3

彼女を手に入れたい。
オスカーは今、猛烈にそう思っている。
自分の婚約者を塔に閉じ込める男など、きっとろくな男ではない。
そして、そんな男の元に嫁いで彼女が幸せになれるはずはない・・・・。
彼は頭の中でそう勝手に判断を下し、彼女を救出すべく塔に絡まる蔦をよじ登ろうと手を掛けた。

「で・殿下?!なっ何をなさるおつもりです?」

オスカーの突然の行動にエルンストが悲鳴を上げる。

「何って彼女を助けるに決まっている。」

まるで当然の様にそう告げるオスカーにエルンストはあきれかえる。

「殿下。彼女がなにもので、救出を望んでいるのか、そしてその婚約者が誰なのかも何もわからないのに行動されるのどうかと思います。それに彼女を助け出してどうなさるおつもりなんです!もっと冷静にお考え下さい!」

かなり冷静なその言葉にオスカーも少し考える気になったのか、しばし黙って頭を傾げていた。
だが情熱に溢れかえるこの世間知らずの王子には余り歯止めにならなかったようだ。

「よし!決めた!俺は彼女を妃に迎えよう!」

まるでこれこそが運命!とでも言う様にオスカーは力強く宣言した。
その言葉にエルンストはぐったりと肩を落とした。

「アンジェリーク!君はこの塔から出たくはないか?!」

オスカーは塔の上から自分たちを不思議そうに眺める美しいアンジェリークに大きな声で呼びかけた。

「外?私この塔から出たことがないからよくわからないわ。でも外は怖い所だってルヴァ様が言ってるし・・・・。」

アンジェリークの口からルヴァの名前が出たことで、エルンストは青ざめた。

「で・殿下!!やばい!やばいです!この娘は大魔術師ルヴァの花嫁らしい!殿下彼女を助けるのは止めましょう!」

慌てたエルンストがすがりつく様にオスカーに懇願する。

「ルヴァ?誰だそれは?」

オスカーがエルンストにそうたずねた時、塔の上からその問いに答える声がした。

「ルヴァ様はエリューシオンにその名を知られた大魔術師だよ。」

その声に驚いたオスカー達は慌てて上を見上げると、バルコニーの手すりに一匹の猫が目にはいった。
銀灰色のその猫はそこからぴょんと飛び降りたかと思ったら空中でくるりと回転して、着地と同時に銀髪に真紅の瞳を持つ少年にその姿を変えた。

「ルヴァ様の花嫁に手を出そうなんざァあんたも馬鹿な奴だなァ〜。」

少年はそう言ってその赤い瞳を意地悪く細めた。
オスカーの方も負けずと皮肉いっぱいの笑みをその口元に浮かべると、おもむろに少年に向かって剣を構えた。

「フン!自分の花嫁を塔に閉じ込めておく男なんぞろくな男じゃないね。俺が彼女と結婚した方が彼女も幸せになれるってもんさ。」

もうアンジェリークと結婚する気でいる、どこまでも自信満々のオスカーのその態度に、エルンストはハラハラドキドキしっぱなしだ。
この少年はどう見ても魔術師の弟子に違いない。
その魔法使いに剣一本で立ち向かうなんて無謀にも程がある。
エルンストはオスカーの命を守る為にいかにこの場をうまく逃げ様かと頭の中で一生懸命に考えていた。

「フフフン!ルヴァ様一番弟子のこのゼフェル様をなめんなよ!」

赤目の少年はそう叫んだかと思ったらその両手に気を込めて、稲妻のボールを発生させた。
バチバチと音を立てるそのボールを剣にくらったら感電は免れ得ないだろう。
エルンストはますます青ざめると、まったくその事を意にも介さず、どこまでも少年を叩きのめすつもりでいるオスカーに思いっきりタックルをかまし、少年が放った稲妻ボールをすんでの所でかわすと、火事場の糞力でオスカーの首根っこを掴んで一目散に森へ逃げ込んだ。

「けっ!口ほどにも無い奴!」

ゼフェルは勝ち誇った様にそう吐き捨てると、また猫の姿になって塔を勢いよく登って行った。

「エルンスト!!貴様いったいどう言うつもりだ!!」

戦いを一方的に終了させられたオスカーは、怒り浸透といった面持ちでエルンストに食って掛かった。

「殿下!!御身をもっと大切にしてください!あなたは仮にも一国の王子で、世継ぎの身なのですよ!それをなんです!魔法に剣一本で立ち向かうなど無謀にも程があります!あなたに何かあったらどうするんです!彼女を助けたいと思うならもっと相手のことを研究してください!!」

今までに見たこともない位怒り狂うエルンストの勢いに、流石のオスカーも呆気に取られて黙り込む。
エルンストは今だ興奮さめやらぬのか肩で息をして、オスカーを鋭い形相で睨んでいる。

「エルンスト・・・・わかった悪かったおまえの言うとおりだ。」

オスカーの方もやっと冷静を取り戻し、エルンストに頭を下げた。
それでエルンストの方も緊張の糸が切れてへなへなとその場にへたり込むのであった。

 

  TOP