君に気づいたら

「で、今日は何の用かなお嬢ちゃん。」

そっけなく緋色の髪をかき揚げ、色の薄い青い瞳に氷の様な冷たい光を輝かせて、炎の守護聖オスカーはこのところ毎日のようにやって来る女王候補のアンジェリークを見つめた。

「お話をしに来ました。」

明るく屈託のない笑顔で答える彼女の輝く表情をオスカーは少々げんなりといった面持ちで見つめた。
実際アンジェリークがこの執務室に毎日訪れようになってから、もはや一カ月以上たっている。
時には育成、時には意見をのべに、そして何の用もない日さえあった。

「なぁ、お嬢ちゃん。君はいったいどういうつもりで俺のところに毎日通っているのか知らないが、もし、俺のに気を引こうとしているのなら無駄だからな。」

オスカーは冷たくあしらうようにアンジェリークに言い放った。
アンジェリークはそのきつい言葉に動揺し、今にも泣き出しそうな顔になったが、すぐにキッと口をつぐんで一瞬だけオスカーをにらむように瞳に力を入れたが、すぐにとろけるような笑顔で微笑んだ。

「そうですか?でも私あきらめません。」

彼女はそういうとやわらかな光りを束ねたような金髪をひるがえして、オスカーの執務室のドアに手をかけた。
最後にドアをしめるとき、アンジェリークはその隙間から恐い顔で睨んでいるオスカーの姿をこっそり覗くと、太陽のようにまぶしい笑顔で微笑んでドアをそっとしめた。

 

オスカーにはアンジェリークの気持ちがさっぱりわからなかった。
彼女は彼が庇護すべき女性であること以外ははっきり言って彼の守備範囲外だった。
そんなまだ子供子供した少女を相手にするほどオスカーは女に不自由していなかった。
そのことを彼女に幾度となく言っているのにさっぱり意に介しないようだった。

「はあー。」

つい自然とため息が漏れ、オスカーは頭を抱えた。

 

そのころアンジェリークは、今オスカーに言われた言葉を思い出し、その大きな翡翠のような瞳に涙を浮かべていた。
オスカーが自分のことを相手にしていないことはわかっていたし、自分のことを煙たがっていることも知っている。
でも、それでも彼の姿を、彼の声を聞かずにはおられなかった。
初めて知った恋心はアンジェリークを翻弄し続けている。
でももうこのままでは、何の進展も望めそうになかった。

「オスカー様の好みってどんな人なのかな。」

涙が浮かんでいる瞳から涙がこぼれないようにアンジェリークは少し上を向いて目をしばたいた。
そして鼻をスンスンとならしてから自分に気合いを入れるように瞳に力を込めた。

「負けないもん!オスカー様の好みの女性になってやるわ。」

アンジェリークは小さくガッツポーズをすると、早速情報集めへと向かっていった。

 

アンジェリークは寮の自室で集めてきたデータとにらめっこしていた。
ジュリアス談。

「オスカーか?そうだな私生活はお互い不干渉なのでよく知らないが、仕事ぶりには満足している。信頼に足る男だ。」
(そんなのわかっています。)

クラヴィス談。

「興味がない。よくは知らん。」
(参考にならないよう〜。)

ランディ談。

「俺の尊敬している人だよ。剣の腕は一流だし、仕事もできる。女の子の扱いがよくわからない俺から見ればオスカー様は理想かな?でもあんなに女性を次々替えるのだけはよくわからないや。」
(浮気者?ってことかしら?)

リュミエール談。

「そうですね。私には彼の考え方がさっぱりわかりません。どうしていつもあんなに自信満々で傍若無人なのでしょうか。」
(自信過剰?)

マルセル談。

「オスカー様?う〜んそうだなぁ。いつも堂々としててすごいなって思うよ。女の人といつも歩いているし、いつもその女の人が違うのはちょっとね。でも他はすごく素敵な人だよね。」
(飽き性なのかしら?)

ゼフェル談。

「あぁん?おっさんのこと?奴はそのうち女で身を滅ぼすと思うぞ。本当手が早いんだからよ。アンジェおまえも気をつけろ!」
(相手にしてもらってませんよ。)

オリヴィエ談。

「ふ〜ん。オスカーの好きなタイプか。まあいつも連れてるのは大人の美人ってとこかしらね。色気があってスタイルがよくて話がうまい。そんなところ?ねえ何あんたオスカーに気があるの?」
(大人の女かあ、難しいなぁ。)

ルヴァ談。

「オスカーですか?そうですね。情熱的な人でしょうかね。きっと情熱的すぎてそれを受け止められる方が今までにいなかったでしょうねぇ。」
(情熱を受け止める人かぁ。)

データーを見つめながらアンジェリークは頭をひねった。

「どうもまだピンとこないわねぇ。」

ペンを指先でクルクル回しながら考えこむと、やがて何か決心したように立ち上がった。

「よし!素行調査よ!」

言うが早いかアンジェリークはサングラスと帽子をかぶってコート羽織ると、聖殿の茂みに身を隠し、オスカーが出てくるのを待った。
やがて執務が終わって夕方、オスカーは屋敷に帰るため聖殿を出てきた。

「よし!」

アンジェリークは茂に身を隠したまま小さくこぶしを握るとオスカーの後をつけ始めた。