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「オスカー・・・・・。」
消え入るような小さな声が俺の名を呼んで、俺は反射的にアンジェリークに目をやった。
痛々しい彼女が、その美しい翡翠のような瞳をうっすらと開いているのが見えた。「アンジェ?アンジェ!」
俺は嬉しさのあまり彼女に取り付くように彼女の名を叫んだ。
そんな俺を彼女は不思議そうに見つめている。「どうして・・・・・。」
彼女の問いが、あの夜俺が告げた言葉から来たのだということがわかった。
俺は握り締めていた彼女の手をそっとベットに戻し、深深と頭を下げた。「アンジェ・・・・君に許してくれとは言わない。俺は君に酷いことをしたのだから・・・・。俺は復讐に囚われ、真実を見失い、そして君を傷つけてしまった・・・・すまない・・・。」
「復讐・・・・?」
彼女の消え入りそうなか細い声が聞こえた。
俺はここに来てすべてを話すつもりだ。
たとえそれを告白したからと言って彼女との仲を取り戻そうなどとは思ってはいない。
俺は彼女から憎まれても仕方ないことをしたのだから。
そして、それは愚かな俺に課せられた罰なのだから。「今から10年前。俺の父は会社の金を持ち逃げされたせいで、多大な借金を背負い、一家心中を図った。俺はたまたま生き残り、父を追いこみ、死に追いやった男に復讐を果たすためだけに今日まで生きてきた。そして・・・その男というのは君の父、ルヴァ・リモージュ氏だ。」
そこまで言った時、アンジェリークの口から小さな悲鳴にも似た声が上がった。
俺は慌てて彼女の手を取り、首を横に振った。「違う!アンジェリーク!俺はそう思わされていただけで、本当の父の仇は君の父じゃなかったんだ!俺は父の死後、今の義父ジュリアス・ハート氏に引き取られ、彼のお陰で今日まで生きて来れた。だが、その恩人であるはずの彼こそが、父を追いこんだ真の仇だったんだ。」
俺の目に彼女の驚きの表情が入る。
俺はそれを受けて更に告げる。「君の父は義父に利用されたんだ。君の父はそのころ死に瀕していた君を助けたくて、義父の甘言に乗ってしまったんだ。義父は俺の父の会社を蹴落とし、のし上がるために娘を思う君の父を利用した。しかし、俺の父が一家心中までしようとは義父も思ってもいなかったのだろう。彼は彼なりに後悔したのか、俺を引き取り育ててくれた。だが俺はすっかり君の父が仇だと信じ込んで君を・・・君をあんな形で傷つけてしまったんだ・・・・。君は何も悪くなかったのに・・・俺は君にどう償えばいい?謝って済むとは思ってはいないが、すまなかった・・・・・。」
俺はいつしかまた涙を流していた。
愚かな自分が呪わしかった。
愛する人を傷つけてしまった自分がどうしようもなく憎かった。
レイチェルが、何度も復讐の愚かさを俺に訴えてくれていたのに、俺は1度もそのことに耳を貸さなかった。
そして、その結果として、俺はもっとも大切なものを失ったのだ。
後悔の涙に暮れる俺の頬に、アンジェリークが手を伸ばしてそっと触れた。
俺は驚いて彼女を見つめた。
すると彼女はその美しい瞳から涙を溢れさせて俺を見つめていた。「オスカー・・・・ごめんなさい・・・。」
彼女の突然の謝罪に俺は驚きを隠せなかった。
「私のせいで、父はあなた達家族を苦しめてしまったのね。そんなことも知らずに私はのうのうと今まで生きていたんだわ・・・・。あなたが苦しんでいたこともまったく夢にも思わずに・・・・。あなたが私を恨んでいたって仕方ないわ。わたしはこの10年間ずっと幸せだったんですもの。あなたが苦しんでいた10年を私はずっと幸せだったのよ。」
俺は彼女の手をもう1度握り締めていた。
「どうして・・・・どうして君はそんなことを言うんだ・・・俺は君にこんなに酷いことをしてしまったと言うのに・・・。」
「だって・・・・だって私・・・あなたは私のことを愛してないかもしれないけれど、私は・・・私はあなたを今でも愛しているんですもの・・・。あなたに愛されないのは確かに辛いけど、あなたを愛してたって気持ちまで私失いたくなかった。だって私・・・あの夜まではだまされていたとしても私は幸せだった。本当にあなたのことを愛していたの。その気持ちは嘘じゃない本当のきもちなんだもの。」
そうだった・・・俺は彼女のこんな暖かい安らぎを与える愛情に心惹かれ愛していたのだ。
まるで真綿で包むような暖かな愛情を感じたからこそ、俺は彼女が必要だったのだ。
とめどなく流れ落ちる涙を彼女の優しい手がぬぐう。「愛している・・・アンジェ・・・。俺は復讐を選んで君との愛を捨てた。でも・・・君を愛していたことは偽りじゃない。君は・・・君はそんな、そんな愚かな俺をまだ愛してくれるのか・・・・。」
「愛しているわ・・・・あなたを失って私はあなたへの愛がすべてだったとわかったの。私の愛は偽りじゃ無かった。今でもあなたを変わらずに愛しているわ・・・・。オスカー。」
その言葉に俺はそのまま泣き伏した。
そんな俺を彼女は優しく俺の髪をなでる。
もう俺の心には復讐と言う言葉は無い。
俺はジュリアの手を掴むことがもう出来るだろう。
俺は真の幸福を手に入れたのだ。
彼女の大いなる愛に包まれて・・・・・。
END
「復讐に抱かれて」いかがでしたでしょうか。
これを思いついたのは「なんか切ないお話が書きたいなァ〜。」と突如思い立ったからでした。
そしてテーマを復讐にして、人間関係を組み立てたら、もう我慢出来なくなってノートに怒涛のごとく書きこんでいました。
勢いに乗ったものは早い!
「ラプ塔」の連載中だと言うのに、頭の中はこの話ばかり。
我慢も限界。出産も真近とあってこいつから発表することにしちゃいました。
しのちゃんにしちゃ〜大人なお話でしたがどうだったでしょうか。
また感想の程をお待ちしております。