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今から17年前・・・・。
エリューシオンのはずれの小さな領地を治めるリモージュ伯爵の館では、今大きな問題に夫妻は悩まされていた。
リモージュ伯の領地は小さいながらも、貿易や、商業、農業と共に盛んで豊かなところだった。
ところがそれをねたむ伯爵の腹違いの弟は、いつもこの領地を手に入れようと狙っていた。
この義弟は広大な領地を相続していたが、豊かさは義兄の領地には及ぶまでも無く、いつもそれを不満に思っていたのであった。
そしてある日、リモージュ伯が、遠乗りに出かけた際落馬して大怪我を負ったとの情報を得たその義弟は、一気にその欲望を爆発させたのだった。
今、リモージュ伯の館は明日にも攻め入ろうとする義弟の軍隊の脅威にさらされていたのだった。

「いったい如何すればいいのかしら・・・・。」

金の髪を持つ美しき婦人は産まれたばかりの赤ん坊を抱きしめて途方に暮れた。
夫の怪我は思いのほか重い。
夫がいなければ、領地を守る軍隊を指揮することもままならず、このまま行けば義弟に征服されるのはひを見るより明らかだった。
そして婦人が思いつめた様に大きな溜息を漏らした時、部屋の片隅に閃光が走った。
驚く婦人が、恐る恐るその光が起こった方に目を向けると、そこにはフードを目深に被った妖しげな男が立っていた。

「何者です!」

婦人は慌てて夫が横たわるベットに駆けより、枕元からナイフを取りだし男に向けて構えた。

「お困りのようですね。リモージュ伯。」

婦人の警戒をまったく意に介さず、男は一見穏やかな口調で語りかけた。

「お前は・・・・・。」

伯爵は重症の体をなんとか少し起こしつつ男を見据えた。

「あ〜私の望みをあなた方がもし叶えて下さるのでしたら、私があなた方の危機をお救いしてもよろしいかと思いまして参りました。」

男はゆったりとした物腰でそう告げる。

「望み?いったいそれはなんだ。」

男の正体を知っているのか伯爵は苦しげに顔をゆがませながら尋ねた。

「私の望み・・・それはそちらの美しい婦人の手にある赤ん坊です。」

その言葉に婦人の顔が青ざめる。

「この子に何をするつもりなのです!」

「あ〜怖がらせてしまいましたか?別に危害を加えるわけではありませんよ。私は長い間私と共に生きる伴侶を捜しているのです。ですが思ったような方は見つかりませんでした。そこで私は考えたのです。理想の伴侶がいなければ、育てればいいと。そのためには赤ん坊が必要なのです。」

男はにっこりと穏やかな微笑みを見せたが、その目だけは笑っていないことがはっきりとわかった。

「わが娘を・・・この産まれたばかりの赤ん坊を妻にするというのか?」

その突拍子も無い申し出に、しばし伯爵は呆然となった。

「そうです。私の理想に花嫁に育てるのです。幸いその子は美しい婦人によく似ておいでだ。きっと美しい娘に育ってくれることでしょう。どうです?私ならあなた方の危機を一瞬でお救いすることが出来ますよ。」

男は大仰に両手を広げて自身ありげにそう言った。

「一瞬なんて信じられ無いわ!敵は一万にも及ぶ軍隊ですよ!あなた一人で何ができるというのです!」

婦人が赤ん坊をしっかりと抱きしめてそう叫んだ。

「伯はご存知のはずですよ。私の力がどれほどの物かと言うことは。」

男はそう言うと伯爵を意味ありげに見つめた。
伯爵の方は迫られた選択に額にじっとりと汗を掻いて男を見つめている。

「確かにお前なら一瞬で方がつくのかもしれない・・・・だが娘はまだ生まれたばかりなのだ・・・・。」

伯爵の苦渋に満ちたその言葉に男は微笑んだ。

「ではこのまま一家もろともあの世に参られるのですか?あなたの義弟があなた方家族を生かしておくとは思えませんねぇ〜。」

男のその言葉に夫妻はまぶたを伏せて認めざる負えなかった。
確かに義弟がリモージュ一家を生かしておくことなどないだろう。
このまま行けば、必ず一家は皆殺しの運命にあるのだ。
結局リモージュ伯はその男、このエリューシオンにその名を知られる大魔術師ルヴァの申し出を受けざる負えなかった。
こうしてリモージュ伯の娘アンジェリークはルヴァの元で理想の花嫁となるべく引き取られたのだった。
ルヴァは約束通り一瞬で義弟の一万にも及ぶ軍隊をその巨大な魔力で一掃し、義弟と彼の領地を完膚なきまでに破壊した。
その後には荒れ果てた荒野だけが残り、彼の力をまた世に知らしめたのだった。

 

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