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またしても満月の夜がやってきた。
オスカーはアンジェリークの部屋で愛しい妻の髪を梳かしていた。

「アンジェ君に感情が無くなったのはいいことなのかもしれないな。」

オスカーの瞳は哀しい色をしていた。
おもむろにオスカーはうつろな瞳のアンジェリークを抱きしめ、

「俺はもう、この手でどれだけの人は殺めてきたのだろう。いくら君の命をつなげるためだったとしても許されないことくらいわかっている。そして俺は、家族同然だったコレットまでもこの手に掛けた。君に心があったなら、君は俺を許してくれないだろうな。」

アンジェリークのそのやわらかな髪に顔をうずめ、オスカーは小さな嗚咽を漏らす。

「アンジェ、愛している。俺を…俺を一人にしないでくれ。君のいない世の中などいらない。」

オスカーは力一杯アンジェリークを抱きしめた。

 

ランディは、決意をもう一度確認するようにあのおぞましき地下室の棺から持ち帰ったコレットのリボンを握りしめる。

「コレット、おまえの敵はとってやるからな。」

今夜、町の自警団といっしょにオスカーの館を襲うことになっていた。
町の人々は最初、オスカーが犯人であることを信じられなかったようだったが、ランディが見たコレットの死体の話や血糊のついたコレットのリボンを見て、やっとオスカーがこの一連の事件を起こしたのだと理解した。
今夜こそオスカーと決着をつける。
彼は手ごわい男だ。
剣の腕は一流、この町で彼に勝てる男はいないだろう。
それでも、もうコレットのような犠牲者を出すわけにはいかない。
ランディの瞳に力がこもる。

「おい、ランディ。そろそろ時間だ行くぞ。」

ゼフェルの声にランディはうなずき、剣を片手に家を出た。

 

オスカーは今夜の獲物を探しに行く準備を整えた。
最近は町の者が警戒して、獲物を見つけるのは困難になってきている。
最近では家を持たない貧しい人々襲っていた。
オスカーはもう一度うつろなアンジェリークに向き直った。

「アンジェ待っていてくれ。君の命を途切れさせたりはしない。血でこの手がどんなにして赤く染まろうとも。」

そしてそっと妻のやわらかな唇に口付けた。
離れがたい気持ちを抑えてオスカーがアンジェリークから離れると、初めてアンジェリークの手が彼女の意思のもとに動き始め、オスカーの服の裾を掴んだ。

「?!」

驚きとともにオスカーはアンジェリーク見つめる。
うつろな表情は変わっていないのにアンジェリークの瞳からは涙がこぼれていた。

「アンジェリーク!」

オスカーはアンジェリークの頬を両手で包み込むと、その瞳を覗きこんだ。

「オ・ス・カ・・・・」

たどたどしいアンジェリークの声がする。
一体なんの奇跡なのか、彼女の中に心が戻ったのだろうか。
オスカーはもう一度アンジェリークをしっかりと抱きしめた。

「俺が…俺がわかるんだなアンジェ!ああアンジェ、アンジェおまえを愛してる。」

むせ返るようなくちづけをアンジェリークとかわし、オスカーはアンジェリークをかき抱いた。
と、突然玄関ホールからドアが乱暴に開けはなたれる音が聞こえた。
オスカーはアンジェリークを残し、部屋を出た。
アンジェリーク部屋は、玄関ホールから伸びた階段の真ん前だった。
姿を現わしたオスカーに町の人々は身構えた。

「何事だ。我が家にそのように大勢で何しにきたのだ。」

オスカーの冷やか声に、ランディが一団の前に進み出る。

「お館様!俺は知ってしまったんだ。この連続殺人事件の犯人があなただということを。」

オスカーを燃えるような瞳でにらみつけランディは言い放った。

「何をばかなことを…。」

口もとに冷笑をうかべてオスカーはいった。
激昂したランディは、手に握りしめていたコレットのリボンを突きつける。

「俺は見たんだ地下室に眠るコレットの遺体を…!」

一瞬オスカーの目が驚く。
だがそれはすぐに収まり、反対に青い炎を全身にまといはじめた。

「そうだな。今夜は満月、契約の日だ。おまえ達を返りうちにして、クラヴィスに捧げよう。」

オスカーの瞳が怪しく冷たく輝いた。
ランディが剣を抜く、オスカーもまた剣を抜いた。
二人の間に緊張が走る。
ほかの者たちは、そんな二人を遠巻きに囲んでいる。
オスカーは剣の達人だ、そんな彼に対抗できるのはランディしかいない。ランディは日頃オスカーに剣の稽古をつけてもらっていたのだ。
しかし、ランディがオスカーに勝ったことはない。
でも今度だけは、ランディは負けることは出来ないどんな事をしても・・・。
オスカーの鋭い打ち込みがランディを襲う。
すんでのところで剣を受け、ぎりぎりと音を立てて鍔のあたりで止まる。
オスカーの余裕にみちた顔が、剣の向こうに見える。
ランディは懸命に堪え、オスカーの剣を跳ね返した。

はぁはぁはぁ・・・・。

「フッ、ランディおまえの剣筋などすべてを見通しなんだ。あきらめて俺の剣のえじきになるのだな。」

オスカーが不敵に笑う。

「クッ、だまれ!俺は負けない!」

またも二人の間に、剣と剣のぶつかりあう音と火花が散った。

 

もう何合目だろう。
剣と剣の打ち合いに、ランディの息は上がり、だんだんと剣を持つ手が剣の重みに耐えかねて、切っ先が下がってきている。
オスカーはまだ汗一つかいていない状況だった。
このままではランディはやられると、誰もが思っていた。

「おい!これを見やがれ!」

ゼフェルの声にオスカーが目線を向けると、そこにあった光景に目を剥いた。

「アンジェ!」

ゼフェルは、うつろなアンジェリークを後ろからはがいじめにしてナイフを首に当てていた。
オスカーが怯んだ隙をついて、ランディは最後の力を振り絞り、オスカーに突進した。

ブシュ!

にぶい音とともに、オスカーの膝が崩れ落ちた。
それを見つめていたアンジェリークのうつろな瞳に突如光りがともった。

「キャーーー!!オスカー!」

正気に戻ったアンジェリークは、ゼフェルの腕を払いのけオスカーに向かって駆けよった。

「オスカーオスカーオスカー!」

涙をその美しい翡翠の瞳から流し、アンジェリークはオスカーにしがみついた。
腹部から血を流し、息絶え絶えになったオスカーは、そんなアンジェリークに微笑みかけた。

「アンジェ…。泣くな、俺の運命は遅かれ、早かれこうなっていたんだ。君のいないこの世の中に生きてなどいられないのだから。」
「私だってあなたのいない世界なんていられないわ。」
「アンジェ、罪を犯した俺を許してくれ。」
「オスカー。愛している、愛しているわ!」
「アンジェ……。」

オスカーの瞳から急速に光りが失われていく。
アンジェリークはそんなオスカーをしっかりと抱きしめた。
突然、12時の鐘が屋敷の中になり響いた。
と同時に、ホールの宙天に闇がぽっかりと口を開け、中から黒い翼をはためかせ、漆黒の髪に角をはやしたクラヴィスが姿を現わした。

「オスカー。もはや契約の更新は叶わぬようだな。」

妖しい微笑みを見せながらクラヴィスはオスカーの元に降りたった。

「アンジェリーク、もう心残りはないだろう。」

クラヴィスは伏し目がちにアンジェリークを見つめる。

「クラヴィス、最後のお願い。私たちの魂をもう二度と離れないようにしてください。」

すでに意識のないオスカーの体を抱きしめ、涙に濡れた瞳で見つめるアンジェリークは、輝くほどに美しかった。

「よかろう。おまえの美しさに免じて、そのお願い聞き届けよう。」

クラヴィスはおもむろに手をかざし、オスカーとアンジェリークの体から光る玉を取り出して、それを手の上で重ね合わせた。
美しい輝きの中、人々の目にはに抱きあうオスカーとアンジェリークの幸せそうな笑顔を見たような気がした。
クラヴィスはひとつになった魂を持ったまま、不敵な笑みを浮かべて、またも闇に消えていった。
そして後には、信じられない光景を見て、押し黙る人々だけが残った。

 

ランディは、コレットの墓の前に立っていた。

「なあ、コレット。これで良かったんだよな・・・。」

ランディは持ってきた花束を墓にささげて、目を瞑った。
閉じたまぶたの間からとめどなく涙が流れ出し、いつしかランディはひざまずいて嗚咽を漏らした。
そしていつまでも彼の涙がかれることは無かった。

 

END

 

 

「花葬」いかがでしたでしょうか?
このお話は、仕事中にラルクの「花葬」を口ずさんでいた時ひらめいたお話でした。
歌の歌詞のような耽美な世界が繰り広げられたかは定かではありませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
初めて書いた超ハードシリアスで、うまくいったか解かりませんが、もし感想がありましたらお願いしますね?
それではまた新作で!

 

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