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アフターファイブがやってきた。
今日も今日とて、アンジェリークは近くのスーパーで買い物をして恋人のマンションへ向かっていた。
きっと今日もオスカーは残業があるだろうが、でも今日は行くことを約束してあるので部屋で待っていなくてはいけなかった。
だが予想に反して、オスカーは8時前には帰ってきた。
額にびっしり汗をかいてマンションの玄関に入ってきたオスカーを見てアンジェリークびっくりした。「オスカーどうしたの汗でびっしょりよ。早くお風呂にはいって、もう沸いているから。」
チンジャオロースに合わせるかに玉スープを作っていたアンジェリークは、お玉を持ったままオスカーに駆けよって眺めた。
「速攻で帰ってきたんだ。」
オスカーは息が上がっていたがそれだけ言うとにっこりと笑った。
アンジェリークはその意味を理解して顔が赤らむ。「そんなに急がなくなって私は逃げたりしないわよ。さあ、お風呂に入ってきて、もうすぐご飯出来るから。」
頬を染めてちょっと上目使いでお願いされると、オスカーはアンジェリークを押し倒したい衝動にかられたが、実際汗まみれの汗くさい状態でアンジェリークを抱きしめるのはどうかと思って、ここはおとなしくいうことを聞くことにした。
「わかったよお嬢ちゃん。君を汗で汚しちゃいけないからな。」
そう言ってアンジェリークの頬にキスをひとつしてオスカーはお風呂に向かった。
アンジェリークはそんな恋人嬉しそうに眺めていたが、火にかけたままのスープが吹きこぼれそうになって慌ててコンロに駆けよった。
風呂につかりながらオスカーは上機嫌だった。
愛らしいアンジェリークがマンションにきてくれるだけでいつもオスカーは上機嫌だった。
これから、ああして、こうして、こうなって……。
オスカーの頭の中はもう妄想を爆発させてお湯のせいだけじゃなくてもうのぼせそうだった。「オスカー。着替えここに置くからね。」
アンジェリークの声が脱衣場から聞こえる。
半透明のガラスごしに映る彼女のシルエットにオスカーはもう我慢できなくなってきた。
急いで風呂から出るとオスカーは、オスカーの脱いだシャツや下着を洗濯機に入れているアンジェリークに後から抱きついた。「きゃあ!!」
「お嬢ちゃん。一緒に入らないか。なぁいいだろう?」耳元で熱くささやくオスカーに、アンジェリークは真っ赤になりながら、
「オスカーふざけないで早く着替えてちょうだい!お食事が冷めちゃうでしょう。」
と頬を膨らませて怒った。
オスカーはその頬を指でつついて、「もう、かわいいなぁお嬢ちゃんは。」
と笑った。
上機嫌オスカーにアンジェリークは大きく溜息をついた。
食事はまあまあの出来で、アンジェリークはそれなりに満足した。
食事が終わるとオスカーはもうそわそわしている。
いつまた迫ってくるかわからない状況だ。
アンジェリークはオスカーに居間でテレビでも見てくつろぐように言いつけて、食事の後片付けを始めた。
テレビはついているがオスカーの心は番組の内容には向けられず、台所で鼻歌を歌いながら後片付けをする愛しい恋人に向けられていた。
もう早く彼女を抱きしめて口づけたくてたまらなかった。
彼女のやわらかな髪と、その肢体を思うと背筋がゾクゾクと快感に泡立つようだ。
もうテレビなんか見ていられない。
そう思ってオスカーは、そろりそろりと台所のアンジェリークに近づいていった。
だが、そんなオスカーの考えなどお見通しのアンジェリークはもう少しでアンジェリークに届くかというところまで迫ってきたオスカーの方にくるりと体を向け、居間のほうを指さして、「ハウス!!」
と犬に命令するようににらみつけた。
命令されたオスカーはキューンと子犬のようにしょぼくれてとぼとぼと居間に戻っていった。
翌日、営業部のデスクでオスカーは部下の者たちが気持ち悪がるくらいにこにこしていた。
昨日の夜の出来事を思い出したら、自然と口元が緩むのをオスカーは隠しきれなかった。
あの後の甘い一夜はオスカーの心を舞い上がらせていたのだ。
でもその甘い気分も、オスカーの元に寄せられたひとつの情報のおかげで吹き飛んでしまうこととなった。