5

朝1番にランディは屋敷にやってきた。
そして屋敷中をあちらこちらとコレットを探して動き回っていた。

「騒がしいぞ、ランディ。」

オスカーがホールにある階段から、ランディを見おろしていった。

「すみません、お館様。妻が、コレットが家に帰ってこなかったのでこちらにとまったのかと思いまして…。」

不安げな様子のランディに、オスカーは目を細める。

「コレットは昨夜食事を用意したあと帰ったぞ。」

オスカーの言葉にランディは落胆した様子だった。

「そうですか…。こんなことなら、あいつを一人にするんじゃなかった。昨夜は満月だったのに。」

苦汁をにじませ、一人ごちるランディをオスカーは冷たい眼で見つめていた。

 

それからもコレットは見つかることはなかった。
町では満月の夜の犠牲者が、娼婦以外で出たことに戦慄が走った。
ランディはと言うと、落胆の色が濃く陰鬱な日々を送っていた。
それからも満月の夜になると女が行方不明になり、ほとんどが数日後、街のどこかで死体となって発見されていた。
見つからないのはコレットの死体だけだ。
ランディにとってはそのことに最後の望みをかけたかったがそれも絶望的だ。

「おい!ランディ。」

コレットが行方不明になってから、ランディは町の酒場で酔いつぶれることが多くなった。
今宵もまた酒場で飲んだ暮れていたのだ。

「あぁ〜〜ん?なんだゼフェルか…。」

あきれた顔でゼフェルと呼ばれた男がランディを見下ろす。

「お前、かみさんいなくなってからひで〜なあ。もっとしゃきっとしろよ!」
「ほっといてくれ。」

ランディは肩に伸ばされたゼフェルの手を跳ね除けながら吐き捨てるように言った。
ゼフェルは深いため息をつく。

「なあ、ランディ。おまえのかみさん、館から出てからいなくなったんだよな。」
「それがどうしたって言うんだ。」
「俺さあ、ずっと気になってんだよ。」
「?」

ゼフェルの真剣な表情にランディも机につっぷしていた頭を持ち上げる。

「最近のお館様、おかしかねえか?」
「お館様?」
「ああ、いつも町に何かあればすぐすっ飛んできて、あれこれ手を貸してくれたお館様がさぁ、この町を震撼させている連続殺人事件は知らん振りだ。そんでもって、あれほどかわいがっていたコレットがいなくなったっていうのに、まったく無関心はないだろう?」

ゼフェルがいうことは、ランディも感じていたことだ。
オスカーの最近の様子はあまりにも変だ。
いまだにアンジェリークを見かけることも無い。
だが、ランディはオスカーを尊敬している。
その思いが、オスカーに疑問を持つことを妨げていた。

「なあ、ランディ。俺はお館様じゃないかと思っているんだ。今回の事件は…。」
「な・何をばかな…。」
「だってよう!満月の夜だけ、お館様はおまえを家から追払っているじゃねぇか。」
「そ・それは…。」
「満月の夜だぜ!事件の夜だ。コレットがいなくなった日、館を出たといったのはお館様だけだ。奴が犯人なら、コレットは…コレットの死体は館の中にあるんだろうぜ。」

ゼフェルの言葉にランディは蒼白になった。
酔いもいっぺんに吹き飛んでしまった。
コレットがお館様に?
そう考えればつじつまがあうじゃないか…。
ランディは今度こそ、オスカーについて冷静に考えることができた。

 

ゴトンゴゴ…。
薄暗い階段をランディは、ろうそくを片手に地下に向かってゆっくりと、足を踏みしめながら降りていった。
今日、オスカーはどうしても外せない用事で館を留守にしている。
出かけるとき、オスカーはくれぐれもアンジェリークの部屋に入らないようにいいつけていった。
アンジェリークの安否も気遣われたが、ランディは怪しいのは地下室だと狙いをつけていたのだ。
もし、考えたくはなかったが、コレットがもうすでにこの世のものでないのなら、いかんともしがたい死臭を、隠せるところは地下室しかない。
そこでオスカーが留守にする今日、この疑問を解消するために、この薄暗い部屋へと下りてきたのだ。
地下室は階段を降りきった先の鉄の扉を開けた先にあった。
重たいドアを開けると、なかから湿ったカビくさい空気が流れでた。
奥の広間に足を進めたとき、ランディの足は氷ついた。

「なんだこれは…。」

広間の中央にはなにか血のような赤黒いもので、魔法陣が描かれていたのだ。
そしてろうそくをかざしながら部屋の隅々まで見渡すと、何やら棺らしき黒っぽい箱が目に入った。
ランディは恐る恐るその箱に近づくと、その蓋に手をかけていっきに持ち上げた。

「うっ!!」

鼻をつく死臭。
そしてランディの目に、変わりはてた妻の姿が……。

「うあぁ〜〜!」

突きつけられた現実に、ランディの絶望の声が地下室をこだました。

 

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