RED and BULE
祭の夜、城下町では夜遅くまで人々であふれ返り、松明の明かりで町中がまるで昼間のように明るかった。
町の広場には、旅の芸人たちが集まり人々にいろいろな見世物を披露して、祭りに色をそえていた。
「赤い炎」と近隣諸国から恐れられるこの地方の領主、オスカーは従者のランディただ一人だけを連れて、この夜、街にお忍びで繰り出していた。
ちょうど街の中心の広場までくると、一つの見世物に多くの人だかりができているのにオスカーは興味を覚えた。「何の人だかりだ?ランディちょっと見てきてくれないか。」
オスカーに言われてランディは元気に返事をすると、その人だかりに向かって走り出した。
しばらくすると、また走ってランディが戻ってきた。
目をきらきらさせて、興奮した様子で、いま見てきたことをオスカーに報告した。「オスカー様。ものすごくきれいな踊り子が踊ってました。」
「踊り子?」
「そうです。金の髪に、翡翠のような碧の瞳でそれはもう美人ですよ。」わずかに頬を染め、熱心に語るランディの様子に、オスカーもだんだんその踊り子に興味が出てきた。
「よし!ランディ、俺も行くぞ!」
「はい!」二人は踊り子が踊っているという人だかりに向かって歩きだした。
ゆらゆらと揺らめく松明の光を浴びて、リュートが奏でる独特なメロディーに乗せて、その踊り子はその美しい肢体をくねらせて、官能的な踊りを踊っている。
やわらかな美しい金髪がゆらゆらと揺らめいて、その妖しげな踊りをさらに盛りたて、心の臓を射抜くようにきらめく翡翠のような碧の瞳は、まるで青い情念を表す炎のようにオスカーの心をわしずかみにした。「なるほど。美しい。」
オスカーは思わず感嘆の声を漏らした。
隣でランディも思わず溜息をもらして踊り子に見とれた。
そしていつしか曲が終わり、踊り子は観客に深々と頭を垂れて挨拶した。
観客からは大きな拍手と歓声、そして多くのおひねりが乱れ飛んだ。
オスカーはじっと踊り子見つめ、にんまりとすると楽屋らしきテントに向かう踊り子の後を追った。「オスカー様どちらへ?」
後追いかけるランディに、オスカーはいたずらっぽい笑みを見せて、
「あの娘気に入った。今夜屋敷に召し抱える。」
と言い放ち、あきれ返るランディを残して楽屋に向かって走りだした。
ランプに照らされたテントの中で踊りを終えて娘はしたたる汗を拭きとると、わきにあった水差しの水をついで、喉を鳴らして飲みほした。
汗にまみれた衣装を着替えようと、服の裾に手をかけて頭に向かって引き上げた。「ほう。いい眺めだな。」
被った服であたりが見えないうちにかけられた男の声に、娘は驚いて服をまた急いでかぶり直した。
「誰!」
娘は睨みつけるように、テントの入口に立たずむ長身の男に向き直った。
男は口もとに笑みを浮かべ、テントの中へと入ってきた。
燃えるように赤い髪に、挑戦的に光る、髪の色とは逆の凍るように冷たい青い瞳をした端正な顔だちの男がそこにはいた。
この無礼な侵入者を激しい怒りの炎を燃やした瞳で、娘は睨みつける。「お嬢ちゃんはなかなかいい瞳をしているな。ますます気に入ったぞ。」
「あなたは誰よ!失礼じゃないの。私は着替えをしていたのよ。」
「フッ。別に俺のことは気にせずに着替えたらどうだ。その方が俺もうれしいからな。」
「なんて無礼な男なの。出ていって!」
「そうつれないことをいうなよ。俺はオスカー。この町の領主だ。」領主と聞いて娘は、この町の人々がうわさしていたことを思い出した。
この町の領主は、「赤い炎」の異名を持つ美丈夫で、戦においては百戦錬磨の兵、そして有名な女好きだという。「その領主様が、私に何のようなの。」
「まずは名前を聞こうか?俺は名乗ったのだからな。」娘はいまだにその瞳に炎をともして、オスカーを睨みつける。
オスカーはその瞳を見つめているだけで、ゾクゾクと背筋に快感が走った。「アンジェリークよ。青い炎のアンジェと呼ばれているわ。」
「アンジェリーク。青い炎か、おまえにぴったりな名だな。」そう言うとオスカーは、すっとアンジェリークの顎に手を伸ばすと、いきなり彼女に口づけた。
「つっ!」
小さな苦痛の声とともにオスカーがアンジェリークをキスから開放すると、その唇から一筋の赤い血が流れた。
「なかなかやるな。」
「私は娼婦じゃないわ!馬鹿にしないで!夜の相手なら町の娼館にでも行きなさいよ!これ以上私に変な事をしたら許さない。」唇の血を舌でなめ取ると、オスカーはそのアイスブルーの瞳に獲物を狙う野生のオオカミのような妖しい光りをゆらめかせて、アンジェリークを見つめた。
「俺は娼婦なんて買ったことはない。夜の相手には事欠かないんだ。それよりも、おまえが気に入った。俺の物にならないか。」
危険な瞳のオスカーにたじろく様子も見せず、アンジェリークはオスカーを睨みつける。
「お断りよ!私あなたみたいな無礼な人は大嫌い!あなたのいいなりにはならないわ。」
「ふふ。本当に面白い女だ。必ずお前を俺のものにしてみせる。今日はまあ、おとなしくひいき下がってやる。次はこうはいかないぞ覚悟しておくんだな。」オスカーはもう一度アンジェリークを強引に組しいて、唇を奪うとテントを出ていった。
アンジェリークは血の味とするキスに唾を地面に吐き捨てた。