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「いやぁー!!何するの!」

アンジェリークは、オスカーに抱えられたまま手足をばたつかせて抵抗した。
その拳が当たって少し顔をしかめながら、オスカーはアンジェリークに脅しを入れた。

「暴れるな!落ちたら死ぬぞ。」

その声にハッとして、アンジェリークは抵抗をやめた。
だがその眼には激しい怒りの炎が燃えあがっていた。
オスカーはその瞳に睨まれて、ゾクゾクとした快感を味わって笑った。
馬はオスカーの屋敷に乗り入れられ、オスカーは屋敷の入口で馬から降りると馬を預け、アンジェリークを抱えて屋敷の中へと入っていった。
アンジェリークはその美しい屋敷に圧倒されたが、すぐに激しい口調でオスカーを非難した。

「おろして!この人さらい!」
「お前は本当に炎のような女だ。」

オスカーはそう言ってまた口もとに笑みを浮かべた。
そして、まっすぐ自室へ向かい、アンジェリークをベッドの上に放り投げた。
ベッドの上で臨戦態勢をとってアンジェリークは身がまえた。
オスカーは、そんなアンジェリークをまじまじと眺め満足そうに笑った。

「いったい何なの!私をどうしようっていうのよ。」

かみつくように吠え立てるアンジェリークにオスカーはずいと近づくと、

「前にもいったと思うが、俺の女にならないか?」

即座に飛んできた平手をオスカーは片手で受け止めた。

「バカにしないでって言ってるでしょ!誰があなたなんかの女になるもんですか。」

オスカーにつかまれた腕を引き抜こうともがきながら、アンジェリークは言い放った。
オスカーはまた満足そうに微笑んだ。

「本当におまえは珍しい女だ。俺は初めて会ったぞ。これほど俺に逆らう女はおまえだけだ。ますます気に入った。」

オスカーはそう言うと、アンジェリークを押し倒して上に覆いかぶさった。

「やめて!!いやよ!」

アンジェリークは必死になって抵抗した。
オスカーはかまわずアンジェリークの唇を奪った。
その激しいまでのくちづけを逃れようとすればするほど、オスカーによってその舌を絡み取られて、アンジェリークは次第に息が上がって頭の芯がぼーっとなってきてしまった。
それを見計らって、オスカーはそのくちづけを次第に首筋へとはわせた。
急に訪れた痺れるような快感にアンジェリークは思わず声をあげた。
オスカーは女ったらしといわれるだけあって、女のツボを心得ている。
どんなに抵抗しようと、オスカーは女の性を思い出させるすべを知っているのだ。
その口がはだけられたアンジェリークの胸に至る頃、アンジェリークはこの生まれて初めての感覚に必死の抵抗試みて、オスカーの頬を思いっきり打った。
赤く手のひらの跡のついた頬さすって、顔をアンジェリークの胸元から上げたオスカーにアンジェリークは怒りの炎をぶちまけた。

「げすな男ね。あなたのやろうとしていることは強姦じゃない。なんでも思い通りになるなんて思わないで。」

オスカーはそれでもなお嬉しそうに笑う。
そしてアンジェリークの手をとり、その甲に軽く口づけた。

「俺はお前のような炎のような女を探していた。俺に付属するものに群がる女は嫌というほど見てきた。だがお前は違うのだな。ここまできても俺を拒む。そんな女を探していた。」
「そんなこと当然じゃないの。私はあなたのことを愛していないのよ。」
「だからいいんだ。今までの女は、俺の地位、名声、そしてこの容姿や夜の相手として、そういったことに群がる虫みたいなやからばかり。本当の俺などに目を向けるものはいない。何かしら自分に得することばかり考えて俺に近づいてくる。だがおまえは違う。」
「………。」

オスカーの瞳に淋しさとともに、アンジェリークに対する熱い思いがあふれていて、アンジェリークを戸惑わせる。

「おまえは俺の外に見えるすべてを拒否した。俺の愛撫をはね退けたのはおまえがはじめてだ。俺は本気でおまえに惚れたぞ。今度からは、おまえに無礼を働くのはもうやめよう。それが俺のおまえに対する思いだ。」

そう言うとオスカーはもう一度アンジェリークの手の甲に恭しくくちづけると、彼女ベッドから下ろし乱れた服を整えさせた。

「今日はすまなかったな。一座のいるテントまで送ろう。」

なんだかわけがわからず茫然とするアンジェリークに、オスカーは優しい微笑みを見せた。
そしてアンジェリークの手をとり、まるでレディーを隅するように丁重に玄関へと案内していった。

 

馬上でもオスカーは、さっき自分に乱暴を働こうとした男とは思えないほどの紳士振りで、アンジェリークを扱った。
アンジェリークはその豹変ぶりにあっけを取られて、頭の中が混乱していた。
あんなに頭にきて、いやなやつだと思っていた男が、自分を本物の女性として認め敬ってくれることにアンジェリークは戸惑っていた。
アンジェリークはオスカーが、物や才能、すべての物に恵まれているはずなのに限りなく孤独で哀れな存在に思えた。
すべての人を信じることができず、世の中に怒りの炎を燃やしている。
まるで昔の自分のようだとアンジェリークは思った。
自分はクラヴィスやリュミエールに出会って救われた。
オスカーはそれを自分に求めているのだとアンジェリークには思えた。

 

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