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何度目かの満月の日。
コレットは早く家路につくために、食事の用意を慌てていた。
ランディは、先日から町で起こっている連続娼婦殺人事件についての会合のため、先に家に返っていった。
いつもはランディに頼んで食事をオスカーとアンジェリークのいる部屋に運んでいたのだが、今日はそういった事情で、コレットがアンジェリークの部屋へ運んでいった。コンコン
「御食事をお持ちしました。」
コレットはしばらくドアの前で待ったが、ドアが開くことも、返事が返ってくることもなかった。
そのことが、今までコレットの胸の中にわだかまっていた好奇心に火をつけてしまった。「奥様。いらっしゃいますか?」
恐る恐るドアを開けると、窓辺の椅子に腰掛けるアンジェリークが目に入った。
コレットは思わずホッとため息をついた。
とりあえずアンジェリークが生きていたことに、コレットは安堵した。
嬉しそうにアンジェリークのもとに食事を乗せたワゴンを押していく。「奥様。お久しぶりですわ。お食事をお持ちしたんですよ。」
ニッコリと笑いかけるコレットに、アンジェリークは何の反応も見せなかった。
「?」
コレットは不審に思う。
アンジェリークは、人を無視したりする人間ではない。
いつもアンジェリークは、コレットに笑いかけ、大好きなお菓子の話などいつもおしゃべりをしたものだ。
コレットはアンジェリーク顔をのぞきこむ。
そして手をとって呼びかけた。「奥様?奥様?アンジェリーク様。」
アンジェリークの顔はコレットの方に向いていても、彼女の目はうつろなままで、何の感情の起伏も感じられなかった。
コレットはアンジェリーク頬に手をあて、ゆらしてみたがアンジェリークはまるで人形のように何の反応を示さなかった。「ど・どういうことなの?」
コレットは、アンジェリークの変わりはてた様子に愕然とした。
オスカーが病気だと言っていたの思い出し、額に手をやって熱を計ろうと思ったが、前髪を持ち上げたときコレットの動きは固まってしまった。「こ・これは・・・・・・。」
アンジェリークの額には、悪魔との契約の証として悪魔の烙印がくっきりと浮かんでいた。
「なんてこと…アンジェリーク様あなたは…。」
そう言いかけたとき、部屋のドアに鍵のかかる音がした。
驚いたコレットが慌てて振り向くと、そこにはまるで闇の中で燃えさかる青い炎のように妖しいオスカーがいた。
コレットは思わず氷つく。「お館様……。」
「おまえは禁を破ったな。」地の底から響いてくるような声に、コレットはとたんに冷たい汗が流れ出す。
「お食事をお持ちしたら、お返事はなかったものですから…。」
必死に言い訳をしたが、オスカーが耳を傾ける様子はなかった。
「ちょうどよかった。今夜は満月だ。」
オスカーが冷たい眼のままにやりと笑った。
コレットは恐怖で体がすくみ、ガタガタと震えだした。「今夜の街は騒がしそうだ。今夜の生贄はおまえにしよう。」
オスカーの眼が残忍に細められる。
コレットは、ランディが言っていた満月の夜にいなくなる女たちの話を思い出した。「い・いやーーー!ランディ!!」
コレットは叫び声をあげて、逃げようとドアに向かって走り出したが、すぐにオスカーに捕まってしまったのだ。
彼女の絶望に満ちた叫び声がこだました。