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アンジェリークはオスカーの元を去って、自分の補佐官官舎に向かっていた。
アンジェリークの頭の中では、昨日ロザリアと交わした会話がグルグルと回っていた。

「アンジェ。女王はなぜ恋をしちゃいけないのかしらね。」

青い髪の美しい友人が、ちょっと不満そうに呟いた。

「まあ!ロザリア誰か好きな人がいるの?」

アンジェリークはあまり色恋沙汰に興味なさそうな友人からそんな質問を聞かされて驚いた。
そんなアンジェリークの驚きを感じてロザリアは苦笑した。

「まあアンジェ。私だって恋ぐらいするわよ。これでも候補生のとき、守護聖の一人に告白された事だってあるのよ。」

彼女の告白にアンジェリークの胸は押しつぶされそうになった。

(彼だ。彼の事をロザリアは言ってるんだわ。)

そんな思いが彼女を責めたてる。

「あらそれは誰かしら。」

ありったけの勇気を振り絞ってアンジェリークは友人に問い掛けた。
でも女王は答えなかった。
もう昔のことだと話をはぐらかしてしまった。

「じゃあ、今好きなのはその人なの?」

彼のことをロザリアもまた愛しているのだろうか。
恐ろしかった。
もしそうだとしたら。
アンジェリークの胸は早鐘が鳴り響くように恐怖に打ち震えた。

「さあどうなのかしら?わからないわ。どっちにしろ私は女王になったのだから恋なんてしちゃいけないのよね。それがちょっと残念だわ。」

ロザリアは苦笑を浮かべたまま友人を見つめた。
その笑顔はちょぴり哀しそうだった。
もしロザリアの恋しい人がオスカーなら自分はどうすればいいのか。
そんな考えが今のアンジェリークの中で大きく膨らんで今にもはじけてしまいそうだった。

 

とぼとぼと歩くアンジェリークに不意に後ろから明るい声がかかった。

「はぁいアンジェ。元気なさそうねぇどうしたの?」

夢の守護聖は、突然声をかけられびっくりして振り向いたアンジェリークの頬に涙が光っていることに驚いた。

「何よ。どうしたって言うのその顔!あんたの愛らしい顔が台無しじゃない!何があったのさ!言ってごらん。」

オリヴィエの優しさに触れてアンジェリークの涙腺はさらにゆるくなった。
でも彼女は胸のうちを告白する気にはならなかった。

「ごめんなさい。オリヴィエなんでもないの。気にしないで。」

無理に笑顔を作って彼を安心させようとしたが、オリヴィエはその笑顔を見てさらに不安を募らせた。

「なんでもないわけないでしょ!でもまあ、あんたが言えないって言うならあえて聞かないわ。でもいつでも私が力になってあげるからもう泣いちゃだめよ!」

そう言うとオリヴィエはアンジェリークの頬を指先でぬぐった。
彼女はまるで壊れそうな笑顔を浮かべる。
そんな姿を見ていたら彼は彼女を抱きしめていた。

「あんたが泣いてるの見てらんないよ。」
「!!・・・オリヴィエ。」

突然の抱擁に動揺を彼女は隠し切れなかった。
しかし、彼はなおも彼女を強く抱きしめた。

「あんたには言えなかったんだ。だってあんたはオスカーにくびったけで、あたしも気持ちを知ったってあんた困っちゃうよね。」

オリヴィエは苦笑する。
アンジェリークは、オリヴィエの腕に抱かれながら彼もまた苦しい恋に悩んでいたのだと思うと涙があふれてとまらなかった。

「なぜ、人は運命の人とだけ恋をしないのかしら。そうすれば誰も哀しむことは無いのに。」

アンジェリークの言葉にオリヴィエはアンジェリークが泣いているのはオスカーに別の思い人がいるのではないかと思った。

「あんたも苦しい恋をしてるって事?オスカーと何かあったの?」

オリヴィエはアンジェリークを離して、その涙で濡れた瞳を覗きこんだ。
彼女の瞳の色は、涙のせいでユラユラ揺らめいてその思いを表すことは無かった。
彼女がその理由を話す気の無いことが伺えた。

「わかったわ。もう聞かない。でも覚えといて、オスカーがあんたを裏切ったなら、あたしはもう遠慮なんてしないから!あんたを必ずあたしのものにするからね。」

オリヴィエはそう言って、彼女の額にキスをすると彼女に背を向けて彼女の元を去っていった。
後にはただただ困惑しているアンジェリークだけが残った。

 

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