片恋![]()
「オスカー。あなた本当は陛下のことを愛しているんじゃないの?」
哀しい目をしてアンジェリークは、愛しい人の胸に顔をうずめた。
オスカーは内心ドキッとした。
もうずいぶん昔に闇に葬った思いを今、急に表面に引きずり出されてどうしたら良いかと戸惑ってしまった。
そんな恋人の反応を敏感に感じ取ったアンジェリークの頬に一筋の涙がこぼれた。
オスカーは内心の動揺を隠しながら傍らの恋人を抱きしめる。
「何を言い出すかと思ったら、アンジェ俺が愛してるのは君だけだ。さあ、君には涙は似合わない笑ってくれ。」
そんな恋人の優しい嘘をそのまま信じられたらどんなに幸せだろう。
そんな思いが彼女の心の中でこだまする。
「オスカー愛してるわ。あなたが誰を愛していても、私の気持ちは変わらないわ。」
振り絞るように彼女は微笑を見せる。
オスカーの心の中で良心がナイフに刺され、真っ赤な血を流す。
確かにオスカーは女王ロザリアに心を寄せていた。
あの気高さが、尊敬する彼の上司、光の守護聖に似ていたからだ。
女王がまだ候補生だったとき、彼は彼女にその思いを打ち明けたことがあった。
だが、彼女が出した答えは彼よりも宇宙を取ることだった。
オスカーは傷心をだかえたままロザリアの即位を見守るしかなかった。
始めは謁見のたびに顔を合わせるのがつらかった。
彼女には今までに無いくらいすばらしい女王になってほしかった。
いつまでも彼女への思いを引きずることは彼女のためにもならないし、反対に彼女の足を引っ張りかねないと思った。
だから彼は女王への思いを闇に葬ったのだ。
そんなまだ傷心さめやらぬ彼の元にまるで春風のように暖かな補佐官のアンジェリークが彼に告白してきたのだった。
オスカーはその安らぎにすがってしまった。
実際アンジェリークと居る時はロザリアのことを忘れられた。
女の扱いに手を抜いた覚えも無かったがなぜアンジェリークは自分の秘めた思いを知ってしまったのだろう。
オスカーの思いが自分に無いのでは?そんな思いがアンジェリークの頭に浮かんできたのはいつからだっただろうか。
最初は些細なことだった。
オスカーは女王との謁見の日は必ずギリギリの時間しかこなかった。
付き合う前は、ルーズなところもあるんだと思っていた。
でも、付き合い始めてそれはまったくの誤解だということがわかった。
オスカーはかなりまめな性格で、時間に遅れるようなことは一度も無いし、むしろ必ず時間よりも早くアンジェリークとの待ち合わせに来ていた。
ではなぜロザリアに謁見する日だけいつも遅れそうなのか?
始めはロザリアの事を嫌っているのかと思ったりもした。
でもそれはすぐに否定された。
オスカーは気づいていないのかもしれないが、謁見の間中オスカーの表情はいつもと変わらないが、瞳だけが切なく輝いている。
その瞳の色がいつもと違うことに気がついた時、アンジェリークはオスカーの思いを悟ったのだった。
アンジェリークはそっと恋人の抱擁から離れた。
オスカーは彼女の表情を見るのがつらかった。
アンジェリークは哀しい微笑を浮かべたままオスカーを見つめた。
「今日は帰ります。ごめんなさい。」
そう告げると金の髪の天使は、冷たいが優しいくちづけを恋人に落として去っていった。
なんとも言えない罪悪感がオスカーの胸に広がった。
彼女が嫌いなわけじゃない、むしろ彼女に自分は救われた。
そんな思いがさらに彼の胸を締め付ける。
「間抜けだな、俺は本当に。」
そんな呟きが自然と彼の口からこぼれる。
彼女に気ずかれてしまったからにはもう、この甘やかな居心地の良い場所には戻れない。
そう思うと何故か寂しかった。
自分勝手だということはわかっていたが、それだけアンジェリークは自分を真綿でくるむように愛してくれた。
彼女ではない別の女を本当は思っている自分を何も知らなかったとはいえ彼女は何度も救ってくれた。
そんな彼女を自分は傷つけてしまった。
後悔しても仕切れなかった。