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屋敷の前に立つアンジェリークは息を切らし、肩が激しく上下していた。
汗のために貼りついた髪や服が、彼女をいつにも増して色っぽくしていた。
息を整えたアンジェリークは、ゆっくりとした歩調で門番に近づいた。「すみません。あの…ご領主様にお会いしたいのですが。」
はやる気持ちを抑えて、なるべくしおらしく、愛想よく、アンジェリークはいった。
門番はあからさまに不審な瞳を向け、アンジェリークをなめるように眺めた。「御主人様にだと?おまえのような旅芸人がお会い出来ると思っているのか?だめだだめだ、さっさと帰れ。」
邪険にそう言われて、アンジェリークの心はいきりたったが、それでもそれを抑えてもう一度懇願した。
「お願いです。オスカー様に会わせてください。」
オスカーの名が出たことで、門番は何やら勘違いをしたようだ。
「なんだ、おまえはご主人様の夜の相手だったのか。だが今はおまえのような商売のものを入れるわけにはいかないだ。さっさと帰って他の客でも取るんだな。」
アンジェリークは、娼婦とまちがわれたことで今まで抑えてきた炎に火がついた。
激しい怒りの炎を瞳に映して、アンジェリークは吠えたてた。「私は娼婦じゃないわ!バカにしないで!!」
その激しさに門番が圧倒されていると、外の騒がしさを聞きつけたランディが門に姿を現わした。
「あれ?君は……。」
アンジェリークを見たランディは、驚きの声をあげアンジェリークに近づいた。
「…?」
ランディを知らないアンジェリークは、怪訝な顔つきでランディを見つめ、収まりきらない激しい怒りを漲らせていた。
「君はあの旅の一座の踊り子だろう?祭の日に君の踊りを見たよ。」
アンジェリークの表情などお構いなしに、人なつこい笑顔でランディは話しかけてきた。
「あのなんて言っていいのかわからないんだけれど、君の踊りはきれいだった。オスカー様も見とれていたからね。」
ニッコリと笑うランディにアンジェリークの怒りも徐々に収まっていた。
「で、今日はどうしたの?何かお屋敷に用事かい?」
ランディの言葉に、本来の目的を思い出し、アンジェリークはランディにすがるように言った。
「私、オスカーに……いえ、ご領主様にお会いしたいの。」
美しい翡翠のような瞳に見つめられて、ランディの顔が真っ赤になるのがわかった。
「オ・オスカー様に?」
「ええ…。私ご領主様にあって言わなくてはならないことがあるんです。ですから、お願いです。ご領主様に会わせて下さい。」真剣なまなざしで訴えるアンジェリークに、ランディはドギマギしながらついうなずいてしまった。
「え?本当ですか?あ・ありがとう!!」
アンジェリークはあまりのうれしさに、ランディにとびつくように抱きついた。
「ウァーア!!」
急に自分にしがみついたアンジェリークに、驚いてランディはあられもない声を上げる。
「あら、ごめんなさい。ついうれしくて…。」
小さな赤い舌をチロっと出して、アンジェリークが肩をすくめる。
ランディはそれを見て、胸がドキドキが収まら無くなってきた。
アンジェリークを案内して、ランディはオスカーの私室の前にやってきた。
アンジェリークは以前一度来たことのあるこの部屋のドアの前まできて、胸の高鳴りが頂点に達してきた。「オスカー様、よろしいでしょうか。」
ランディがドアをノックして、問いかけると中からあのオスカーの魅力的な声が聞こえて、アンジェリークは思わず顔が赤らみ、目が回りそうなくらいドキドキしていた。