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「踊りましょうか、オスカー様。」

彼女の言葉に、俺はダンスに誘ったことを思い出した。
なんてことだ、そんなことも忘れてしまうくらい俺は彼女にまいってしまっている。

「そうだな。踊ろう、アンジェリーク。」

表面上は何事もなかったかのように笑ってみせたが、彼女の手を取った途端、どうだ、この心臓の暴れ様は、俺ともあろうものがまるで初恋の少年のようにドキドキしているなんて……。
アンジェリークの艶やかな笑顔が、俺の思考を停止させちまっている。
音楽に乗ってダンス踊っている間も、俺は彼女に目が釘づけだ。
危うくステップを間違いかけて、恥をかくところだった。
彼女がターンすると甘やかな香りが鼻をくすぐる。
ほつれ毛がうなじにからまって、俺の欲望を刺激する。
ホールドしたときに当たる彼女の胸の感触が、俺をたまらない気持ちにさせる。
なんて、なんていい女になっちまったんだ。お嬢ちゃん!

「オスカー様?今日はなんだか無口なんですね。昔はいつも軽口をおっしゃていたのに。」
「そうだったか?いや君に見とれていたんだよ。なんといってもこんなに美しいレディーになっちまったんだからな。俺としても嬉しい限りだぜ。」
「まあ。オスカー様ったら。でもやっぱりオスカー様はそうでなくっちゃね。うふふ。」

おせいじじゃないんだ。お嬢ちゃん!
まるで俺の心は、小鳥のように震えているんだ。
アンジェリーク!君を俺の物にしたい。
熱いまなざしを送る俺に、彼女は気づかないのか、気付いてはいるが気づかないふりをしているのか、俺にはさっぱりわからなかった。
ただただ彼女の女神のような美しい笑顔に俺は心を奪われていた。

 

曲が終わり、彼女が会釈した。
とたんに背後から声がかかった。

「やあ、アンジェリーク嬢。我が婚約者殿。次は私と踊ってくれるね。」
「あら、ギル。」

こ・婚約者〜!
俺の気持ちはいっぺんに天国から地獄へ突き落とされた。
誰だ!こいつ。
ギルと呼ばれた男は、なんだか勝ち誇ったように俺を見た。
容姿はまあまあ悪くないが、俺ほどじゃないぞおまえ!
俺は無性にむかついた。

「ギル。婚約の返事はまだのはずよ。そんなにあわてないでほしいの。」

やった〜!ざまあみろ!
俺の心は小躍りした。

「だが時間の問題だろう。君の父上はこの婚約に乗り気じゃないか。」

おい!往生際が悪いぞギル!
お嬢ちゃんはおまえのことが好きじゃないだよ!

「ギルって言ったかな。俺達は久しぶりの再会なんだよ。ここは下がってもらえないかな。」

余裕たっぷりに微笑んで言うと、ギルは若干たじろいだ。
フフ。勝ったな。
俺はギル、おまえよりいい男だ、だから引きさがれ。
そんな思いを含んだ笑みを見せながら、俺はアンジェリークをテラスへと連れ去った。

 

「ごめんなさい、オスカー様。」

すまなそうにうなだれる様も俺の心を熱くさせる。

「いや、君がそれだけ魅力的ってことさ。君やむことなんかないぜ。男だったら、誰も君をほっといたりしないさ。」

彼女は、またとろけるように笑った。

「本当にオスカー様は変わってらっしゃらないのね。いつもいつも甘いセリフをおっしゃってて……。」

ふいに彼女の手が俺の頬に触れた。
うっとりと甘い視線が向けられて、俺の心臓は早鐘を打つ。
ゆっくりと瞳を閉じた彼女に吸いこまれるようにキスしようとした途端、

「アンジェリーク!」

またもや男の声だ。

「レパード。」

今度はなんだ。
振り返った俺はちょっと驚いた。
何かそいつは色男だった。
黒髪にやわらかなウェーブがかかって、きりっとしたエメラルドの瞳が彼を一層魅力的にしている。
って!なんで俺が男を誉めなくちゃいけないんだ!

「返事を聞きたいんだ。俺のプロポーズを受けてくれるだろ?」

何!こいつもアンジェリークにプロポーズ?
一体どうなっているんだ?

 

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