題を気に掛けることは無かった。

 

ある日の夜。
彼女は大学のリポートを作成する為に大学のラボに詰めていた。
夕食を一緒に取る約束をしたので、その日は俺が大学のラボまで迎えに行くことになっていた。
だがその日に限って俺は仕事が立てこんで約束の時間に遅れてしまっていたのだった。
彼女はその夜、ラボで一人俺を待っていた。

カチャ

ラボのドアの開く音にアンジェリークは俺が来たのだと思って声を掛けた。

「オスカー?遅かったのね。」

だがそれは俺じゃなかった。

「オスカーとか言う奴じゃなくて悪かったかな?」

「??え?ラ・ランディ?どうして・・・・」

驚く彼女の前にその姿を現した男は、彼女のクラスメートだった。
ランディと言う名のその男は、以前から彼女に好意を寄せている男の一人だったが、彼女が男を寄せ付けないことから今まであまり強引な行動を取ってはいなかったらしい。
だがここに来て、俺という男の出現が彼の心境を大きく変えたようだ。
最近はあからさまにアンジェリークに己をアピールし始めていた。
そしてそれはともすれば、ストーカーまがいの行動だった。
以前彼女が心を悩ませていたのはこのことだったのだ。

「な・何?何のようなのランディ・・・・。」

彼女は近頃の彼の行動に恐怖を感じていたために、少々後ずさりながら彼に恐る恐る尋ねた。

「わかっているんだろ?アンジェ。俺がいったいどんな気持ちで君を見つめているのかを・・・・。」

彼の思いつめた瞳が更に彼女の恐怖心をあおった。

「ランディ・・・・何度もあなたには言った筈よ。私誰ともお付き合いする気なんて無いの。」

怯えて室内をゆっくりと逃げ惑う彼女がそう言うと、彼は激昂した。

「嘘だ!君は嘘をついている!じゃああいつはなんなんだ!あのオスカーって奴と君は付き合っているんじゃないのか!」

「ち・違う!オスカーはただの友人よ!それ以上の関係なんて無いわ!」

慌ててアンジェリークは否定したが、ランディの怒りを納めることはかなわなかった。

「君を誰にも渡すもんか!あいつに奪われるくらいならいっそ・・・・。」

「ラ・ランディ?!イ・イヤ!イヤよ!止めてー!!!」

奴は恐怖に怯える彼女に襲いかかった。
必死に抵抗するアンジェリークだったが、男の力にかなうはずも無い。
彼女の白いレースのワンピースは奴の手によって乱暴に引き裂かれ、白いスリップがその胸元から露わになった。
それを目にした奴の興奮は更に高まり、いやがる彼女をラボ内のデスクに押し倒し、スカートをたくし上げ、彼女のショーツに手を掛けた。

「イヤ!イヤ!止めて!お願いよ!」

彼女は叫び声を上げて奴の暴力から逃れ様と必死になった。
彼女の抵抗に更に気持ちが高揚した奴は、スリップを引き裂き、たわわな彼女の胸を包むブラジャーを引き上げる。
白い美しい双丘がピンクの蕾とともに現れると、奴はむさぼりつくように舌を這わせた。

「イヤァァー!!!」

 

そのころ俺は何も知らずに大学のアンジェリークがいるラボの校舎の玄関に立っていた。
約束の時間にかなり遅れていたので、彼女はもしかしたらもう帰ってしまったかもしれないと思いつつ、彼女がいるはずの3階のラボに目をやった。
その部屋からは今も明かりが漏れていた。

「まだいるのか?」

俺はそう考えて、急いで階段へとその足を向けた。
一歩一歩階段を上っていくうちに、上階からなにやら声が聞こえてくる。
そしてそれは三階にちかずくにつれて大きくなり、いつしかそれが女の叫び声だとわかるまでになった。
俺は慌てて階段を駆け上り、彼女が待つラボに向かった。
嫌な胸騒ぎがする。
そしてそれは的中した。
女の叫び声は彼女のものだった。
俺は慌ててラボのドアを開けた。
そしてそこで目にした光景に目を疑ったのだ。
アンジェリークは一人の若い男に無理やり組み敷かれ、レイプされていたのだ。
俺の頭の中は一瞬真っ白になる。
彼女に復讐をしたいと思っていた俺なのに、その光景を目にした俺は湧き上がる怒りを押さえることが出来なかった。
何も考えられない頭で俺は男に襲いかかっていた。
アンジェリークの涙で濡れる顔が一瞬目にはいる。
それが更に俺の怒りを増幅させた。
訳のわからない雄叫びをあげ、俺は男を渾身の力で殴りつけた。
男は物凄い勢いで壁に吹っ飛んだ。
息もつかせず俺はまた奴を殴り続ける。
奴は反撃する力も無かったが、俺の怒りは収まらなかった。

「止めて!もう止めてオスカー!」

破かれたワンピースを両手で掻き合わせてアンジェリークが叫んだ。
俺の怒りは収まらなかったが、殴る拳は宙で止まった。
元の顔がどうだったかわからないぐらいに顔が腫れ上がった男は、壁に崩れ落ち、それでも力を振り絞ってラボから這い出て行った。
俺は怒りのために体を振るわせながらそんな奴を睨みつけていた。
するとそんな俺にアンジェリークが、背中に泣きじゃくりながら抱き付いてきたのだ。

「ごめんなさい・・・ごめんなさいオスカー・・・私・・・・。」

俺はすぐさま振り返って彼女を思いっきり抱きしめた。
俺の心の中には今ジュリアはいなかった。
何故か彼女が愛しくてたまらなかった。
泣きじゃくる彼女の髪に、涙に濡れる頬に、瞼にと口付けを繰り返した。
傷ついた彼女の心を癒したくて、仕方なかった。
いつしか俺は彼女の唇をふさいでいた。

「アンジェリーク・・・・アンジェリーク・・・・。」

俺は何度も彼女の名を呼んで、そのやわらかな唇に口付けた。
いつしかアンジェリークも俺の口付けに答え始めていた。
そして俺達はこの日はじめて結ばれたのだった。

 

アンジェリークがどうして男と深い仲になりたがらない理由もわかった。
彼女の体には手術の跡だろう・・・胸の辺りに醜い大きな傷跡があった。

「私・・・10歳の時に心臓の手術をしたの・・・・。とても大きな手術で、でもそれをしたから生きていられるの・・・。この傷はそのときのものよ。でもこれのせいで思春期にはずいぶん辛い思いをしたわ。よく気持ち悪いって・・・男の子に虐められたの。でも汚れてしまった私がこんな傷を気にするなんて可笑しいものね・・・・。」

彼女が俺を受け入れてくれた理由はそんな気持ちからだった。
だがそんな彼女が俺はたまらなく可哀想で、愛しくて一生懸命彼女のそんな思いを否定した。

「馬鹿なことを言うな!君は穢れてなんかいない!あんな奴が君自身を汚すことなんて出来はしないんだ。君は、君は今だってどこも穢れてなんかいないさ。その傷さえも君の美しさを妨げることなんて無いんだ。」

俺はそう言いながら彼女を抱きしめ、激しく口付けた。
彼女の瞳から、またしても涙が零れ落ちた。
美しかった。
俺の心はその美しさに振るえた。
ジュリアではない、彼女のその美しさに俺は強く惹かれたのだ。
その時の俺には復讐心は影も形も無かった。
いやただ忘れていただけだと言った方が良いのかもしれない。
俺の心には今、アンジェリークに対する愛が激しく燃え立っていたのだった。
それが更に俺を苦しめることになるというのに・・・・・。

 

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