9
「コレット?どうしてお前がこんな所に?」
驚きを隠しきれないオスカーは、宿屋の中で、睨みつける様に自分の前に立つ妹に声をかけた。
そんな兄の疑問などまったく気にした風も無く、コレットは皮肉っぽい笑みを口の端に浮かべて挨拶をした。「あら?お兄様御久しぶりですわ。今までいったいどこにいらしたのかしら?なんの連絡も下さらないなんていったいどう言うおつもりなの?」
恨みがましい妹の言葉にオスカーは憮然とした表情になる。
「どうしてお前に報告をしなくちゃ行けないんだい?俺が何をしていようと俺の勝手じゃないか。」
「まあ!お兄様!お兄様がお城から出た経緯を考えれば私の怒りもわかるはずじゃなくて!!なぜ逃げたりなさったの!」
「そんなことわかってるはずだろう!俺はお仕着せの結婚なんて真っ平だ!それがお前の推薦であったとしてもだ!」
「レイチェルになんの不満があるって言うんです!彼女は王妃にふさわしい娘だわ!」
「彼女に不満なんか無い!俺は俺が決めた女と結婚したいだけだ!」
二人の兄妹喧嘩はまったく平行線で、終わりが来る事はなさそうだった。
それを少し離れた所で見守っていたレイチェルとエルンストは同時に深い溜息をついた。「本当にそっくりな兄妹ですよね・・・・。」
エルンストはついついポロリと口から言葉が漏れ出してしまった。
その言葉にレイチェルはもっともだと言うようにうなずきながらも、エルンストに話しかけられた事実に心が弾んでいた。「姫君・・・あなたは公爵令嬢のレイチェル姫でしょうか?」
エルンストは隣で顔を赤らめながら立っている美しい女性の存在に初めて気付いた様だ。
気安く話しかけてしまった事にかなり動揺しているようにどぎまぎしている。
そんなエルンストの反応に、これ以上自分を遠ざけて欲しくないレイチェルは慌てて弁解を始めた。「エルンスト様。どうか身分の事は御気になさらないで?私常々あなたとお話してみたいと思ってましたの。あなたはとても博識だと伺っておりますわ。そう言う方の御考えをいろいろと聞いて身に付けたいと思ってますの。」
レイチェルの言葉にエルンストは頬を赤らめた。
「いや・・・・私のようなものでお役に立てるのなら幸いです。なにぶん私は取柄と言うものが余りありませんので。もしお役に立てることがあれば何なりとお尋ね下さい。」
自分の得意分野に注目してもらえた事が、エルンストはとても嬉しかった。
オスカーといると、どうしてもその容姿で劣り、男としての体格、力共に劣っている事が、どうしても目立ってしまう。
唯一オスカーに勝っているのはこの頭脳だけなのだ。
そこを誉められた事で、エルンストはかなり舞いあがっていた。
照れながらレイチェルに話しかけるエルンストの様子にレイチェルもついつい釣られて頬を染め、御互いしばしみつめあいながら照れ合っていた。
そしてその脇で喧嘩をしていた兄妹はそんな二人の様子にやっと気付いた。
オスカーとコレットは怪訝な顔つきで2人を見つめた後、兄妹どうしで顔を見合わせた。「コレット?なんか雰囲気よさげじゃないか?あの2人・・・・。」
「なんだかそんな感じですわねお兄様・・・。」
「レイチェルはあいつの方が良いじゃないのか?」
「え??でもエルンストはただの家臣よ?そんなこと駄目に決まってるじゃない!」
「でもあの顔は気がある顔だぞ?」
「ああ!お兄様そんなこと言ってレイチェルを厄介払いするつもりね!!」
「馬鹿!そんなことあるか!俺はアンジェリークを妃に迎えるんだ!もう決めたんだからな!」
その言葉でまたもや兄妹喧嘩は再開されたのだった。
その間にもレイチェルとエルンストの間にはなんとなく甘い雰囲気が流れて行くのだった。
収まりがつかないコレットは翌日オスカー達にくっついてアンジェリークとか言う娘がいる塔に向かう事にした。
無論オスカーがそんなことを許すはずは無かったが、強引なコレットは言う事を聞きはずもない。
無理やり道無き道を付いて来てしまった。
コレットが行くとなればレイチェルもいかざるおえない。
コレットと違ってはっきり言って行く気が無いレイチェルにこの道のりは苦痛以外の何物でもなかった。
その為に道中は困難を極め、レイチェルは途中で歩けなくなってしまった。「お兄様!いったいその娘は何処なのよ!田舎娘にも程があるって物よ!」
「だから付いて来るなと行ったじゃないか!彼女は魔術師に塔に閉じ込められているんだそんな人が出入りするような場所にいるわけ無いだろう!」
またもや始まろうとしている兄妹の喧嘩にエルンストが声を荒げる。
「いいかげんになさい!レイチェル姫は私が負ぶって行きますからお二人は喧嘩を止めてください。」
エルンストのその言葉に二人の兄妹はばつが悪そうに口をつぐんだ。
それを見届けてからエルンストは優しくレイチェルに手を差し出し、微笑んだ。「さあつかまってください。私がおぶって行きますから。」
レイチェルがますますエルンストに心酔したのは言うまでもなかった。
「エルンスト様・・・・・。」
頬を赤らめ彼の背にその身を預けたレイチェルは幸せの極地にいた。
そして一行はまたもアンジェリークが捕らえられている塔を目指して進み始めたのだった。
そしてやっとオスカー達は塔に辿り着いた。
はやる気持ちを押さえながらオスカーは塔に近ずき、アンジェリークがいるあのバルコニーに向かって声をかけた。「アンジェリーク!!姿を見せてくれアンジェリーク!」
「?!」
オスカーの声にアンジェリークの心臓は突如早鐘を打った。
「オスカー様??」
慌ててバルコニーに向かうアンジェリークをゼフェルが引き止める。
「アンジェ!お前は出るな!性懲りも無くやってきやがって!叩きのめしてやるぜ!」
そう言うが早いかゼフェルは猫の姿のまままたバルコニーから飛び降りて行った。
地上に降り立ったゼフェルはその姿をまた人間へと変化させる。「また来たな・・・おめぇもこりねぇなァ〜。」
そう言ってオスカーを睨みつけるゼフェルだったが、オスカーの背後にコレット達一行を見つけオスカーを挑発する。
「ほう?今回は女連れか?余裕じゃねぇかよ!」
「今回は負ける事が無いんでな。」
オスカーの方も負けずとゼフェルを挑発した。
そしてそれにみごとにゼフェルは乗ってきた。
二人の間に緊張が走る。
ゼフェルは稲妻の玉をその手に発生させ、オスカーは魔法剣を構えた。
塔の上からはアンジェリークが胸をドキドキさせながらその様子に見入っている。
そしてそれとはまったく違った目で、コレットは二人を眺めていた。「あの猫君・・・・可愛い・・・・。」
いろんな気持ちが錯綜する中二人の戦いは始まったのだった。